著者
飯田 香穂里 プロクター ロバート N Kaori IIDA Robert N PROCTOR
出版者
Latest Publisher : Elsevier(2004-)/ London
雑誌
Lancet = Lancet (ISSN:01406736)
巻号頁・発行日
vol.363, no.9423, pp.1820-1824, 2004-05-29
被引用文献数
13

日本では、第二次大戦後に喫煙率が急上昇し、それに伴い、現在、たばこ関連疾患による死亡率が急増している。20 世紀の大半において、日本のがんによる死亡原因第一位は胃がんだったが、1993 年に肺がんが胃がんを追い抜いた。日本では喫煙が肺がんの主原因であるが、政府が株式の2/3 を保有している日本たばこ産業(JT)は、たばこが疾病と死亡の大きな原因であるかどうかについて疑問を呈し続けている。日本の法廷には企業の内部文書を開示させる制度がないため、たばこと健康に関するJT の戦略について立証するのは困難である。しかし、オンラインアーカイブに保存されているアメリカのたばこ会社の内部文書によれば、JT は、喫煙による健康リスクについて長年知りながら、効果的なたばこ規制を妨害してきたことが明らかである。1980 年代半ばからは、アメリカのたばこメーカーとしばしば協力することで、このような妨害活動を進めてきた。〔アーカイブの〕証拠文書は、特に、フィリップモリスが、喫煙と健康に関するJT の対策や発表に対し助言、時には指導したこともあることを示している。JT の前身である専売公社が出版した論文のデータにおいて、報告された有害性指標値(空気中のニコチン濃度)が故意に低く変えられたという事例もある。国際協力により、JT を含むたばこ企業にとって、効果的な反禁煙(anti-antismoking)戦略の展開がより容易になっている。他の国々でも訴訟が始まれば、このような国際的な企業間協力の実態を明らかにする証拠が今後増えていくであろう。
著者
飯田 香穂里 プロクター ロバート N
出版者
BMJ Pub. Group / London (c1992-)
雑誌
Tobacco Control = Tobacco Control (ISSN:09644563)
巻号頁・発行日
2018-02-04
被引用文献数
65

目的:日本たばこ産業株式会社(JT)が、研究助成機関である喫煙科学研究財団を1986 年になぜどのように設⽴したのかを調べる。また、この財団が⽇本におけるたばこ政策と科学にどの程度影響を及ぼしたのかを探る。⽅法:最近の⽇本国内の訴訟資料、出版されている⽂書、「Truth Tobacco Industry Documents」アーカイブに保存されているたばこ業界の内部⽂書等を分析した。結果:たばこ規制に対するJT の対策は、1980 年代半ば、JT ⺠営化に伴って強化された。⼤蔵省の保護下にとどまったものの、半⺠営化された会社には、(これまでと同等の)「政治家とのパイプ “access to politicos”」はなくなり、海外たばこメーカーとの連携の必要性が出てきた。その解決策の⼀つが、アメリカの会社と密かに情報交換をしながら進めた、第三者機関としての財団の設⽴だった。この財団には⽇本の科学的・医学的権威を取り込むことが期待されていた。政府や学界の影響⼒のある⼈物に守られ、財団は、国内外のたばこ規制政策に影響を及ぼすという⽬標とともにスタートした。財団から助成を受けた研究者は、国際学会、国内の諮問委員会、たばこ訴訟等に参加し、たばこの販売継続を可能にする環境づくりに貢献した。結論:財団は独⽴や中⽴を意図したものではないことが内部⽂書から明らかであり、JTの主張とは異なる。財団の設⽴は、1953 年にアメリカでスタートした業界による “たばこの害否定論キャンペーン” が、海外たばこメーカーの積極的な協⼒により、アジアに⼊ったタイミングを⽰すものと⾔えるだろう。