著者
山下 幸紀 一戸 喜兵衛 ドーソン ジェフリー
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.450-458, 1979-04-01
被引用文献数
2

Carcinoembryonic antigen(CEA)活性を大量に含んでいると考えられている卵巣のムチン嚢胞癌の嚢胞液から,CEA様物質を分離,精製し,その物理化学,および免疫化学的性状を,3種の大腸癌由来の標準CEA(CEA-Montreal,-Hopelandl-Roche)と比較検討し,以下の結果をえた.1.過塩素酸(PCA)に抽出された分画のCEA活性は,CEA-Rocheと完全に交叉するCompetitive Inhibition Gurveを,Radioimmunoassay(RIA)により示した.2.しかし,PCA抽出分画には,大量のCEA活性が沈澱物中に失われていることが,拡大腸癌CEAに対するImmunodiffusion法により判明した.すなわち,PCA抽出分画は沈降線を示さなかったのに対し,従来注目されていなかった沈澱分画が,CEA-Monttrealと一部共通する沈降線を,抗CEA-Montrealとの間に示した.3.^<125>Iで標識されたPCA抽出分画,および,更にこれから分離されたConcanavalin A(Con A)結合性分画と,抗大腸癌CEAとのImmunoprecipateを,Sodium Dodecyl Sulfate (SDS) polyacrylamide Gel Electrophoresis (PAGE) により分析したが,標準大腸癌CEAのImmunoprecipitateが示す放射能活性ピークは認められなかった.4.PCA処理を行わずに,精製の第一段階に,Con A Sephalose 4B Column Chromatographyを用い,Con A結合性分画を分離し,更に,Sepharlose 4B Column次いでSephalose G200 column ChromatographyにてCEA様物質を精製し,同様にSDS-PAGEによる分析を行ったところ,5% SDS-PAGEにおいて,標準大腸癌CEAのImmunoprecipitateが示すと同様,標準蛋白であるMyosin(210,000m.w)とβ-Galactosidase(135,000m.w.)との間に_<125>Iのピークが認められた.以上の結果,ムチン嚢胞液中に認められるCEA活性は,分子量の面からも,また免疫化学的正常の面からも,大腸癌CEAと同一の糖蛋白により示されたものであることが明らかになった.
著者
岡田 雄一 一戸 喜兵衛 馬渕 義也 横田 栄夫
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.600-606, 1979-05-01
被引用文献数
2

排卵やホルモン産生にあずかる卵巣の機能廃絶は,閉経の到来によって象徴されるが,この卵巣機能の寿命を支配する因子を求めるにあたり,明治11年より大正11年までに和歌山県で出生した2,943名の閉経婦人について統計的観察を行った.(1)巷間,初潮発来が早ければ閉経が遅れるとか,逆に早くなる,などといった俗説が横行しているが,この点を明確とすべく初潮および閉経の両輪が明らかな婦人について検討した.しかし初潮の遅速と閉経齢のそれとの問には相関性がみとめられなかった.(2)妊娠期から授乳期間を通じほぼ2年近く生理的に排卵を休止するものはまれではないが,この妊娠から授乳までの期間の多寡が閉経齢に影響しないか検討した.しかし分娩0回の未産婦から9〜10回の多産婦まで,閉経齢の遅速には有意の差はみられなかった.(3)片側卵巣を摘除された婦人では,遺残卵巣は以後2個分の過剰排卵の場となる.20歳から30歳前半で片側卵巣を摘除された婦人の閉経齢を調査したが,これらの婦人は同時代の一般婦人のそれとなんら変わらぬ閉経齢分布を持つことが立証された.以上より,卵巣機能の寿命の決定因子は,排卵の回数の多寡による卵子消耗という単純な観点からは,捉え難いことが示唆された.