著者
延原 弘章 渡辺 由美 三浦 宜彦
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.354-359, 2014 (Released:2014-08-08)
参考文献数
21

目的 インフルエンザ対策に関する基礎資料を提供することを目的として,2000/01年から2010/11年シーズンの11シーズンにわたるインフルエンザワクチンの接種状況の推定を行った。方法 全国のインフルエンザワクチンの使用実績のある医療機関等から,都道府県で層化して無作為に抽出した3,364~7,476の医療機関等を対象に,2000/01年から2010/11年シーズンにわたってインフルエンザワクチンの接種状況および同ワクチンの使用状況の調査を行った。このデータを元に,全国の実際のインフルエンザワクチン使用本数を補助変量とした複合比推定により,全国の世代別のインフルエンザワクチンの接種者数および接種率の推定を行った。結果 有効回答数は1,047~2,763であった。2000/01年,2010/11年シーズンの接種者数はそれぞれ923万人,4,946万人と推定され,この11シーズンの間に 5 倍以上に増加していた。また,2010/11年シーズンの接種率は小児59.2%,一般成人28.6%,高齢者58.5%,全体で38.6%と推定された。ただし,調査期間後半では回収数の減少等により,小児および高齢者では信頼区間の幅が広くなっていた。結論 2000/01年から2010/11年シーズンにかけて,インフルエンザワクチンの接種率は上昇傾向にあったが,近年は横ばい傾向で,小児および高齢者は50%台,一般成人は30%弱,全体では40%弱程度で安定しつつあるように見受けられた。
著者
大和 浩 太田 雅規 中村 正和
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.130-135, 2014 (Released:2014-04-16)
参考文献数
11

目的 飲食店の全客席の禁煙化が営業収入に与える影響を,全国で営業されている単一ブランドのチェーンレストランの 5 年間の営業収入の分析から明らかにする。方法 1970年代より全国で259店舗を展開するファミリーレストランでは,老朽化による改装を行う際に,全客席の禁煙化(喫煙専用室あり),もしくは,喫煙席を壁と自動ドアで隔離する分煙化による受動喫煙対策を行った。2009年 2~12月度に全客席を禁煙化した59店舗と,分煙化した17店舗の営業収入の相対変化を,改装の24~13か月前,12~1 か月前,改装 1~12か月後の各12か月間で比較し,客席での喫煙の可否による影響が存在するかどうかを検討した。改装が行われておらず,従来通り,喫煙区域と禁煙区域の設定のみを行っている82店舗を比較対照とした。解析は Two-way repeated measures ANOVA を行い,多重比較検定は Scheffe 法を用いた。結果 全客席を禁煙化した52店舗,喫煙席を壁とドアで隔離する分煙化を行った17店舗,および,未改装の82店舗の 3 群の営業収入の相対変化(2007年 1 月度比)は,12か月単位の 3 時点の推移に有意差が認められた(P<0.0001)。改装によりすべての客席を禁煙とした店舗群の営業収入はその前後で増加したが(P<0.001),喫煙席を残して壁と自動ドアで隔離する分煙化を行った店舗群の営業収入は有意な改善を認めなかった。結論 ファミリーレストランでは,客席を全面禁煙とすることにより営業収入が有意に増加するが,分煙化では有意な増加は認めらなかった。
著者
川合 厚子 阿部 ひろみ
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.626-632, 2007 (Released:2014-07-03)
参考文献数
19
被引用文献数
2 6

背景 これまで精神科における喫煙の問題は日本においてだけではなく世界的に“neglected problem(無視されてきた問題)”であった。精神障害者は喫煙率が高く,多喫傾向にあり,禁煙しにくいといわれている。また,精神科医療職も喫煙率が高いことが指摘されている。目的 精神障害者の喫煙状態を把握し,禁煙支援の需要があるかを知る。また,精神科医療従事者の喫煙状態を把握し,喫煙に対する意識を知ると共に喫煙問題への意識を高め,職場環境の改善へつなげる。方法 2001年12月~2002年 5 月に単科精神科病院である医療法人社団公徳会佐藤病院に通院又は入院していた統合失調症・気分障害・アルコール依存症のいずれかを持つ患者296人と同院職員222人に,それぞれ喫煙実態調査を行った。結果 対象患者における喫煙率は,統合失調症では男77.4%,女39.3%,双極性気分障害では男87.5%,女100%,うつ病では男は69.6%,女5.4%,アルコール依存症では男86.7%,女100%であった。喫煙者のうち78.1%がニコチン依存症であった。また,喫煙者の75.7%は禁煙に興味を持ち,49.0%は禁煙を希望しており,精神科においても禁煙支援の需要の高いことがわかった。職員においては,喫煙率は45.5%(男76.6%,女29.0%)と高く,とくに若い年代で喫煙率が高かった。喫煙開始年齢は18歳と20歳にピークがあった。1 日20本以下の喫煙者が80%を占め,40本以上の喫煙者はいなかった。喫煙者の91.1%は自分の吸うタバコがまわりに迷惑をかけていると認識していた。しかし職場内全面禁煙となった際,対処が難しいと答えたものは66.3%,近々やめたいという禁煙希望者は24%にすぎなかった。一方,非喫煙者のうち職場のタバコで悩まされている者は29.8%,タバコの煙を嫌だと思う者は76.0%であった。喫煙しないで欲しい場合喫煙者にそれを言える者は,相手によると答えた15.7%を含め,22.7%であった。喫煙対策を是とするものは職員全体の80.0%であった。医療従事者として,喫煙問題に対する意識が不十分であることが窺われた。結論 精神障害者の喫煙率とニコチン依存症の割合は高かったが,禁煙希望者も半数近くあり,禁煙支援の需要の高いことがわかった。精神科医療従事者は喫煙率が高く,喫煙問題に対する認識が低かった。
著者
阿江 竜介 中村 好一 坪井 聡 古城 隆雄 吉田 穂波 北村 邦夫
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.59, no.9, pp.665-674, 2012 (Released:2014-04-24)
参考文献数
35

目的 全国的な疫学調査である「第 5 回 男女の生活と意識に関する調査」のデータをもとに,わが国の自傷行為についての統計解析を行い,自傷経験に関連する要因を明らかにする。方法 全国から層化二段無作為抽出法を用いて選出された2,693人に調査票を配布し,自傷経験に対する回答の解析を行った。自傷経験があると答えた群(以下,自傷群)とないと答えた群(以下,非自傷群)の 2 群間で比較を行った。結果 1,540人(回収率57.2%)の対象者が回答した。全体の7.1%(男の3.9%,女の9.5%)に少なくとも 1 回以上の自傷経験があり,男女ともに自傷経験者の約半数が反復自傷経験者であった。16–29歳における自傷経験率が9.9%と最も高く,30–39歳,40–49歳はそれぞれ5.6%,5.7%とほぼ同等であった。男女別では,年齢階級別(16–29歳,30–39歳,40–49歳)で,女はそれぞれ15.7%, 7.5%, 5.8%と若年ほど自傷経験率が高く,男は3.0%, 3.4%, 5.5%と若年ほど低かった。群間比較では,喫煙者(自傷群47.5%,非自傷群28.2%,調整オッズ比[95%信頼区間]:2.18[1.32–3.58]),虐待経験者(23.6%, 3.7%, 4.24[2.18–8.25]),人工妊娠中絶経験者(30.3%, 12.7%, 1.93[1.13–3.30])の割合が自傷群で有意に高く,中学生時代の生活が楽しかったと答えた者(41.1%, 78.6%, 0.45[0.25–0.79])は有意に低かった。調整後有意差は認めなかったが自傷群では,すべての性•年齢階級において,両親の離婚を経験した者,中学生時代の親とのコミュニケーションが良好ではなかったと答えた者,親への敬意•感謝の気持ちがないと答えた者の割合が高い傾向を認めた。結論 多くの先行研究と同様に,自傷経験率は16–29歳の女で高く,また,喫煙者や虐待経験者で自傷経験率が高いことが示された。自傷行為の予防には,これらに該当する者に対して重点的にケアを提供する必要がある。また,社会的な観点から言えば,これらの要因を持つ家庭環境についても,今後明らかにしていく必要があろう。
著者
田中 惠子 坂本 裕子 森 美奈子 中島 千惠
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.64, no.9, pp.567-576, 2017 (Released:2017-10-07)
参考文献数
21

目的 乳幼児の食のリスクの低減には,母親が正しい知識を身につけて家庭で合理的にリスクに対応することが求められる。本研究は,幼児を持つ母親のリスクの考え方,知識,意識および行動の実態を示し,母親への食の安全教育を行う上での基礎的な資料とする。方法 2014年10月に幼児の母親を対象にインターネットによる質問調査を実施した。主な調査項目は属性,有害微生物による食中毒等の11の食の問題から,幼児の食の安全の問題として危険性が高くその危険性を低くするため大人が家庭や保育所・幼稚園等で努力する必要性が高いと感じる(以後,幼児にとって危険性が高いと感じる食の問題と記す)上位3位までの選び方,リスクの考え方,知識,意識および行動である。解析対象者数は984人であった。結果 幼児の食の問題に対して,母親の約3人に1人が有害微生物による食中毒の,半数以上が食品の誤嚥・窒息の危険性認識が低い可能性が示唆された。一方,3割が食品添加物の危険性が高いと感じていた。生牡蠣や鶏の刺身を食中毒予防のために幼児に与えてはいけないという認識がない者が1~2割存在し,調理中の生の肉等を触った後の石けん手洗い等,交差汚染を防ぐための習慣がない者も少なくなかった。食品の誤嚥・窒息では,3歳頃までピーナッツや飴等を与えてはいけないことを知らない母親は「わからない」を併せて4割存在した。さらに,約7人に1人の母親が,食事中の食品による誤嚥・窒息に気を配っていないことが示された。幼児にとって危険性が高いと感じる食の問題に食品の誤嚥・窒息を選択しなかった者に,3歳頃までピーナッツや飴等を与えてはいけないことを知らない,この問題に気をつけていない,食品表示を参考にするという特徴が見いだされ,また,食品添加物に対して否定的な考えを有している割合が高かった。結論 幼児の食のリスクを低減するための知識や習慣が十分に身についていない者が少なくなかったこと,また食品の誤嚥・窒息の危険性の認識が低い者は,食品添加物に否定的な考えを持ち,表示を参考にする一方で,食事中の幼児の誤嚥・窒息に気を配っていない等の特徴が示されたことから,母親へのリスクの考え方をとりいれた食の安全教育の必要性が示された。
著者
八木 由奈 東野 博彦 吉田 英樹 廣川 秀徹 奥町 彰礼 髙野 正子 信田 真里 松岡 太郎 笹井 康典 福島 若葉 田中 智之
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.62, no.9, pp.566-573, 2015 (Released:2015-11-25)
参考文献数
11

目的 大阪府における2014年の麻疹の流行状況を分析し,府内の今後の麻疹対策について検討を行う。方法 2014年に大阪府内で麻疹と報告された46例に府内集団発生事例で感染者の居住地が他府県であった 1 例を加えた47例について年齢分布,週別患者発生状況,推定感染経路,渡航歴,麻疹含有ワクチン歴,ウイルス検出状況,発症から届出までに要した日数について分析を行った。結果 患者は青年層成人(20~39歳)が24例(51%)と半数以上を占めていた。患者報告数は 2 週から27週にかけてピークを形成し,47週に終息した。主な感染経路としては,感染源不明の国内感染が47例中16例(34%)と最多で,次いで家族内感染(26%),渡航や海外からの輸入事例(21%)の順であった。また患者の83%が接種歴なし,または不明であった。検出ウイルスは B3,H1,D8 とすべて海外由来株であった。15歳以上群は15歳未満群に比べ,発症から届出までの日数が有意に長かった(P=0.001)。結論 府内の麻疹を制圧するためには発症から届け出の遅れを最小限にすることが求められる。医療機関,とくに成人を診療する医療機関への啓発が必要とされる。またすべての感受性者に対する麻疹含有ワクチン接種が必要である。
著者
森川 すいめい 上原 里程 奥田 浩二 清水 裕子 中村 好一
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.331-339, 2011 (Released:2014-06-06)
参考文献数
24

目的 本調査は,東京の一地域における路上生活者の精神疾患患者割合に関する日本で初めての実態調査である。主要な目的は,質問票を用いたスクリーニングと精神科医による診断によって,路上生活者の精神疾患有病率を明らかにすることである。方法 調査期間は2008年12月30日から2009年 1 月 4 日とし,調査対象者は同期間に JR 池袋駅半径 1 km 圏内で路上生活の状態にあった者とした。調査区域は,豊島区内の路上生活者数の概ね全数を把握できる地域として選定した。路上生活者の定義は,厚生労働省の実態調査で定められているホームレスの定義と同義とした。調査依頼状を受け取った路上生活者は115人で,協力を得た80人を研究対象とした。面接調査には Mini International Neuropsychiatric Interview(MINI)による質問紙と,別に作成した対象者の生活状況について尋ねる質問紙を用いた。最終的に精神科医が Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition, Text Revision(DSM–IV–TR)の診断基準に則って精神疾患の診断をした。結果 平均年齢は50.5(標準偏差[SD];12.3)歳,性別は男75人(93.8%),女 5 人(6.3%)であった。精神疾患ありの診断は50人(62.5%)で,内訳は33人(41.3%)がうつ病,12人(15%)がアルコール依存症,12人(15%)が幻覚や妄想などの精神病性障害であった。MINI の分類にある自殺危険度の割合では,自殺の危険ありが44人(55.7%)で,過去の自殺未遂ありは25人(31.6%)であった。結論 本研究は,わが国のホームレス状態の者の精神疾患有病率を十分代表するとは言えないが,路上生活者に精神疾患を有する者が62.5%存在し,医療的支援が急務の課題であることを明らかにした。
著者
高橋 美保子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.53, no.8, pp.554-562, 2006 (Released:2014-07-08)
参考文献数
27
被引用文献数
1

目的 わが国におけるインフルエンザ流行による超過死亡を明らかにするための一法として,超過死亡の範囲を推定し,記述すること。方法 1987~2003年の人口動態統計から不慮の事故(ICD-9:E800-E949,ICD-10:V01-X59)を除く総死亡の月別死亡数を得て,年間死亡率と季節指数を用いたモデルを適用し,インフルエンザの流行がない場合の死亡数の期待値と95%範囲(基準範囲)を求めた。実際の死亡数(観察値)と期待値との差から超過死亡の点推定値を求め,観察値と基準範囲限界値(上限値,下限値)との差から超過死亡の範囲を求めた。なお,インフルエンザ流行月は,感染症発生動向調査の結果を考慮しつつ,「インフルエンザ死亡率0.9(人/10万人年)以上の月」とした。結果 超過死亡の点推定値が最も大きかったのは1999年,次いで95年,そして,93年,97年,2000年,および2003年の流行期であった。1999年の超過死亡は約 4 万 9 千人と点推定されたが,その年の超過死亡は約 3 万 7 千人~約 6 万人の範囲とも推定された。同様に,95年の超過死亡は約 3 万 8 千人と点推定されたが,約 2 万 7 千人~約 4 万 8 千人の範囲とも推定された。また,93年,97年,2000年,および2003年の超過死亡の点推定値は,それぞれ約 2 万 1 千人~約 2 万 5 千人のほぼ一定の範囲内にあったが,超過死亡の範囲(最小値,最大値)はそれぞれ,約 1 万 5 千人~約 3 万 6 千人,約 1 万 8 千人~約 3 万 1 千人,約 1 万 4 千人~約 2 万 8 千人,そして約 1 万 1 千人~約 3 万 4 千人と年によって異なることが示された。超過死亡の範囲を比較し,95年の超過死亡が観察期間中で最大であった可能性もあることが分かった。結論 インフルエンザの流行がない場合の死亡数のばらつきの範囲を考慮した上で,その年のインフルエンザの流行によって増加したと考えられる死亡数の範囲(最小値,最大値)を把握することができた。超過死亡の範囲の推定は,インフルエンザによる健康影響を把握する上で,有用な方法の 1 つであると考える。
著者
藤本 眞一 加藤 巳佐子 石川 貴美子 原岡 智子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.59, no.8, pp.544-556, 2012 (Released:2014-04-24)
参考文献数
12

目的 保健所は,公衆衛生活動の中心的機関として地域住民の生活と健康に極めて重要な役割をもっている。平成 5(1993)年度に広島県において,全国で初めて保健所と福祉事務所が統合され「総合福祉保健センター」が設置されて以降,「平成の大合併」などにより都道府県立統合組織が構築されてきた。そこで,その組織と権限の実態を明らかにした上で,今後のあり方を考察することを目的とした。方法 インターネットにより都道府県ポータル•サイト等から平成23(2011)年度当初の保健所や福祉事務所の組織実態を都道府県保健所単位で抽出•分類し主な保健•衛生に関する権限について調査した。さらに町村部において,保健所と福祉事務所から提供されるサービスが,いずれの機関から提供されているかを調査した。結果 全国373都道府県立保健所が存在し,単独組織はその僅か 1/4 であった。統合形態としては,福祉事務所と保健所が一旦結び付いた上で総合事務所に統合される形態が約 4 割を占め,中には 3 つの保健所がひとつの総合事務所に統合されている例もあった。統合組織を構築しても,権限をその長に委任し直したところは約 1/4 であった。法令上福祉事務所ではないのに「保健福祉事務所」等の名称である統合組織は,保健所の統合組織の 1/3 を占めていた。福祉事務所に関しては中国地方を中心に町村自らの設置が進んでおり,道府県において福祉事務所と統合する理由がなくなってきている。また福祉事務所の社会福祉法上•名目上の位置付けと,実質上の福祉事務部門との位置付けの差異が目だった。結論 保健所を含めた組織統合理由は行政改革として組織数を減少させるためと推測された。道府県が,福祉事務所ではないのに,福祉事務所を想像させる紛らわしい名称の統合組織を作ったり,本来の福祉事務所でない場所にある統合組織そのものを法令上,福祉事務所と位置付けることは,住民に無用の混乱を生じさせる恐れのある対応であると考えられた。組織統合しても権限が保健所長に放置されたままであることは,保健•福祉サービスの一体的提供を理念としていない証拠であり,権限委任の見直しができないような統合組織の構築は無意味である。今後は,健康危機に関係する生活衛生関係業務などにも着目して統合を実施すべきである。
著者
井原 正裕 高宮 朋子 大谷 由美子 小田切 優子 福島 教照 林 俊夫 菊池 宏幸 佐藤 弘樹 下光 輝一 井上 茂
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.63, no.9, pp.549-559, 2016 (Released:2016-11-04)
参考文献数
43

目的 近年の身体活動支援環境に関する研究成果より,地方よりも都市部の住民の身体活動レベルが高いと予想されるが,これを実証するデータは乏しい。そこで,国民健康・栄養調査のデータを用い,都市規模による 1 日の歩数の違いを比較検討した。方法 2006-2010年の国民健康・栄養調査における歩数計を用いた 1 日歩数調査に協力した20歳以上の男性15,763人,女性18,479人を対象とした。5 年分のデータを統合し,男女別に,歩数を都市規模間で(以下,市郡番号 1;12大都市・23特別区,2;人口15万人以上の市,3;人口 5 万人以上15万人未満の市,4;人口 5 万人未満の市,5;町・村)年齢調整の上,共分散分析および多重比較検定を行い,さらに傾向性検定を行った。年齢区分あるいは仕事の有無による層別解析も行った。統計法に基づき本データを入手し,研究実施に当たり,東京医科大学の医学倫理委員会の承認を得た。結果 年齢調整した 1 日当たりの歩数は,男性は市郡番号 1 では7,494±4,429歩(平均±標準偏差),市郡番号 2 では7,407±4,428歩,市郡番号 3 では7,206±4,428歩,市郡番号 4 では6,911±4,428歩,市郡番号 5 では6,715±4,429歩で,都市規模により有意に異なった(P<0.001)。女性は,都市規模が大きい順に,6,767±3,648歩,6,386±3,647歩,6,062±3,646歩,6,069±3,649歩,6,070±3,649歩で,男性と同様に都市規模により有意に異なった(P<0.001)。傾向性検定の結果,男女とも都市規模が大きいほど平均歩数が多かった(P for trend <0.001)。層別解析の結果,男女ともに年齢区分,仕事の有無によらず平均歩数は都市規模により有意に異なった。多重比較検定では,仕事のない男性,65歳以上の男性および女性では都市規模が小さい市群番号 3, 4, 5 の居住者間で平均歩数に差は認められず,仕事のある男性における,都市規模が小さくなるに従って歩数が減少するパターンとは異なっていた。結論 男女ともに,年齢調整後も都市規模により歩数は異なり,人口が多い都市の住民ほど人口が少ない都市の住民より歩数が多かった。また,都市人口の規模と歩数の関係は性別,年齢層や仕事の有無といった対象者の特性により異なった。
著者
高橋 美保子 仁科 基子 太田 晶子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.16-29, 2014 (Released:2014-02-26)
参考文献数
56

目的 我が国における社会的要因による出生日選好傾向の現状を概観する目的で,日別出生数の現状を記述した。方法 1981~2010年の人口動態統計から,病院,診療所,および助産所における生年月日別出生数(日別出生数)を得た。出生場所別に,その月の 1 日平均出生数に対する日別出生数の比(日別出生数比)を求め,同年の七曜別の平均を求めて観察した。七曜別に日別出生数比の95%範囲を求めて観察値と比較した。統計学的に有意であったいくつかの特殊日の日別出生数比について,同年の当該期間(年始の 3 日間等)の平均を求めて観察した。七曜別に日別出生数比の標準化偏差を求めて,出生変動の大きさを検討した。結果 病院,診療所について,七曜別平均出生数比は火曜に最高,日曜に最低であった。病院では平日と土曜日曜の出生格差が著しく大きく,それが顕著化傾向にあった。診療所では平日と土曜の出生格差は比較的小さかった。年始(三が日)の平均出生数比は日曜より低値であった。1990年代中頃まで,閏日と 4 月 1 日(早生まれ)の標準化偏差は,病院が−3.0~−8.3,診療所が−5.5~−13.9と異常に低く,3 月 1 日と 4 月 2 日(遅生まれ)のそれは概ね有意に高かった。その後,日曜の閏日,日曜の 4 月 1 日,および 3 月 1 日と 4 月 2 日に有意な出生変動はほとんどみられなくなった。助産所においても,1980年代まで,あるいは1990年代中頃まで,同様の出生変動が認められた。結論 病院と診療所の七曜別出生変動の相違は,診療日の全国的な傾向の相違によって解釈が可能であった。医療施設側の診療体制の他,遅生まれ選好等の母側の要望を考慮した産科的医療介入による出生日調整•出生日操作の可能性が示唆された。1990年代中頃までの閏日と 4 月 1 日の著しい出生変動は,産科的医療介入だけでは説明が難しく,虚偽の届出による出生日操作の可能性も考えられる。1990年代中頃以降の日別出生数の分布は,出生日操作の多くが特定日の産科的医療介入を避けたものであった可能性を示唆した。助産所でも1990年頃まで,医療施設側,母側の社会的要因による出生日操作が行われていた可能性が示唆された。
著者
平田 まり 隈部 敬子 井上 芳光
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.516-524, 2002

<b>目的</b> 10歳代後半から20歳代前半の女性の多くが月経痛のために苦しみ,日常生活に支障を来たしている。それ故に月経痛と関連する日常生活要因を明らかにすることは,若い女性の Quality of Life(QOL)の向上に貢献する。本研究の目的は,やせている者の比率が最も高い青年期女性において食物摂取状況や身体活動度を反映する体格が,月経痛の頻度に関連するかを明らかにすることである。<br/><b>対象と方法</b> 18歳から21歳の女子大学生2,718人を対象にして2000年 4 月に,身長・体重測定と月経関連項目について自記式アンケート調査を行った。有効回答者2,288人の中,月経周期が 3 か月以上や過短月経の者を除いた2,282人を解析対象とした。月経痛の頻度と年齢,体格,運動,および月経関連項目(初経年齢・月経周期・月経期間・月経量)との関連をロジスティック回帰分析で検討した。<br/><b>結果</b> 2,282人の解析対象者の中,月経痛がいつもある者は34.1%,時々ある者は48.7%,ほとんどない者は17.2%であった。日本肥満学会の旧判定基準による分類では,やせ(BMI<19.8)群は34.8%,普通(19.8≦BMI<24.2)群は53.8%,過体重(BMI≧24.2)群は11.4%であった。体格の普通群を基準因子とした時,やせ群の「月経痛がいつもある」オッズ比は1.3 (95%信頼区間:1.1-1.6),過体重群のオッズ比は1.1 (95%信頼区間:0.8-1.5)であった。また月経痛がいつもある危険性は,初経年齢が若い者,および月経量が多い者は高く,月経周期が不規則な者は低かった。<br/><b>結論</b> 調査対象とした女子大学生において,月経痛の有訴率は82.8%と高かった。月経時にいつも痛みがある危険性は,体格が普通である者より BMI が19.8未満のやせた者に高いことが明らかになった。BMI が19.8未満の者は,日本の15歳から24歳の女性の半数近くを占めることを考慮すると,月経痛を緩和して QOL を高めるために,青年期女性のやせ志向性への対策が重要であることを本研究の結果は示唆するものである。
著者
田中 英夫 野上 浩志 中川 秀和 蓮尾 聖子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.9, pp.929-933, 2002 (Released:2015-12-07)
参考文献数
4
被引用文献数
1

目的 全国の薬局,薬店で喫煙者の鎮咳,去痰剤として販売されている紙巻きたばこ型薬用吸煙剤(ネオシーダー,製造:アンターク本舗,千葉県,以下 NC と表す)の医薬品としての妥当性を,製品のニコチン含有量と,これを試行した者および連用者の尿中コチニン量から評価検討した。方法 1 NC および,コントロールとしてマイルドセブンエクストラライト(以下 MSE と表す),マイルドセブンスーパーライト(以下 MSS と表す),セブンスター(以下 SS と表す)の葉0.25 g を蒸留水10 mlで 5 分間振とうし,遠心分離後に抽出液を発色反応させ,高速液体クロマトグラフィーで分析した。方法 2 喫煙中であった32歳医師を被験者とし自記式問診とともに,禁煙時,NC 使用時,禁煙継続かつ NC 不使用時の 3 点で尿中コチニン量を測定した。方法 3 外来患者の中でタバコの代替物として NC を継続使用していた 2 人の連用者を見出し,自記式問診と採尿を実施し,尿中コチニン量を測定した。成績 1 製品 3 cm(実際の 1 本当たり消費量)当たりの平均ニコチン含有量は,NC; 0.79 mg (n=6), MSE; 5.04 mg (n=2), MSS; 4.91 mg (n=2), SS; 5.55 mg (n=2)。成績 2 被験者の喫煙中の Fagerstrom Test for Nicotine Dependence は 3 点。禁煙の開始から最終回の採尿までの期間の受動喫煙はなし。尿中コチニン量は,禁煙開始 7 日目10.0 ng/ml。NC を 3 日間で17本使用後47.2 ng/ml,禁煙継続かつ NC 不使用 3 日目8.4 ng/ml。成績 3 53歳男性:喫煙当時の FTND は 6 点。調査期間中の受動喫煙はなし。NC を 1 日平均40本連用中の尿中コチニン量は937 ng/ml。75歳女性:喫煙当時の FTND は 7 点。NC を 1 日27本連用中の尿中コチニン量は2724 ng/ml。NC 中止96時間後では27.7 ng/ml。結論 NC は非麻薬性で習慣性がみられないと説明されているものの,ニコチンを含有していること,使用により本剤に含有するニコチンが体内に移行することがわかった。また,本剤の使用によってニコチンへの依存性が生じ,長期連用を引き起こしていたとみられる 2 例を報告した。
著者
宇佐美 毅 稲葉 明穂 吉田 宏 五十里 明 富永 祐民
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.59, no.7, pp.440-446, 2012 (Released:2014-04-24)
参考文献数
7

目的 本研究の目的は,飲食店における受動喫煙防止対策の現状とともに,飲食店禁煙化が経営に与える影響について明らかにすることである。方法 愛知県全域(ただし,名古屋市,豊橋市,豊田市,岡崎市を除く)の飲食店8,558店舗を対象として,調査員の訪問調査により,受動喫煙対策の実施状況,禁煙後の来客数と売り上げの変化等を調べた。調査期間は,平成21年11月 1 日から平成22年 2 月末までとした。結果 質問に回答した店舗は7,080店舗(82.7%)で,受動喫煙対策の実施状況は禁煙店舗が16.4%,分煙店舗が20.2%であり,残りの63.4%の店舗では受動喫煙対策は未実施であった。  飲食店の業種別にみると,カレー専門店,ファストフード店,などでは禁煙が進んでおり,バー,焼肉店,居酒屋,お好み焼き店などではほとんど禁煙化が進んでおらず,飲食店の受動喫煙対策は二極化していることが判明した。また,禁煙店舗については禁煙化後の来客数と売り上げは約95%の店舗で変化がなく,来客数と売り上げが増えた店舗が1.5%,減った店舗が3.9%であった。結論 愛知県で行われた大規模な,飲食店における受動喫煙対策の実態と禁煙化による経営に関する調査によると,禁煙化による顧客数や売り上げの減少など影響は少ないと考えられた。
著者
坂田 由紀子 新保 慎一郎
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.50, no.9, pp.890-896, 2003 (Released:2014-12-10)
参考文献数
23

目的 第 1 報において我々は食生活,身体状況が排便回数や排便量に影響することを報告し,その詳細な検討には時系列的解析が必要であることを述べた。 今回は前報に次いで排便についての時系列的解析を行い,排便量と摂取栄養素や摂取食品,運動量などとの相互関係,排便の日間変動に関係する要因についての検討を試みた。方法 21~22歳健常女子 4 名のそれぞれ30日間連続で 2 回調査した 8 群のデータを用いた。1 日の排便回数,1 回の排便量,自由摂取による食事量,摂取食品等の資料をもとに,測定量の規格化をおこなった。すなわち,各時系列間の比較は,群毎に計測値を平均値からの差として表し,振幅で規格化した相対量を用いた。自己相関係数,各系列間の相互相関,成分周期から時系列の性質を検討した。結果 データの時系列的解析から各データ群の排便量には,3~4 日の周期で日間変動があり,各変動の相同性の高い領域は,相関係数0.7以上であった。 排便量と運動量,食事摂取量との関係は,前前日の「食物総量」が高い相関を示し,ついで「総食物繊維量」,「水分総量」の順であった。「脂質摂取量」,「歩数」の相関は低値であった。 食品群別摂取量の比較では,「野菜類」,「果実類」,「穀類」,「いも及びでん粉類」の順に相関を示した。
著者
逢坂 隆子 坂井 芳夫 黒田 研二 的場 梁次
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.50, no.8, pp.686-696, 2003 (Released:2014-12-10)
参考文献数
32
被引用文献数
3 12

目的 近年都市部で急増しているホームレス者の,死亡前後の生活・社会経済的状況ならびに死因・解剖結果を明らかにする。方法 2000年に大阪市内で発生したホームレス者の死亡について,大阪府監察医事務所・大阪大学法医学講座の資料をもとに分析した。野宿現場を確認できているか,発見時の状況から野宿生活者と推測される者および野宿予備集団として簡易宿泊所投宿中の者の死亡をホームレス者の死亡として分析対象にすると共に,併せて野宿生活者と簡易宿泊所投宿者の死亡間の比較を行った。成績 大阪市において,2000年の 1 年間に294例(うち女 5 例)のホームレス者(簡易宿泊所投宿中の者81例を含む)の死亡があったことが確認された。死亡時の平均年齢は56.2歳と若かった。死亡時所持金が確認された人のうちでは,所持金1,000円未満が約半数を占めていた。死亡の種類は,病死172例(59%),自殺47例(16%),餓死・凍死を含む不慮の外因死43例(15%),他殺 6 例(2%)であった。病死の死因は心疾患,肝炎・肝硬変,肺炎,肺結核,脳血管疾患,栄養失調症,悪性新生物,胃・十二指腸潰瘍の順であった。栄養失調症 9 例・餓死 8 例・凍死19例は全て40歳代以上で,60歳代が最多であった。これらの死亡者についての死亡時所持金は,他死因による死亡時の所持金より有意に少なかった。栄養失調症・餓死は各月に散らばるが,凍死は 2 月を中心に寒冷期に集中していた。全国男を基準とした野宿生活者男の標準化死亡比(全国男=1)は,総死因3.6,心疾患3.3,肺炎4.5,結核44.8,肝炎・肝硬変4.1,胃・十二指腸潰瘍8.6,自殺6.0,他殺78.9などいずれも全国男よりも有意に高かった。結論 ホームレス者の死亡平均年齢は56.2歳という若さである。肺炎,餓死,凍死をはじめ,総じて予防可能な死因による死亡が極めて多く,必要な医療および生命を維持するための最低限の食や住が保障されていない中での死亡であることを示唆している。
著者
秋山 理 中村 正和 田淵 貴大
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.11, pp.655-665, 2018-11-15 (Released:2018-12-05)
参考文献数
16

目的 喫煙は様々な健康被害をもたらすため,健康増進のためには禁煙が重要である。喫煙者が喫煙の自身への有害性を認識していることは禁煙を試みることに寄与することが知られている。一方,これまで受動喫煙の他者危害性についての認識と禁煙との関連はよく調べられていない。そこで本研究では,日本の一般住民を対象としたインターネット調査にて,現在喫煙者における受動喫煙の他者危害性の認識と禁煙への関心との関連を検討した。方法 2017年1月27日から3月13日にかけて日本の一般住民を対象としたインターネット横断調査を実施した。回答者のうち,現在習慣的な喫煙を行っている15-71歳の男女1,586人(男性1,128人,女性458人)について,喫煙の自身への有害性の認識および受動喫煙の他者危害性の認識と禁煙への関心との関連について,多変量調整ロジスティック回帰分析を行った。結果 現在喫煙者のうち,男性では81.6%,女性では88.2%が受動喫煙の他者危害性を認識していた。現在喫煙者のうち,男性では52.7%,女性では64.6%が禁煙への関心があると回答した。多変量調整ロジスティック回帰にて検討した結果,喫煙の自身への有害性の認識もしくは受動喫煙の他者危害性の認識のいずれかを説明変数としてモデルに投入した場合のオッズ比はそれぞれ2.53, 2.92であった。喫煙の自身への有害性の認識と,受動喫煙の他者危害性の認識との両方を説明変数としてモデルに投入した場合で,両者とも有意に禁煙への関心と正の関連があることが示された。結論 現在喫煙者のうち,受動喫煙の他者危害性を認識している者は,認識していない者に比べて禁煙への関心が高かった。喫煙の自身への有害性の認識と,受動喫煙の他者危害性の認識とはそれぞれ独立に禁煙への関心と正の関連を認めた。本研究は,横断研究であり因果関係を調べたものではないが,受動喫煙の他者危害性の認識を高めることが禁煙への関心を持つことに繋がる可能性を示唆しており,今後のタバコ対策を推進するための基礎資料となる。
著者
岡 檀 久保田 貴文 椿 広計 山内 慶太 有田 幹雄
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.36-41, 2017 (Released:2017-02-21)
参考文献数
16
被引用文献数
1

目的 筆者らは先行研究において,日本全体における地形および気候と自殺率との関係を分析した。自殺希少地域は,海沿いの平坦な土地で,人口密度が高く,気候の温暖な地域に多いという傾向が示された。これに対し自殺多発地域は,傾斜の強い山間部で,過疎状態にあり,気温が低く,冬季には積雪のある市区町村に多いという傾向が示された。 本研究では和歌山県市町村の地理的特性と自殺率との関係を,筆者らの先行研究により得た知見に照らし検証する。また,旧市町村と現市町村の分析結果をそれぞれ可視化することによって,地域格差を検討する際の単位設定のあり方を検討する。方法 解析には1973年~2002年の全国3,318市区町村自殺統計のデータを用いた。市区町村ごとに標準化自殺死亡比を算出し,30年間の平均値を求め,この値を「自殺SMR」として市区町村間の自殺率を比較する指標とした。和歌山県市町村のデータを用いて,市町村の地理的特性と自殺率との関係について確認した。地理情報システム(GIS)により自殺率高低を視覚的に検討するための作図を行った。また,GISを用いて合併前後の旧市町村と現市町村について2種類の作図を行い,比較した。結果 和歌山県は山林が県面積の7割を占め,南部は太平洋に面し,人口のほとんどが海岸線の平地に集中している。地形,気候,産業など,地域特性のばらつきが大きい。 市町村別に,自殺率の高低によって色分け地図を作成したところ,山間部で自殺率がより高く,海沿いの平野で自殺率がより低いという傾向が見られた。県内で最も自殺率の高いH村は,標高が高く傾斜の強い山間に位置し,冬季には積雪する過疎化の村だった。 合併前の旧市町村と現市町村ごとの可住地傾斜度を色分け地図により表現したところ,旧市町村地図では自殺率を高める因子である土地の傾斜の影響が明瞭に示されたが,現市町村図地では不明瞭となった。結論 和歌山県市町村の地理的特性と自殺率の関係は,傾斜の強い険しい山間部は平坦な海岸部に比べより自殺率が高まる傾向があるという,筆者らの先行研究とも同じ傾向が見られた。 また,参照するデータが旧市町村か現市町村であるかによって実態の把握に違いが生じ,自殺対策に携わる人々が問題を認識することへの障壁ともなっている可能性が考えられた。
著者
濱武 通子 青木 梨絵 山﨑 貢 大西 賢治郎 松本 一年
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.182-189, 2015 (Released:2015-06-12)
参考文献数
9

目的 水道直結式ミスト発生装置(以下,ミスト発生装置)は,夏の暑さ対策として,一般に広く普及し始めている。しかし,その維持管理方法についての指針等はなく,ミストの水質も十分把握されていない。そこで,ミスト発生装置を適切に利用するための維持管理方法を検討した。方法 一宮保健所管内の同一規格のミスト発生装置が設置されている61施設中 5 施設において,ミストの水質検査およびレジオネラ属菌の検査を行った。水質検査において,一般細菌が飲料水の水質基準を超えた施設については,ミスト発生装置のホース等の各連結部において,洗浄と消毒を水道の蛇口からノズルまで順次行い,菌数の変化を調べることにより,細菌汚染の部位を特定した。また,優勢菌の同定を行った。結果 上水使用の調査対象 5 施設中 3 施設のミストは遊離残留塩素濃度が0.1 mg/l 以上存在していたにもかかわらず,一般細菌は飲料水の水質基準を大きく超え,Brevundimonas 属菌が優勢に発育していた。レジオネラ属菌は全施設で陰性であった。汚染部位はミスト発生装置のホースであった。結論 ミスト発生装置は,遊離残留塩素濃度が一定以上あっても細菌に汚染されることがある。ミスト発生装置の維持管理には,適切な洗浄と消毒を行い,使用期間中の持続的放水により水を滞留させないことが有効であることが示唆された。
著者
小林 真之 武知 茉莉亜 近藤 亨子 大藤 さとこ 福島 若葉 前田 章子 廣田 良夫
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.605-611, 2010 (Released:2014-06-12)
参考文献数
27

目的 不活化インフルエンザワクチン接種とギラン•バレー症候群(GBS)の関連について文献的に考察する。方法 米国予防接種諮問委員会(The US Advisory Committee on Immunization Practices: US-ACIP)の勧告に引用されている文献を中心に,不活化インフルエンザワクチンと GBS の関連についてこれまでの報告を要約するとともに,考察を加える。結果 1976年,米国において接種キャンペーンが実施された A/New Jersey/76インフルエンザワクチンについては GBS との因果関係が明らかであった。その後の季節性インフルエンザワクチンと GBS については,一貫した論拠は得られなかった。統計学的に有意な関連を報告した文献では,研究の限界を考慮した寄与危険は最大で100万接種あたり1.6例と推定されていた。考察 通常の季節性インフルエンザワクチンと GBS の因果関係について,結論は得られなかった。しかし,これまで報告されているインフルエンザの疾病負担およびワクチン有効性と対比すると,インフルエンザワクチン接種が疾病負担を軽減する有益性は,観察されている季節性ワクチン接種後の GBS のリスクを大きく上まわると考察された。