著者
村田 俊明 ムラタ トシアキ Toshiaki MURATA
雑誌
摂南大学教育学研究
巻号頁・発行日
vol.5, pp.65-82, 2009-01

最近における教育改革の中で、教員の資質向上に係る動向が注目される。教員免許法改正を機に、教員の人事考課、教職大学院、免許更新制の導入、自治体による教師養成塾、あるいは高等学校における「教育コース」の設置の動きなどがあり、教員養成のあり方を抜本的に問い直すべき状況がある。本稿では、一部自治体あるいはその教育委員会による「教師塾」開設の動きについて考えてみたい。東京都をはじめとして、大阪府・市、堺市、京都市などに「教師塾」が設けられ、特に教員確保が喫緊の課題であるいくつかの大規模都市自治体では、行政が教員養成の一端を担い始めている。規制緩和と分権化が推進される教育改革の下で、「大学養成制」と「開放制」を原則としてきたわが国の戦後教員養成制度が、新自由主義と新保守主義による改革の波に揉まれつつある。そこに教員養成そのものを行政責任の対象と捉え、大学における教員養成を主導し、場合によっては大学の養成段階を飛び越す構造へ向かう契機と問題性が含まれているのではないか。本研究の意図は、大学で教師養成に関わる一教師として、この動向をどう考えたらよいかを考察するものである。そこで、自治体およびその教育委員会による「教師塾」の取り組みを整理し、開設の背景とその問題に関する研究の覚書としたい。「教師塾」とは何なのか。わが国の教員養成・採用・研修政策上、どのように位置づけられるのか。「教師塾」の何が問題なのかといった点について考察した。