著者
一木 毅文 イチキ タケフミ Takefumi ICHIKI
雑誌
二松学舎大学國際政経論集
巻号頁・発行日
no.14, pp.117-136, 2008-03

近年、中国の貿易構造が高度化している。この背景には、WTO加盟後に急増する先進国からの外資メーカーの進出があるが、外資優遇に対する国内の反発から中国の外資政策は転換した。本稿は、中国の政策転換を明らかにした上で、政策転換が進出外資にどのように影響するのか、そして外資企業を通して中国経済にどのような影響を与えるかを明らかにする。その際、自動車産業に注目する。自動車産業は中国では基幹産業として育成されており、外資進出の増加によって、中国の自動車生産台数は世界の10%を占めるまでに成長している。また、自動車産業は貿易構造が高度化した原因である機械・輸送機産業の中核であり、貿易構造高度化の要因となる焦点産業である。2004年に発表された自動車産業政策においても外資政策と同様に、外資に対して先進技術を求める方向へ政策シフトした。自動車産業では1990年代後半以降に外資の進出が相次ぎ、生産台数が増加したが、今後は政策転換によって先進国へも輸出できる技術水準の自動車を中国内で調達した部品で生産することが自動車メーカーに求められている。1990年代後半からの中国自動車産業の発展を牽引したのは日系メーカーであったが、日系メーカーが集中する広東省では産業集積が進展している。自動車メーカーの進出を受けて、広東省には日系の系列サプライヤー進出もほぼ完了して、技術度の高い部品も生産しており、進出日系メーカーは既に産業政策の転換に対応できる状況にある。日系メーカーの中国進出戦略は系列サプライヤーの進出をもたらすことで、中国の産業高度化に寄与し、産業高度化の結果として貿易構造の高度化も生じている。中国自動車産業の発展は中国内に技術を持込む日系メーカーを軸に進展しており、今後も産業高度化、貿易構造の高度化は進展するものと考えられる。