著者
髙鳥 真 韮澤 力 橋本 尚幸 小林 麻衣 一ノ本 隆史
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.G0936-G0936, 2006

【目的】今回,2年次,3年次の臨床実習終了後のエゴグラム特性について調査し,学生の自我状態の変化と臨床実習成績の関連について検討した.本学では,2年次に3週間の臨床実習(いわゆる評価実習)と3年次に8週間の臨床実習を二期行っている.成績はいずれも優・良・可・不可または保留の総合判定として判断される. <BR>【方法】対象は,平成16年度に晴陵リハビリテーション学院理学療法学科3学年に在学した学生40名(男性18名,女性22名)で,調査は,2年次実習終了後(平成16年2月)と3年次二期目の実習終了後(平成16年12月)に行った.調査用紙は新版東大式エゴグラム(以下,TEG)を用い,学生には調査主旨を説明し了解を得た上で全員一斉に行い,38名(95.2%:3年次)の有効回答を得た.<BR> データ処理は,3年次臨床実習成績から成績上位群(二期間の一方で総合判定が優の10名)と成績下位群(二期間の一方で総合判定が可または保留の9名)の2群に分け,TEGの5項目(批判的親:CP,養育的親:NP,成人:A,自由な子供:FC,従順な子供:AC)について各々の平均値から各群のTEGパターンをみた.さらに両群の同一学生について,後方視的に2年次のTEG項目と3年次のTEG項目について対応のあるt検定(有意水準5%未満)を用いて比較した.<BR>【結果】成績上位群では,2年次でNPとFCが高い「M型:優しく世話好きで他者からかわいがられる」,3年次ではNPを頂点とし次いでAが高く,他が低い「台形型:自己偽性をしても他人に尽くす指導者的」を示し,群内比較においてACで有意に3年次が低かった(p<0.05).成績下位群では両学年ともにNPとACが高く,CPとAが低い「N型:依存的で現実に即した行動が出来ない」を示し,いずれの項目でも学年間での有意な変化はなかった.<BR> 【考察】医療職に求められるTEGパターンは「台形型」と言われている.今回,成績上位群の3年次でこのパターンがみられた.NPは親身になって世話をするという自我を示し,Aはその値が高いと物事を論理的に判断でき,低いと合理的に判断することが困難となる.また,ACが相対的に低位を示すと行動力があるとされる.つまり,成績上位群では,より医療職に適した自我へと変化しうる背景が2年次に現れており,3年次の臨床経験によって自己概念の形成が適切に行われたと言える.<BR> 一方,成績下位群では学年間に変化がなく,ともに「N型」を示した.AC高位では主体性に欠け,さらにA低位を伴うと依存的傾向が強まり,問題解決が難しくなると言われている.故に成績下位群では,学年間においても自己概念の形成が行えず,臨床実習成績に影響を及ぼしたと考えられる.以上のことから,ACが相対的に低位になる(行動力を身に付ける)ようにNPとAを伸ばす(思いやりや計画性を身に付ける)という,自己概念の形成を学生自らが認識するとともに,教員が共有して関わっていくことの必要性が示唆された.<BR>