著者
一井 真比古
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.281-286, 1982-09-15

水稲の飼料化栽培, 再生を利用した二期作栽培および農業形質の間接選抜手段としての利用において再生は重要な特性である. 再生は遺伝的変異を有する特性であるが, 株および根の内的ならびに外的環境条件によって変異するであろう. しかしながら再生に関する基礎的知見はきわめて少ない. そこで本報告では, 外的環境条件の一部である光および温度が再生に及ぼす影響について検討した. 出穂後10日に地上5cmで地上部を刈取り, ただちに30℃自然光(30L), 30℃暗黒(30D), 20℃自然光(20L)および20℃暗黒(20D)下ヘ移動し, その後の再生重, 再生草丈, 再生茎率および稈基重を調査した. 再生重は高温, 自然光下ほど大きく, 30L>30D>20L>20Dの順であった. 温度による差が光の有無によるそれよりおおむね大きかった. とくに自然光下では温度による差は顕著であった. 一方暗黒区では枯死する再生茎が刈取り後20日前後からみられた. 再生草丈は高温下で高かった. 出穂した再生茎が刈取り後20日前後の高温下ではみられたが, 低温下ではみられなかった. それゆえ高温下では再生草丈の伸長が遅くとも刈取り後20日前後に停止するようである. 再生草丈の光の有無による差は高温下で認められるが, 低温下では認められなかった. 再生茎率も高温下で大きかった. また再生茎率が最大に達するまでの日数も高温下で短く, 低温下で長かった. 温度の差に基づく変異の幅は再生重や再生草丈におけるそれより小さいようであった. 再生茎率は自然光区より暗黒区で少なく, 高温下では光の有無による差が認められるが, 低温区では認められなかった. 再生にとって重要な役割をはたすであろう稈基重はいずれの条件下でもおおむね直線的に減少し, 高温下での減少は低温下でのそれより顕著であった. しかしながら高温, 自然光下における稈基重の減少量は高温暗黒下におけるそれより少なかった. 再生茎葉それ自体が再生に及ぼす影響を知るため, 稈基重+再生重の刈取り後の推移をみた. 高温, 自然光下では再生茎葉それ自体が再生重の増加に刈取り後10日すぎから寄与するが, 低温, 自然光下では刈取り後20日以降でないと寄与しないようである. 一方暗黒下における稈基重+再生重が刈取り後わずかしか減少しないことから, 呼吸基質として利用される稈基の量はわずかであろう. 再生茎率は再生重や再生草丈より温度による変異の幅も小さく, かつ再生茎葉それ自体の光合成による影響も小さいと考えられるので, 農業形質の間接選抜の手段として再生を利用するのであれば, 再生重や再生草丈より再生茎率に注目すべきであろう. 再生重, 再生草丈および再生茎率のいずれもが高温下ほど旺盛であった. それゆえ水稲の飼料化栽培および再生を利用した二期作栽培にとって再生期の温度が高い地域が有利であろう.