著者
三好 知美 渡邉 正樹
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.22-120, (Released:2023-09-05)
参考文献数
42

目的 健康・医療情報の多くは,リスクやベネフィットなどの数量や確率といった数値情報を多く含んでいる。一般市民は,健康・医療情報で提示される数値情報を適切に理解し,情報に基づいた意思決定が求められる。したがって,学齢期からの健康に関する数的思考力(ニューメラシー)向上を目的とした教育が重要となる。ニューメラシーとは,「日常生活における様々な場面において,必要となる数学的な情報や考え方を検索し,活用し,解釈し,伝達する力」と定義される。本研究では,オーストラリアの初等・中等教育の保健体育科教育で行われているニューメラシーに関連する項目について内容を概観し,健康に関するニューメラシー向上のための健康教育の課題を明らかにすることを目的とした。方法 オーストラリアで実施されているニューメラシーに関する教育について,Australian Curriculumの情報を収集し,オーストラリアで実際に用いられている保健体育科の教科書の記載内容について検討した。結果 Australian Curriculumでは,①ニューメラシーは,汎用的能力として位置づけられ,②ニューメラシーは,教科横断的にカリキュラム全体で育成されるべき能力として示され,③保健体育科は,ニューメラシーと関連の高い学習領域の一つに取り上げられており,健康に関するニューメラシーの教育は主に保健体育科で取り扱われていた。保健体育科におけるNumeracy Learning Progressionのうち,保健に関連の高い内容は,「パーセンテージの操作」「数字のパターンと代数的思考」「単位の比較」「測定単位の比較」「測定値の計算」「データの解釈」であり,Year8(13歳)とYear10(15歳)で扱われていた。結論 健康に関する数値情報を正しく理解するために,日本の健康教育においてもニューメラシーを向上する学習が求められる。そのためAustralian Curriculumの保健体育科における健康に関するニューメラシー教育の内容が参考になると考えられた。