著者
ブッシイ アンヌ 福島 勲
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.259-282, 2007-09-30 (Released:2017-07-14)

現在も生き生きとした神仏習合的な信仰と実践が続けられていることは民俗学と民族学を研究する者に多くの問いを投げかけている。本論の出発点もそうした問いの一つである。現代の宗教世界にこうした信仰と祭祀形態が必要とされる理由は何だろうか。明治の専横的な「神仏分離」は、「日本固有」とされたものから「外来宗教」とみられた要素を排除するだけでなく、日本社会に根づいている信仰生活と祭祀を切り離すことを狙うものだったが、この断絶を横断して、神仏習合的な信仰を継承させた力学とは一体どんなものだったのだろうか。修験道と巫覡、巫者、行者たちに関する実地調査は、継承のいくつかを可能にした回避、隠蔽、交渉の戦略を明らかにしている。しかも、神仏の信仰対象が入り混じり、まとめて「カミ」と呼ばれている複合的な信仰は、個人や集団を社会の中に記載する記憶装置として機能していると考えられる。日本社会に限定されたこの研究は、より一般的に、始まったばかりの二十一世紀が抱える一触即発の状況、即ち、一方には専横的な宗教的運動と政策があり、他方には自分たちのアイデンティティを守るために地域住民や個人が取る行動や手段があるという緊張関係、を考察する一助となることを目指している。