著者
マティアス キリアン 森 勇
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.329-340, 2016-12-30

ここに掲載するのは,Soldan Institutが行った,若手弁護士の副業に関する実態調査に基づいた都市伝説の検証である。 ドイツでは「弁護士(ないしは有資格者)が,タクシーの運転手をしている。」この話を訳者が聞いたのは,実に30年以上も前,ドイツの弁護士数が5万人から6万人の時代である。弁護士数が16万人を超えている現在では,さぞや弁護士のタクシードライバーが増大していると想像する人々も多いであろう。しかし,すでにベルリンの弁護士会がその所管地域で行った調査でも,タクシードライバーの中に弁護士などいなかったことが報告されていた。ここで訳出した論考は,実態調査をふまえ,加えて論理則からしても,それがほぼデマであることを暴露してくれている。弁護士のタクシードライバーなど論理的にありえないとする実態調査の分析評価は,実に説得力に富む。 ちなみに,ドイツでタクシードライバーの話がまことしやかにささやかれるようになったのは,弁護士の数がそれまでの増加率を大きく超えはじめた頃である。「弁護士はあまっている。食べられなくなっている。」とささやかれている現在の日本とよく似ていることは,指摘するまでもあるまい。ドイツはデマとおぼしき話が何十年もが蔓延しているにもかかわらず弁護士数を増やし,強固な法治国家への道を歩んでいる。果たして日本はどうか。興味深いというのは皮肉に過ぎようか。