著者
ワトリング ロイ
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.jjom.H09-169, 1998 (Released:2023-03-31)
参考文献数
34

菌学の歴史におけるアマチュアの役割は,まず食物としてのきのこ採集に始まり,それが現在の活動に繋がっていることをたどってみました.そしてここでは特に,18世紀から19世紀及び今世紀前半にかけて,もっぱら菌類だけを研究したアマチュア,あるいは広く博物学の一環として菌類を研究したアマチュアの中で,最も重要な役割を果たした人々に注目しました.そして,それらの人々が菌学の発展にどのような影響を与えたかをお話ししました.私たちが日常的に使っている菌類の学名には命名者の名前が付記されていますが,それらの多くがアマチュアであることは忘れられがちです.これらアマチュアの本職が何であったのか,彼らがどのような情報交換の網をひろげていたのかなどを紹介し,それらが生き物としての菌類の全体像を把握するのにどのように役立ったかをお話ししました.さらに,菌学会の設立と,それがどのようにしてアマチュア活動の中心となったか,また,どのようにしてプロの菌学者に必要な正確でよく整理された情報の源になったのかを考えてみました.私がここでお話ししたアマチュアたちが手がけた仕事は,1996年に100周年を祝った英国菌学会の活動を例としております. 西暦2000年の歴史の区切りを目前にした世界のいたるところで,これらアマチュアとそれに類する人たちが引き続きおこなっている仕事について述べました.多くの政府機関やそれらの顧問,とくに有力者は,分類学は先端的な研究ではないと勘違いしていますが,私はアマチュアたちは国家的に重要かつ必要な資源であることを強調したいと思います.さらに,アマチュアはこれから知識の保持者としてますます重要な役割を果たすであろうこと―少なくとも科学に対する現在の誤った風潮が改善されるまで―を強調したいと思います.