- 著者
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シュワルツ ディートマー
- 出版者
- 宝石学会(日本)
- 雑誌
- 宝石学会(日本)講演会要旨
- 巻号頁・発行日
- vol.26, pp.1, 2004
エメラルドはベリル族の一種で、主に豊富な元素であるシリコン(Si)、アルミニウム(Al)、酸素(O)で構成されている。4番目の主要な構成元素ベリリウム(Be)は地球の地殻上部では希少であるため、ベリルはあまり一般的な鉱物ではない。<BR> ベリル族の中で最も価値が高いとされるエメラルドについていえば、生成の条件はかなり特殊である。エメラルドに明るい緑色をもたらしている元素(クロムCrとバナジウムV)は、地球の地殻上部ではなく上部マントルの岩石中に凝集されている。そのため、エメラルドに必要なこれらの元素を全て集めるためには、特別な地質学的及び地質化学的条件が必要となる。通常この条件はプレート・テクトニクスの作用を通して生じる。<BR> 必要な元素が一旦集まると、エメラルドは様々な地質学的環境下で結晶化することができるが、こうした環境は一般的に非常に不安定である。他のベリル(アクワマリンなど)が極度の不安定性無く継続して成長可能な比較的穏やかな環境下で発達するのに対し、エメラルドは急激な変化や力学的応力などに象徴されるような地質環境で形成される。エメラルドの結晶が一般的に小さく(ベリル族の他の変種に比べて)、そしてひび割れや固形の異種鉱物インクルージョンなどの内部欠陥を伴うのはそのためである。エメラルドの結晶は力学的耐久性が低く、河川の運搬による衝撃には耐えられない。したがって、エメラルドは第二次鉱床で発見されることはほとんど無く、経済性のあるエメラルド鉱床は全て第一次的な岩石中に見られる。<BR> エメラルドの鉱床には様々な起源のタイプがあるが、大きく分けて二つに分類される。(1)ペグマタイトに関連したエメラルドの結晶化と、(2)ペグマタイトに関係しないエメラルドの結晶化、である。ナイジェリア中央部のエメラルド/ベリルの形成にはペグマタイトが関係している。こうしたペグマタイトには片岩シームは見られず、エメラルドは花崗岩のがまやペグマタイトのがまの中から見つかる。ウラル山脈(及びアフリカやブラジルの一部の鉱床)では、片岩シームのあるペグマタイト(及びグライゼン)が見られ、エメラルドはペグマタイトや金雲母の片岩(特に接触部分)から見つかる。<BR> 二つ目のタイプのエメラルド鉱床は、変成岩質片岩(例えばオーストリアのHabachtalや、パキスタンのSwat渓谷、ブラジルのSanta Terezinha de Goias、アフガニスタンのPanjshir渓谷など)や、鉱脈や角礫岩を伴う黒色頁岩(コロンビア)に関係している。<BR> エメラルドの鉱床は五大陸にあることが知られており、中でも南アメリカは長年にわたり最も重要なエメラルドの産地とされている。エメラルドはほとんど全ての地質年代において生成されてきた。エメラルドの生成は大陸衝突時に最も頻繁となる。このとき大きな山脈や幅広い断層帯、局地的な変成作用の再現などが発生し、ひいては隆起や浸食につながる。こうした全ての出来事はエメラルド鉱床の形成に有利に働く。したがって、エメラルドは地球の地殻の最も古い宝石の一つとなりえるのである。エメラルドの最古の鉱床は南アフリカのトランスバールにある始生代の岩石にある(およそ30億年前)。地球で最も新しいエメラルド鉱床は、パキスタンで見つかっており、Swat渓谷(2300万年前)とKhaltaro(900万年前)である。<BR> 今回の講演では、世界中にある重要なエメラルドの鉱床における状況(経済基盤や、採掘状況、生産状況など)について詳細に見ていく。例えば、南アメリカ(コロンビアとブラジル)、アジア(ウラル山脈、パキスタン、アフガニスタン)、アフリカ(エジプト、ザンビア、ジンバブエ、マダガスカル)など。<BR> エメラルドの特定の鉱物学的宝石学的特性に関しては以下の点について論じる。<BR> (1)インクルージョンの特徴、<BR> (2)化学的な詳細情報、<BR> (3)吸収スペクトル、<BR> (4)光学的データ。<BR> こうした特性に基づいた、エメラルドの起源決定における目標、基準、限界についても取り扱う。