著者
ジョンソン デイビッド
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
no.33, pp.46-66, 2008-10-20

日本の刑事施設への拘禁率は,1992年から2007年までに75%増加している.他国と比較すると,この増加率は異常なものではなく,少なくともアジアの他の7ヵ国では,同じ期間にさらに高い増加率を見せている.日本が他のアジア諸国と異なるのは,拘禁刑の適用と死刑の適用の双方が近年増加しているという点にある.他のアジア諸国には,同様の状況は見られない.この論文では,日本の拘禁刑と死刑にかかわる政策状況と他国のそれとを比較している.特に,「penal populism」-より厳しい刑罰を望む世論を満足させるための政治的な動き-が,大半のアジア諸国の政策において,死刑の適用を促進させる方向に向かわせるものではないことを述べる.日本において,「penal populism」は,最近見られる死刑適用の再活性化に影響を与えている要因のひとつとされているようだが,「指導者によるリーダーシップ(leadership from the front)」が少なくとも重要な要因であると考えられる.将来的に,死刑廃止を求める国際基準の影響を受けて,(明治時代のはじまりから30年間に死刑執行が97%も落ち込んだように)日本が死刑の適用を縮減するのか,または,日本の歴史上顕著に見られる別の傾向,すなわち他の民主国家からの普遍化の要求(universalistic claims)を無視するという傾向のほうに従って,死刑が維持されていくのか,について予測を述べることは難しい.最後に,日本における人権の絶対性に対する反感は,同国に最近見られる死刑適用の再活性化を抑制し,結果的には死刑を廃止しようとする努力に対して,大きな障害となるであろう.