著者
ナウファル A.S.M.
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.225-247, 1988-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
32

スリランカ最大の内陸都市キャンディは,16世紀末から19世紀始めまで,シンハラ王国の首都であった。しかし, 1815年に同王国がイギリスの植民地の支配に降って首府が島の西海岸の主要港湾都市コロンボに移されたため,キャンディは旧王宮,仏歯寺,要塞などを残すだけの古都となった。後に,茶プランテーションの隆盛と共にその生産物集散地としての機能が付け加わる。 1948年の独立以降は,伝来の宗教・文化的機能の外に,地方行政,教育,商業,サービス関係の中心地として,活況をとり戻している。 この歴史過程で,キャンディはシンハラ人の外に幾つもの民族集団が市内で同居するようになった。これら異なった民族間の居住パターン,つまり「住みわけ」問題を分析するのがこの論文の目的である。その場合,分析の対象とする民族としてはシンハラ,タミル,ムスリムに限定し,また,その分析の基準としては特化係数 (Representation Ratio), 相違指数 (Index of Dissimilarity), 住みわけ指数 (Index of Segregation), 集中化指数 (Index of Centralization) を採用し, 1985年に行ったフィールド調査にもとついて分析した。 その結果明らかになったのは, (1) 市内全域でみた場合,優勢民族集団であるシンハラ人は,特定の集中居住地区を持つのではなく, 23区に分散して居住が見られるのに対して,少数民族集団であるタミル人及びイスラム教徒のムスリムの場合は都心の商業地区ないしそれに近い地区に集中居住するパターンが確認されたこと, (2) 居住地の空間分布は社会,経済的レベルによってそのパターンを異にすること,つまり高所得者層の居住地区では居住も生活の様式も非常に均質であり,また低所得者層の居住地区でも民族集団は混在し,明瞭な住みわけが確認できないのに対し,中間の所得者層の居住地区では相互に異質性,相違性が高く,住みわけが起こりやすいこと, (3) 客観的に観察できる相違度はシンハラとタミルの間で最も高く,次にシンハラとムスリムの間であり,タミルとムスリムの間では相違度が最も小さいことなどである。また, (4) 集中化指数を見た場合も,ムスリムとタミルが都心により近い地区に集中していることが明らかになった。