著者
三好 剛一
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.607-612, 2021 (Released:2021-10-22)
参考文献数
27

経口避妊薬(oral contraceptive: OC)とホルモン補充療法では,いずれもエストロゲンに伴う血液凝固亢進より静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)の発症リスクが高まる.VTEの発症率は,OCでは3~5倍,ホルモン補充療法では1.3~3倍上昇し,開始後比較的早い時期に発生しやすい.エストロゲン含有量が多いほどVTEのリスクが上昇する一方で,肝通過効果のない経皮投与ではリスクを回避しうる.配合されるプロゲスチンの種類とVTEのリスクについては一定の結論が得られていない.女性ホルモン剤使用時のVTEのリスク因子として,肥満,年齢(40歳以上),喫煙,家族歴などが知られているが,現時点では発症を予測する有効なバイオマーカーはない.遺伝性血栓性素因には人種差があり,日本人ではプロテインS欠乏症が最も多い.女性ホルモン剤使用による凝固線溶系の変化は1周期目には生じていることから,開始後早期より注意が必要と考えられる.