著者
ダビターヤ F. F.
出版者
Tokyo Geographical Society
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.154-158, 1967

自然は絶えず変化している。自然のままの状態では気候の変化が最も速やかに行なわれ, 植生や地形の変化は何世紀, 何十万年という速度で進行する。しかしいったん人為が加わるとそれぞれ変化の速度が異なってくる。人為の影響を受けやすいのは植生で, 気候はいちばん遅れて変化が現われるようになる。気候・植生・土壌などによる地域区分の境界線が一致しないのは, それぞれ変化の速度に違いがある以上当然だといえる。<BR>今世紀になってから人間の活動はますます活発になって, 森林の減少, 草原の砂漠化, 河川の汚染, 地たりの激化などが急速に進んでいるので, このままでは大きな弊害が生ずるであろう。影響を受けるのが遅いはずの気候でさえも人間の影響を無視できなくなってきている。Budykoの計算 (1962) によると年々太陽から得ている熱量は49kca1であるのに対して, 世界中の人間が出している熱量は0.02kcal/cm<SUP>2</SUP>/yrであるが, これが毎年10%ずつ増えているとすると100年以内に太陽からの熱量に匹敵する量になる。また, 人間活動によつて大気中の炭酸ガスの量が増加して気温が上昇することも考えられる。一方, 水蒸気量や雲量や塵埃量の変化がこれらの効果を強めたり弱めたりする。量的な研究はまだ進んでいない。<BR>最近50~100年間に気温の上昇が認められている。1940~50年から再び下降の傾向を示しているが, 上昇がもう終わってしまったのか, 一時的な変動であるのかは今のところわからない。気候の温暖化と氷河の後退との関係はなかなか複雑で一義的には決まらない。気候温暖化の主因は大気大循環にあると考えられているが, 地球全体が温暖化することを説明できない。炭酸ガス説も不十分である。人工発熱量も現在までのところ問題にならないくらい小さい。<BR>そこで気候温暖化の一因に大気中の塵埃量の増大が考えられる。ここに逆説的な観測事実が二つある。一つはコーカサスと中央アジア地方の高山で過去50~70年の間に, 降水量は同じか増加し, 気温は下降の傾向を示しているのに氷河が後退していること, もう一つは融けっっある氷の表面の温度が0度以上であることである。これらは最近大気中の塵埃量が増えてきていることで説明がっきそうである。<BR>大気中の塵埃は宇宙塵, 海成の塵埃, 火岸灰による塵埃, 風成の塵埃, 工業による塵埃などであるが, 最初の三つは少量で変化も小さい。大気中の全塵埃の70~75%を占める風成の塵埃は森林の伐採, 耕地の開拓などによつて近年急速に増加した。工業による塵埃も相当量にのぼる。ソ連各地の直達日射量の観測結果からも1920年ごろから塵埃量が著しく増加したことがわかる。<BR>このような最近の自然現象の変化の方向や強さを研究するためには, 全地球的規模の計画に従つて同時観測を実施することが必要である。そしてこのような観測の計画を樹てるためには世界各地の地理学者の協力がなければならない。