著者
一針 源一郎
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.93-106, 1998-09-30 (Released:2016-09-30)
参考文献数
11

日本企業のグローバル化で、かつての貿易摩擦よりも深刻な投資摩擦が引き起こされる可能性が高い。そこで、不連続な変化を扱うカタストロフィー理論を応用して、投資摩擦の発生メカニズムを解明し、防止の一助とすることを目的とした。 日本企業の海外進出は、「働き口が多くなる」と一般に歓迎されているが、「競争が激化し自国企業が苦しい」という反対もあり、被投資国の景況の悪化は、歓迎・反対の両方の世論を高める分裂要因であり、不快指数(失業率+インフレ)で表わした。一方日本のプレゼンス拡大は「日本人・製品が増えて欲しくない」という反対を常に高める平常要因であり、日本の直接投資残高の伸び率で示した。 この2つを外生変数とし、日本の投資を歓迎しない人の比率を被説明変数として投資摩擦モデルを作成した。「くさびのカタストロフィー」関数を用い、欧米亜13力国の経済環境と大蔵省「対外直接投資状況」、外務省「対日世論調査」のデータに基づき係数を推計した。 今回の分析では、投資摩擦を2つに分類することができた。(1) 集中豪雨的な企業の直接投資は、やや遅れて「不満型」投資摩擦を引き起こす。(2) 失業率・インフレなどが低くなる経済的好況も、「自立型」投資摩擦のきっかけになる。