著者
ヨーダー ロバート. S.
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
no.12, pp.125-140, 1987

本稿は,神奈川県下の対照的な2つの地域に居住している少年たちにイソタビューを行ない,彼らの教育歴を基にして,不良行為のパターンを比較検討したものである.本稿では,この2つの地域を「南」と「北」と呼ぶことにする.例えば,社会経済的に中の下の階層に属する人々が多くを占める地域(南)に居住している少年たちにおいては,中の上の階層の人々の住む地域(北)の少年たちに比べ,不良行為の平均行為回数が非常に多い,ということが公式資料によって明らかとされている.この南と北の少年たちの不良行為経験の差の基部には,環境条件と両親の社会階層的背景が生み出す学歴の質の差が作用していると考えられる.南と北,2つの少年集団が通学しているそれぞれの中学校は,各地域やその周辺地域の社会経済的水準を反映したものとなっている.南の少年たち全員は,いわゆる荒廃した中学校へ通い,これに対し,北の少年たちは平穏な中学校あるいは私立の付属中学校に通っている.南の少年たちは,北の少年たちに比較し,学業成績は低く,多様で多量な学校問題を抱えている.結果として,北の少年では,大学進学率の劣る低ラソクの高校卒業者は15パーセソトでしかないのに対し,南の少年では,これが40パーセソトにも達している.例えば,低ラソクの高校の生徒は,多くの者が不良行為を働き,その回数も多い.これら低ラソクの高校では,高ラソクの学校よりもより生徒を厳しく管理する.そのことがまた,低ラソクの高校の多くの少年たちを反抗させ,不良行為へと走らせる原因ともなっている.学校のランクはまた,少年たちの最終学歴の到達水準に関連する.高ラソクの高校へ通った少年たちの半数が大学に進学したのに対し,低ランクの高校の少年たちでは,わずかしか大学進学者がいなかった.さらにその上,北の少年たちの多くが,大学に進学したのみならず,出身家庭が社会経済的に豊かであることから,非常に授業代の高い職業学校(専門学校)へも同時に通学しているのである.本稿は,以上の様な事実に対し,レベリソグ理論を適用し,結論づける.日本の社会においては,刻印づけによる社会的統制が,低階層の少年たちの通う学校に対し厳しく作用している.こうした問題な社会的統制が,少年の不良行為のみならず,今日の日本社会を覆う陰鬱な学歴問題を生じさせる主要な原因と成っている,と考察される.