著者
三家本 里実
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の目的は、日本型雇用システムの変容について、企業の労務管理の変化と若年正社員の離職動向との関係から考察することで、必要な雇用政策のあり方を検討することにある。その際、主な研究対象を情報サービス産業におけるITエンジニアに設定し、2015年度においては、以下の課題に取り組んだ。(1)インタビュー調査: 2014年度に引き続き、企業の労務管理と労働者の働き方(より具体的には、労働者の有する自律性)との関連を明らかにするために、労働者へのインタビュー調査を実施した。下請企業ほど、労働過程における決定権は制限され、労働者が、より直接的な管理のもとに置かれることが想定されるが、実際には、いわゆる「丸投げ」というかたちで、労働者が労働過程における決定を行っていることが明らかとなった。(2)文献研究: インタビュー調査を受けて、企業の労務管理と労働過程において労働者が発揮する自律性の関連を分析するために、労働過程論を参照した。ハリー・ブレイヴァマンの労働過程分析と、その後の労働過程論争を辿り、技能との関連において、労働者の自律性を把握する必要性が浮かび上がった。(3)アンケート二次分析: 情報サービス産業においては、長時間「残業」の問題が深刻であり、メンタルヘルス不調や離職率の高さの原因としても考えられている。長時間残業の発生する要因について、労働政策研究・研修機構のアンケート調査データの使用許可を得て、分析を行った。その結果、目標値やノルマの高さなど、企業の労務管理が大きく影響していることがわかった。(4)アンケート調査: 産業別組合の協力のもと、ITエンジニアの転職行動に関するアンケート調査を実施した。労働時間の長さなど労働条件に加え、スキルアップが転職を志向する要因として挙げられた。とくに後者については、キャリアコースによって転職意識に違いが生じることが明らかとなった。