著者
ブフ アレクサンダー ヴァシリューク スヴェトラーナ
出版者
法学志林協会
雑誌
法學志林 (ISSN:03872874)
巻号頁・発行日
vol.112, no.1, pp.206-171, 2014-09

本論文は,ソ連・ロシアを日本の「他者」とした場合の,自我と他者の視点から見た現代日本のナショナル・アイデンティティー形成を考察したものである。本論文では,冷戦時代にソビエト連合との関係で日本のアイデンティティ一を形成した2つ主な構成要素,すなわち政治および社会文化的榊成要素を明らかにしている。本ケーススタディーの前半では,これらの構成要因の源泉と性質を検討する。既存の日本に関する国際関係論の樹成主義(コンストラクティビズム)の主張とは異なり,本論文では,日本の戦後のナショナル・アイデンティティーは,国内外の双方に源泉を持ち,現代のアイデンティティーに関する言説の一部は戦前まで遡ることが出来ると論じている。本論文では,また,政治的および社会文化的アイデンティティーは,部分的には重複するものの,それぞれが異なった日本の「自我」の形成に繋がっていると論じている。本論文の後半では,両国間の関係に依然として悪影響を与えている領土問題に特に注目し,これらの異なった自我の形成が,ポスト共産主義のロシアとの日本の関係において,どの様な役割を果たしたかを検討している。