著者
シャヒーム エラヒ 藤川 浩
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.138-142, 2020-08-25 (Released:2020-10-02)
参考文献数
20

黄色ブドウ球菌食中毒は食品中で産生されたブドウ球菌エンテロトキシン(SE)によって起こる.本食中毒はSE型の中で多くの場合,エンテロトキシンA (SEA)が原因物質である.各種食品中での本菌の増殖とSEA産生に関する研究は多いが,パンに関する研究はほとんどない.そこで本研究では通常のパン製造工程において,パン生地発酵中のブドウ球菌増殖とSEA産生性,さらに焼成中のSEA失活について検討した.25または35℃で4時間の発酵中,パン生地(全重量約470 g)中での本菌増殖およびSEA産生は認められず,このような条件の発酵中,生地におけるSEA産生リスクは無視できるほど小さいと推察された.一方,生地に接種したSEA (6.0および0.56 ng/g)は200℃の焼成中それぞれ20および10分後には検出できなかった.この結果は生地の焼成時間(25分)でこれらの濃度のSEAを十分に失活させることを示した.本研究で得られた製造過程における生地中のSEA産生および失活の結果はパン製造における微生物学的な食品安全のための有用な情報となるであろう.