著者
デラコルダ川島 ティンカ
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.93, no.1, pp.125-145, 2019 (Released:2019-09-30)

中・東欧の旧社会主義国では、かつて宗教統制がおこなわれていたものの、現在は宗教の多様化が進んでいる。ミサ参列率の低さにあらわれているように、組織宗教は独占的な立場ではなく、宗教の個人化傾向もみられる。聖地巡礼の盛行はこうした傾向を示しているものといえよう。本論では、ボスニア・ヘルツェゴビナの聖地メジュゴリエをとりあげ、巡礼における民衆宗教性について考察する。分析対象となるのは、スロベニアからのバス巡礼に参加した巡礼者たち、ツアー・リーダー、巡礼の経験者などである。巡礼者の動機や行動の観察を通じて明らかになったのは、巡礼者らが教会組織からの束縛を忌避し、自発的な宗教的体験を求める傾向を持っていることである。カトリックの公式な聖地ではないメジュゴリエの宗教的自由が、そのような巡礼者を惹きつけているといえる。絶対的な宗教的権威からはなれた個人的な宗教経験を求める姿は、スロベニアの民衆宗教性を示していると考えられる。