著者
三上 益弘
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.108-112, 2018-04-30 (Released:2019-07-04)
参考文献数
32

初回は,モンテカルロ法と分子動力学法の誕生の歴史について述べたい.モンテカルロ(MC)法の誕生の契機は第二次世界大戦中の原子爆弾の開発において,媒質中の中性子拡散を正確に予測するために,主としてスタン・ウラムにより創始され,フォン ノイマンはその命名者となった.一方,分子動力学(MD)法は,アルダーらにより,剛体球系で創始され,ソフトコア系に拡張され結晶の放射線損傷のシミュレーションに適用された.その後,MC, MD法ともに物質科学に本格的に利用されるようになった.
著者
三上 益弘
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.133-137, 2021-04-30 (Released:2022-04-30)
参考文献数
7

これまでは分子シミュレーションの方法について説明してきた.これからは,分子シミュレーションから得られた座標と運動量(分子動力学法のみ)を用いて得られる熱力学的性質,構造的性質,輸送係数,スペクトルの計算方法について説明する.これらの諸量は,実験的に測定される量であるので,分子シミュレーションの方法の検証ができると同時に,自然界で起こっている現象を分子シミュレーションにより原子レベルで詳細に調べることが可能である.今回は,熱力学的性質の計算方法について説明する.
著者
三上 益弘
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.270-276, 2019-10-31 (Released:2020-10-31)
参考文献数
14

分子動力学法(以下,MD法) は,モンテカルロ法とともに,統計力学の数値解法である.モンテカルロ法は,統計力学の物理量の期待値の公式を,ボルツマン分布を実現する乱数を用いた数値積分により求める方法であり,分子動力学法に比べてより直接的に統計力学と結びついている.一方,分子動力学法は,エルゴード仮説により,分子動力学法で計算される物理量の時間平均値が統計力学で定義される物理量のアンサンブル平均と等しいという仮定の下に統計力学の数値解法となっている.今回は,等温等圧アンサンブルと数値積分法の基礎とその計算方法について説明する.
著者
三上 益弘
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.252-257, 2019-10-31 (Released:2020-10-31)
参考文献数
8

分子シミュレーション(分子動力学法,モンテカルロ法)の計算において,多くの計算時間を消費する計算処理は原子に作用する力又はポテンシャルエネルギーである.その中でも,逆冪で減衰するクーロン力の計算は最も計算時間を必要とする.そのため,クーロン力の高速計算法の開発は,古くから始まった.Ewaldは,1921年にエバルト法を開発したが,コンピュータが誕生する以前だったので,本格的に利用が始まったのは1971年に溶融塩の分子動力学シミュレーションからである.その後,粒子メッシュエバルト法などが開発されたが,根本的に異なる方法は,もう一つの逆冪力である重力を用いる天体力学の分野で開発された,高速多重極子展開法である.ここでは,この二つの長距離力の高速計算法の基礎について述べる.