著者
高橋 春成 ティズデル C.A.
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.66-72, 1992-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
12
被引用文献数
2 3

わが国には再野生化または半再野生化動物はまれであるが,西表島には再野生化あるいは半再野生化したブタ(イノブタを含む),ヤギ,ウシが生息している。 ブタについては,これまでにも在来のブタの離脱とそれらとリュウキュウイノシシの混血が指摘されてきた。近年でも,内離島や外離島でイノブタ(リュウキュウイノシシ×ランドレース)が再野生化状態にあり,一部は本島に侵入している。また,本島でもイノブタの離脱が生じた。近年のイノブタの離脱の要因は,粗放的な飼育方法や管理の不行届きに求められる。これらのイノブタもまた,リュウキュウイノシシと混血しているものと推測される。西表島で,再野生化したブタの集団が形成されないのは,在来のイノシシ集団に何らかのかたちで吸収されているためと考えられる。ブタやイノブタの離脱によるリュウキュウイノシシとの混血は,リュウキュウイノシシの遺伝子を撹乱するため,在来動物の保護の点から問題がある。 ヤギとウシの場合は,同島にそれらの原種が生息しないため,混血や原種集団へのとけこみが生じることがない。現在みられるヤギの再野生化は,近年の森林伐採作業用キャンプ地の撤去に伴なう遺棄や台風による小屋の破損などのために生じた。近年,ウシもまた一部が内離島,外離島,本島西部で再野生化状態となっている。これらは,管理の不行届きが原因である。当地では,再野生化したヤギやウシによる在来の植生への影響が生じているものと推測される。 西表島では,行政当局によるこれらのイノブタ,ヤギ,ウシに対する関心は高くない。それは,これらの頭数が多くないこと,在来の動植物への被害状況が不鮮明であること,農業被害がほとんどみられないことなどによる。しかし,西表島は大部分が国立公園に指定されていることから,特に在来の生態系への影響に注意する必要がある。