著者
フィッツジェラルド リン ムーン フィリップ
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : 日本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.7-27, 1997-03-24

企業は,財務的な業績指標だけでは表すことのできない広範な領域で競争しているのだという認識は,ますます広まりつつある.この論文は,こんにちの顧客オリエンテッドな競争戦略の中で,品質,サービス,フレキシビリティーといった要因をとらえるための非財務的な指標を開発しようとするものである.サービス業ではこの試みはさらに難しい.サービスは消えてしまう(保存ができない)ので,製造業のように需要の変動に備えて在庫管理のポリシーを用いるというわけにはいかないからである.その上,サービス提供の場では,比較的若い従業員が顧客と接触することが多く,サービスの質を一定に保つことがむずかしい.この論文は,業績のいい2つの英国企業,つまり職能的専門家としてのサービスを提供するアーサー・アンダーセン社,および,マス・サービスを提供するTNT社をとりあげ,この2社が採用しているアプローチを検討することによって,サービスが業績評価システムに与える影響を考察する.両社の業績評価システムには3つの共通点と2つの相違点がある.3つの共通点とは,Clarity(明瞭さ),つまり組織に属する一人一人に戦略がはっきりと伝えられること,Consistency(首尾一貫性),つまり採用されている業績評価システムが全社戦略にそっていること,およびRange(評価の範囲),つまり業績評価は財務指標だけでなく,非財務的な指標でもなされるというように範囲を明示していることである.一方,2つの会社の相違点は,サービスの質を測るために用いられるメカニズムと,サービスにフレキシビリティーをもたせるためのアプローチの仕方,および業績評価の仕方という諸点についてである.