著者
三浦 瑠麗
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01 (Released:2014-01-29)

本研究課題は多国籍企業の展開を通じた人々の意識の変化、そしてそれが国際関係にもたらす長期的な影響の仮説を理論的に構築し、部分的に実証することであった。そこで、昨年度は初年度の理論化の作業に続いて中国発多国籍企業のイギリスにおける進出の政治的余波とそれへの対応を調査し、先進国市場に進出したアジア発多国籍企業が直面する課題とそれへの対応が確実になされていることを確認した。また、経済的相互依存による平和仮説、いわゆるコマーシャル・ピースの例外とされる東アジア(いわゆる東アジアパラドックス)において、日中韓につきN=各2000での対外意識調査を設計し同時に実施した。それを分析した結果、人々の対外認識がビジネスの性質によって大きく異なることを実証した。一般的には東アジアでは歴史問題の存在によって厳しい政府間の対立があり、また攻撃的な世論の存在がその政府の対立姿勢を支えているとされる。しかし、東アジアパラドックスの存在を指摘しただけでは、コマーシャル・ピースのメカニズムが実際に存在しているのか、それとも存在していないのか(政治と経済は別なのか)は定かではない。したがって、本研究ではコマーシャル・ピースが機能するための段階論を定義した上で、日中、日韓の貿易構造や国内政治経済構造を分析の射程に含め、どのようにコマーシャル・ピースが十分に作用しなくなっている状態なのかを解析した。この研究成果は東京大学政策ビジョン研究センターの主催した日米中韓を主な参加者とする国際会議において発表し、高い評価を受けた。また、時事通信社のE-Worldにも短い論考ではあるが日中両国民間にしぼった分析を寄稿した。引き続き研究成果を還元するため成果を様々な媒体に公表していきたい。
著者
三浦 瑠麗
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007 (Released:2007-04-01)

これまで「攻撃的な戦争」の多くが軍の責任に帰されたのに対し、シビリアンは多くの攻撃的な戦争を引き起こしてきた。軍がシビリアンの推進する好戦的な戦争に反対したケースさえ数多く指摘できる。同様に、リベラリズムの議論は権威主義体制、全体主義体制やミリタリズムの国が攻撃的な戦争を引き起こしがちだと考えてきたが、実は安定したデモクラシーによって数多くの攻撃的な戦争が引き起こされてきたのである。本研究はデモクラシーにおける「シビリアンの戦争」というこれまで見過ごされてきたテーマの研究であり、リアリストの理論では説明できない開戦判断や敵意の説明、安保政策研究者が勝敗にのみ注目してきた戦争の開戦判断に纏わる説明を提供し、リベラリストが分析してこなかったデモクラシー下のシビリアンの戦争の理論化を試みた。事例としてアメリカ、イギリス、イスラエルの先進民主主義国を比較分析することにより、先進民主主義国特有の現代的な問題、軍の反対する「シビリアンの戦争」を指摘し得た。シビリアンの攻撃的な戦争は個別の歴史研究で明らかにされてきたし、人々は同時代の好戦的なシビリアンの存在をみとめてきた。しかし、個別の戦争の説明は特定の指導者の資質や好戦性など属人的な議論に流れがちであった。本研究は構造的な要因を説明し、デモクラシー下のシビリアンが攻撃的な戦争、不必要な戦争を望んだ時には、民主的な制度や理念による戦争の防止は期待できず、対照的な軍の消極性を考えれば、シビリアン・コントロールもまた攻撃的な戦争を防止するための解ではないことを解き明かした。このように、本研究は伝統的政軍関係理論とは異なる政治と軍事の関係の研究分野を切り拓くことができたのである。本研究はわたくしの博士論文として東京大学に提出するため、執筆の最終段階である。
著者
唐澤 太輔
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009 (Released:2009-04-01)

南方熊楠の「やりあて」(偶然の域を超えた発見や発明・的中)を可能たらしめている「場」の研究を中心に行った。その場とは「南方曼陀羅」における「理不思議」という領域であることを明らかにした。そして、統合失調症者に見られる様々な症状を比較対象とし、いわば「人間学的精神病理」の見地から研究を行った。自己と他者との境界・区別が曖昧になる領域を、自己と他者とをつなぐ「通路(パサージュ)」として捉え、その場に立ち、他者と交感し、さらに再び自己へと戻ることが、「やりあて」を可能にする条件の一つという結論を導き出した(『ソシオサイエンスvol.17』「南方熊楠の『大不思議』論-根源的な場に関する考察-」)。「やりあて」が可能になる場を「自他の区別が曖昧になる場」とする一方、自他を根底から支え、含み、さらに自他の内に含まれながらも、それらを超えている根源的な場を「自他融合の場」とし、それを「南方曼陀羅」における「大不思議」に見出した。そして、「大不思議」という、いわば「生命の根源的な場」を、熊楠と土宜法龍との間の往復書簡における言説から考察した。またCG.ユングの深層心理学を援用し、「南方曼陀羅」が熊楠の思想の核であると同時に、彼自身の心のカタルシス(浄化作用)としても機能していたのではないか-つまりこの曼陀羅を構築することで、彼自身の心に「統合性」が与えられていたのではないか-という新たな仮説を立て、考察を行った(『トランスパーソナル学研究vol.11』「南方曼陀羅への深層心理学的アプローチ-ユング心理学を手がかりに-」)。さらに、熊楠と彼の研究対象であった粘菌との関係から、熊楠が知り得たことを「内観」をキーワードに、研究・発表した、(「第9回日本トランスパーソナル学会大会」「南方熊楠の「内観」に関する考察-ユング心理学を援用して-」)。
著者
永岡 崇
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006 (Released:2006-04-01)

アジア・太平洋戦争において、天理教の信徒たちが行ったひのきしんがもつ意義を、帝国日本というより大きな文脈に位置づけなおすため、1940年代前半の代表的ひのきしん論である諸井慶徳『ひのきしん叙説』と、帝国日本による「聖戦」の教義を端的に示すと思われ、天理教のひのきしん隊も多数参加した橿原神宮神域拡張事業において語られた言説との比較を試みた。天理教信徒にとって、「聖戦」の教義はひのきしんの教義と深いところで響きあっており、前者を後者に手繰り寄せる形で総力戦の遂行を主体的に担っていったと思われる。また、「聖戦」の教義がひのきしんのような宗教思想・信仰と親縁性を有し、それへの読み替えを通じて実践されたことを明らかにし、アジア・太平洋戦争の宗教戦争としての性格を改めて見直し、その宗教性の受け皿となった宗教教団や社会集団の思想・実践との比較を行うとともに、それらとの接触の様相を分析していく必要性を提起した。これまで遂行してきた作業によって、戦後の宗教教団にとって非本来的で否定的なものとしてのみとらえられがちであったアジア・太平洋戦争期の経験を、現代の教団、またその教義や信仰のあり方を構成する重要な要素として位置づけ、負の側面へと深化していく宗教性のありようを積極的にとらえる歴史-宗教学的考察の領域を切り開くことができた。
著者
橋本 剛
出版者
静岡大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002 (Released:2002-04-01)

コンピュータ将棋の開発では探索と評価関数が大きな2本の柱であるが,評価関数は従来各駒の玉との相対位置を点数化した「相対評価」が主流であった.だが相対評価には悪手であるにもかかわらず玉が自分の駒に接近してしまうなど重大な副作用がある.本稿ではこのような副作用のない「絶対評価」をメインにして相対評価の使用を大幅に制限する評価関数TACOSYSTEMを提案し,その実装方法を具体的な例を用いて示す.TACOSYSTEMを実装した我々の将棋プログラムTACOSは第14回世界コンピュータ将棋選手権で決勝入りを果たすという好成績を収めた.ゲーム木探索にとって水平線効果は最も厄介な問題で,特に水平線効果が出やすいゲームではその対策が不可欠である.将棋など持ち駒を使用するゲームでは明らかに損と断言できる水平線効果の指し手が存在するが,これまでその対策が論じられたことはなく現在も将棋プログラムで頻繁にみられる現象である.これを「強度の水平線効果」の指し手と呼び,ゲーム木探索においてこれを完全に除去する方法「SHEK (Strong Horizon Effect Killer)」を提案した.SHEKでは探索中の局面同士で生じる強度の水平線効果はもちろん,ルート局面以前の過去の局面とで生じる強度の水平線効果も指し手の履歴さえあれば完全に除去することが出来るが,計算コストはほとんどかからない.SHEKの概念と実装方法を紹介したのち,千日手問題等に適用する方法も提案し,将棋プログラムに実装してその効果を実証していく.
著者
越野 剛
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005 (Released:2005-04-01)

今年度は三年間の研究の成果をまとめ、社会に還元するようなかたちで総括的な仕事をいくつか行うことができた。北海道大学スラブ研究センターの主催した市民向け公開講座「拡大する東欧」の中で、チェルノブイリ原発事故について講演した。その内容については雑誌「しゃりばり」およびスラブ研究センターのホームページに掲載されている。これまでの研究で得た成果を用いながら、現代ベラルーシの国民形成にとってチェルノブイリ事故が大きな影響を及ぼしていることを説明している。チェルノブイリの医療支援に長年携わっている長崎医大の山下俊一先生のイニシアチブにより、ベラルーシの詩人リホール・バラドゥーリンの作品を翻訳することができた(『バラドゥーリン詩集:風に祈りを』越野剛訳、春風社、2007年)。バラドゥーリンはベラルーシの代表的な詩人の一人で、ノーベル文学賞候補としてベラルーシ作家同盟から推薦されたこともある。今回訳出した詩の多くにはチェルノブイリ原発事故や放射能の恐怖のもとで暮らす人々の生活が描かれている。2月には3週間のモスクワ出張を行い、国立図書館などで資料を収集した。チェルノブイリ原発事故だけではなく、災害の記憶と結びついて連想されるような歴史的事件にも関心を広げるように努めた。とりわけ第二次世界大戦とナポレオン戦争の記憶はロシア・ウクライナ・ベラルーシ地域の人々にとって重要な意味を持っており、今後の研究にもつなげていきたい。
著者
横山 明彦 ATTAVIRIYANUPAP Pathom ATTAVIRIYANUPAP P.
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003 (Released:2004-04-01)

欧米を中心とする世界各国において、電力自由化が進められており、その一環として競争的電力市場が創設されている。代表的な例としては、米国のPJM ISOやNY ISOのエネルギー市場。日本では2005年4月より電力自由化の一層の進展が始まり、日本卸電力取引所等が開設された。電力自由化においては、全国各地で新規参入が増えて地域間の電力取引が活発になると、これまでの電気の流れ(電力潮流)が大きく変化し、予測が難しくなる。地域によっては送電能力が不足して送電系統が混雑し、意図した電力取引ができなくなってしまう。電気料金が高くなる原因の一つと考えられる。現在NY ISO等がこのような問題で苦しんでいる。また、電力系統における設備に事故が起こった場合も停電が起こり易くなる。電力供給信頼性に影響を与えるものと懸念されている。「価格高騰」及び「供給信頼度」問題を解法するために、送電系統を拡充することが方法の一つと考えられる。しかしながら、送電線新設には多額のコストと時間がかかるため、投資者にはリスクがある。また場所がかかるため、重要な環境問題でもある。本研究では、「価格引き下げ」と「安定供給」を目指して、電力自由化における様々な送電系統拡充方法を分析し、最適な送電系統拡充方法を選択する。送電系統拡充方法としては、「送電線の新設」、「FACTS機器の投入」、「現在系統のまま」3つの方法がある。各方法においては様々な不確実性(需給計画、発電計画・運用、設備の事故等)の影響も考慮する。以上を検証するために、計算機シミュレーションのための数式モデルを作成し、シミュレーションを行い、結果分析を行った。
著者
菊田 康平
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-04-26 (Released:2017-05-25)
著者
夏目 房之介 HOLMBERG R.E. HOLMBERG R. E.
出版者
学習院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010 (Released:2010-12-03)

今回のライアン・ホームバーグと夏目房之介の共同研究では、戦後の日本でおこったマンガの変革期である60-70年代に焦点をあて、マンガ家、編集者、読者だった人々への基礎的な取材調査を通して、当時のマンガ文化の動向を読みとくための基礎資料を編纂することを目指しています。特に2011-2012年度は、上記で述べた各関係者への取材に専念しました。質問内容を吟味し、各項目を作成するために、現代マンガ図書館(東京)、国際子ども図書館(東京)、昭和漫画館青虫(福島)を中心にして、研究資料の収集につとめ、また、その内容を分析・検討しました。2011年7月に始め、下記の10人を取材しました:戦後マンガの中心的な作であるさいとうたかを氏、貸本マンガ作家である石川フミヤス氏と山森ススム氏、60年代の前衛的な作家である佐々木マキ氏と林静一氏、月刊誌「ガロ」の元編集者高野慎三氏、「ガロ」の中心的な作家であるつげ忠男氏と蛭子能収氏、60-70年代の長編マンガ作家のビッグ錠氏、60年代に始め現在までのマンガ評論家である小野耕世氏。各インタビューを録音し、その内の6本を、学習院大学大学院の生徒に依頼、文字起こしを行いました。またこれまでの研究、取材の成果を、アメリカのマンガ研究批評誌、「The Comics Journal」で月例連載として発表しつつあります。最終的にはインタビュー資料集として出版することを考えています。こうした調査の途中経過を、夏目氏のゼミで発表し、各研究者との間で意見交換をおこなう機会も得ました。
著者
横濱 雄二
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005 (Released:2005-04-01)

メディアミックス様々な物語メディアを横断するものであり、特にそのリアリティの構築を考える際の参考として、民俗学、哲学、精神分析などの理論を参考とし、また文学史や文学理論についても諸作を参照した。その成果の一部として、幻想文学に関する論文集である『ナイトメア叢書』(第3巻、第4巻)のブックガイド欄を分担執筆した(今後も継続予定)。また、大衆文化としての映画におけるメロドラマ性やスター性に注目し、近年のメロドラマ研究を参照した。この点を踏まえつつ菊田一夫『君の名は』について、ラジオドラマ、小説、映画のメディアミックスを分析した。時間的に初期のラジオドラマではメロドラマ以外に戦後の社会状況が多く織り込まれていたが、後半では物語の展開とともにラジオドラマ自身もメロドラマ性を強めているが、この傾向は小説や映画でも踏襲され、特に後追いで制作された映画では、ストーリー全体がメロドラマに特化している。こうした物語構成上の変化は『君の名は』ブームでの世評に対応したものといえる。また、全国を巡回するという構成上の特徴は、映画ロケ地の観光地化や、試写会に際しての出演者の全国ツアーといった、物語の外部に存在する俳優の身体性にも広がっている。このような形で物語の内部と外部をつなぐスターの身体性は、石原慎太郎の『太陽の季節』『狂った果実』における登場人物と実弟石原裕次郎との対応とも密接に関連する。また、キャラクタービジネスにおける物語を利用したマーケッティング手法は、こうした身体性と物語性との関係を応用したものと把握できる。メディアミックスはこのように見ると単に諸メディアを通底するばかりでなく、そうした通底性を基盤に俳優や作者といった物語そのものにとっては外部と見なしうる地平までその範囲を広げて考察することができる。これらの研究については、その一部を『層--映像と表現--』(近刊)に発表する。
著者
FEDOROVA ANASTASIA(2013) フィオードロワ アナスタシア
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011 (Released:2011-12-12)

本年度、申請者はこれまでのリーサーチを通して収集された一次資料の整理作業を行い、その分析をもとに"Japan's Quest for Cinematic Realism frorm the Perspective of Cultural Dialogue between Japan and Soviet Russia, 1925-1955"(和訳 : 「ソビエト・ロシアとの文化対話から見た日本映画史におけるリアリズムの追求、1925-19551」)というタイトルの博士論文を執筆した。本博士論文において、申請者は当初計画されていた研究課題を大幅に拡充した。即ち、本論文は、ソビエト・ロシアに留学し、そこで育んできたリアリズム観やモンタージュに対する知識を自らの作品のなかで応用してみせた日本を代表するドキュメンタリー映画監督である亀井文夫の作風ばかりでなく、1925年から1955年までの日本映画における、より広い意味での「リアリズム追求の歴史」を、日本とソビエト・ロシアとの映画交流を軸に論じているのである。申請者の博士論文は、1925年から1955年までの間におこった日ソ間の映画交流(相互間における映画作品や映画理論の受容、留学体験を通しての映画知識の共有、合作映画の製作など)を詳細に分析することで、これらの交流を促進させていたのが、日本とソビエト・ロシア両者におけるリアリズムに対する強い感心であったことを明らかにしている。結論部分では、日ソ両映画界に共通していたこの強い感心が、ハリウッド映画の世界的影響力への対抗心から来るものであったと主張され、日ソの映画人が目指していたリアリズムという芸術潮流は、メインストリーム(ハリウッド映画)に対するイデオロギー的及び美学的アルターナティヴの追求として定義付けられている。
著者
牧 義之
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009 (Released:2009-04-01)

本年度は、雑誌『改造』の伏字調査とともに、「内閲」に関する資料の整理を行なった。「内閲」が終了する昭和2年までの誌面を調査した結果、一つの記事の中で複数種が混合で使われているものが見られた。特に社会主義関連の記事に多く、語句(×印が多い)以外の文章単位の伏字(3点リーダーが多い)は、危険箇所として指摘された部分でもあると思われるので、「内閲」による結果であると想像される。関連資料の調査では、新聞・雑誌の記事から、大正10年には「内検閲」の言葉が見られ、慣習的に行なわれていたことが分かる。明治期の末までは、「出版前に原稿を検閲して出版後の安全を確保するが如き便宜法」を希望する記事(『読売新聞』明治43年9月10日)が見られたので、原則「内閲」は行われていない。発売禁止回避の為、当局と発行者の双方が歩み寄る「内閲」は、大正期以降昭和2年までのおよそ10年程度の期間に行なわれていたと推定される。廃止の理由については諸説あるが、大正14年中頃には廃止の噂が流れ、「現今では『そんな規定がないから』の口実で内閲願は苦もなく一蹴される」(同」大正15・3・20)という記事が示すように、内務省側も出版物の増大を理由に断わることが多かった。廃止を決定的にした原因の一つが、山崎今朝弥による禁止処分に対する訴訟事件である。大審院の判決により「国家警察権ノ発動ヲ阻止スルカ如キ」「内閲」の「契約ハ無効」(『法律新報』第120号、昭和2・8・25)とされたことが廃止の根拠とされたであろうと思われる。検閲と文学との関連性に関して、「狂演のテーブル--戦前期・脚本検閲官論--」(『JunCture超域的日本文化研究』第3号)、「永井荷風の検閲意識--発禁関連言説の点検と『つゆのあとさき』本文の分析から--」(『中京国文学』第31号)、「森田草平『輪廻』伏字表記考--戦前期検閲作品の差別用語問題--」(『文学・語学』第202号)の3篇を発表した。
著者
長谷 亜蘭
出版者
千葉大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008 (Released:2008-04-01)

摩擦に伴う表面の磁化現象のメカニズムの解明のために,磁束密度測定実験と顕微鏡観察部に摩擦系を組み込んだin-situ観察実験(その場観察実験)の二つの摩擦実験を行った.磁束密度測定実験では,摩擦による磁束密度変化と摩擦面損傷状態などとの関連性を調査した.in-situ観察実験では,摩擦による磁区構造変化を観察し,トライボロジー現象との関連性を調査した.また,磁気力顕微鏡(MFM)を用いた摩擦面の観察・分析を行った.以上の実験を主に純金属材料(Fe,Co,Ni)に関して実施した.本研究で明らかになった点け,以下のとおりである.1)凝着摩耗(移着)による損傷が摩擦表面の磁化と関係している.2)一つの摩耗粒子および微細な摩耗粒子の集合は一方向に磁化する.3)一方向に磁化した大きな摩耗粒子や移着粒子からの漏えい磁場が,周囲の微細な摩耗粒子の磁化に影響を与えている.4)摩擦面上の摩耗粒子および移着粒子が,摩擦磁化の大きな一因である.5)摩耗による移着粒子の生成や弾塑性変形による逆磁歪効果により,摩擦面直下における磁区構造の変化が生じている.6)摩擦前後のMFM像の比較から,摩耗素子のようなナノオーダーで摩擦表面が磁化していることが確認できた.本研究成果より,摩耗素子のような微視的な原因と移着粒子や摩耗粒子のような巨視的な原因が,摩擦磁化現象に関わっていることを明らかにできた.
著者
田畑 潤
出版者
青山学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011 (Released:2011-12-12)

本研究は夏・殷・西周時代を中心に、副葬された青銅礼器・武器の様相を分析し、当時の葬制(礼制)を明らかにすることを目的としている。平成24年度の研究成果について、以下の3点にまとめる。1、国内調査における研究成果:泉屋博古館(京都本館)・黒川古文化研究所・寧楽美術館蔵の殷周春秋戦国時代及び漢代の青銅器の調査(写真撮影、拓本採取、法量計測)を行った。主に青銅礼器と青銅武器を対象とし、各器種のデータを収集するとともに、製作技術や使用法の観点から分析を進めた。2、国外(中国)調査における研究成果:昨年度に引き続き青銅武器の毀兵行為の分析をテーマに、中国北京、山西省を中心に調査を行った。北京では国家博物館・首都博物館において琉璃河燕国墓地、宝鶏石鼓山墓地出土青銅器の実見・写真撮影を行った。山西省では山西省考古研究所・侯馬考古工作站に赴き、天馬-曲村墓地、横水墓地出土青銅器を中心に調査を行った。3、博士論文について:博士論文『西周時代の礼制と葬制―青銅礼器・武器の副葬行為に関する研究―』が昨年度までの成果及び本年度の主たる研究成果である。本論の目的は青銅礼器及び青銅武器の副葬行為から西周時代の「葬制」及び上位概念である「礼制」について検討していくことである。西周時代の葬制の伝播・展開・拡散のモデルを構築し、夏代から殷代にかけての青銅礼器葬制を被葬者の個人的権威を反映させる段階である「人」への副葬と位置付け、西周時代の規格化された葬制を「墓」への副葬と呼び、その差異を明らかにした。また、青銅礼器銘文における祭祀・儀礼から導かれる「礼制」の変化と副葬配置の変化は対応しており、西周前・中期は周王との関係性を重視した「公」の副葬、西周後期は諸侯国の貴族階級の個を重視した「私」の副葬であると結論付けた。
著者
菊地 史倫
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009 (Released:2009-04-01)

本研究は、日常生活で使用されるウソやユーモアが社会的に機能するときに、聞き手の心的機構(認知・感情過程)に与える影響について明らかにすることを目的としている。過失により他者に不利益を与えてしまった状況(e.g.,遅刻)において、人は他者からの罰(e.g.,叱責)を避けるために弁解をすることがある。本年度は弁解としてのユーモアが聞き手の認知(おもしろさの程度)を媒介して感情調整(ネガティブ感情の抑制・ポジティブ感情の促進)を行っている可能性に着目し、ユーモアに関わる立場(ユーモアの話し手・聞き手)とユーモアの聞き手の状況(聞き手の不利益が大きい状況・不利益が小さい状況)を考慮した実験を行った。その結果、ユーモアに関わる立場に関係なく、弁解としてのユーモアは聞き手のおもしろさの認知を媒介することで過失に対するネガティブ感情を抑制し、聞き手からの罰を避けていることが明らかになった。また、ユーモアは聞き手のおもしろさの認知を媒介することでポジティブ感情を促進するが、罰の回避に与える影響は小さいことが明らかになった。そして、聞き手の不利益が大きい状況では不利益が小さい状況に比べて、ユーモアのおもしろさの程度が低く認知されることが明らかになった。ただし、ユーモアの聞き手の不利益が大きい状況においても、おもしろさが高く認知されれば、感情調整が行われ、聞き手からの罰を回避できることが明らかになった。これらの結果から、ユーモアに関わる立場に関係なく、弁解としてのユーモアは聞き手の認知を媒介し感情調整を行うことで社会的に機能することが示された。また、聞き手の状況(e.g.,不利益の大きさ)によっておもしろさの認知は影響を受けるが、この認知を聞き手に生じさせることができれば感情調整が行われ、ユーモアは社会的潤滑油として機能することが示された。
著者
伊藤 大幸
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008 (Released:2008-04-01)

本年度は、ユーモアの生起メカニズムに関する代表的理論とされる不適合理論に欠けていた「無意味性」の概念について検証を行った。これまで不適合理論ではユーモアを認知的現象とみなす傾向が強く、特有の表情の変化や発声(笑い)を伴う感情現象としてユーモアを捉える視点が欠けていた。近年の感情研究では、感情が生じる際には、対象が自らにとってどのような影響を与えうるかに関する意識的・無意識的な評価が不可欠であるという認知的評価理論がコンセンサスを得つつあるが、不適合理論ではこうした考え方が取り入れられてこなかった。また、近年、進化学的視点からユーモアの起源や適応的意味についての理論的考察が盛んになされるようになった。こうした考察においては、ユーモアの起源は類人猿の「遊び」に求めることができるという遊び理論が主流になりつつある。不適合理論はこうした進化学的理論とも接点を持たなかった。そこで筆者は、論理的・構造的不適合に加え、無意味性という第3の要因がユーモアの生起を規定するというモデルを想定した。無意味性とは、状況が個人的にも社会的にも何ら深刻で重大な意味を持たないという評価を意味しており、遊びという活動の中核になる要素である。本年度の実験では、このモデルを検証するため、論理的・構造的不適合および無意味性という3つの要素を独立に操作し、ユーモアの変化を検討した。その結果、無意味性は論理的・構造的不適合とは独立にユーモアに影響を及ぼすことが明らかになった。本研究によって、一般的な感情理論や進化学的理論とユーモアの不適合理論が整合的に結びつけられた。この研究成果は現在、学術雑誌「心理学研究」に投稿中である。
著者
宮本 佳明
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008 (Released:2008-04-01)

前年度に構築した大気・海洋結合モデルを実現象の再現実験に適用できるように改善を行った.ここで,当初構築する予定であった大気・波浪境界層(Wave Boundary Layer : WBL)・波浪・海洋の結合モデルは,前年度のロードアイランド大学滞在中に得た知見を基に,WBLモデルの構築,及び,波浪モデルの組み込みを取り止めた.その理由は,両モデルは計算負荷が大きい欠点を持ちながら,顕著な精度向上が見込まれないためである.つまり,現在までに得られている波浪・WBLの物理過程に関する理解では,長時間のコーディング作業をせずに,多少近似が強いながらも最新の観測結果を踏まえた手法を取った方が良いと判断した.そこで,大気-海洋間の結合が物理量のフラックスによって行われると考え,既存の大気モデルで良く用いられているバルク法を用いて以下のようにモデル化した.海面フラックス(モデル最下層における応力項に対する下端境界条件)は,WBL上端の風・海面上とその高度間の変数の勾配に比例するとして,2005年・2008年の観測・室内実験結果に関する先行研究(Donealn et al. 2004 ; Zhang et al. 2008)からその比例係数を決定した.ここで,WBL上端の高度はモデル変数から診断できないため,大気安定度に依存した対数分布を仮定して高度10mにおける風速を基に勾配を決定した.次に,海洋モデルに日本付近の海底地形データの導入し,過去に顕著な災害をもたらした台風の再現実験を行った.そして,海洋モデル及び最新の実測値を基にした海面フラックスの定式化を行うことによるインパクトを調べ,熱帯低気圧の数値モデル内での再現におけるそれらの重要性を示した.
著者
坂口 さやか
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007 (Released:2007-04-01)

本研究の目的は、神聖ローマ皇帝ルドルフ二世の帝国統治理念が、政治的権力としていかなる実効性を持ったのか、帝国理念の表象である芸術作品の解釈および受容の研究により解明することにある。平成20年度は、特に以下の目的に沿って研究を進めた。1.ルドルフの肖像A)即位時のメダイヨンや硬貨、B)トルコ戦争に関する銅版画や彫刻、C)アルチンボルドの《ウェルトゥムヌス》に分類して考察を行った。その結果、A)では新皇帝ルドルフを印象付けるため、B)では皇帝の勝利のイメージにより、帝国やキリスト教世界の平和が保たれることを示すため、C)では自然魔術により地上の黄金時代の魔術的皇帝像を構築するため、ルドルフの肖像が創造され、それらは同時代の文献において皇帝のほぼ思惑通りに受容されていたことが解明された。その成果をもとに、表象文化論学会第3回大会およびオタワ大学でのワークショップでの口頭発表、そして『表象』3号への論文投稿を行った。2.神話画従来の研究でルドルフの神話イメージで最重要とされたウェヌスやミネルウァなどの神話画について考察を深めることとした。まず、各々の作品について図像解釈を行った。そして、そこから導出されたキーワード「愛・叡智・寓意」の相互の関連性および政治権力との結びつきを、ブルーノの著作に基づき論じた。さらに、フィチーノを参照しつつブルーノとの比較を行った。その結果、ブルーノの思想が政治権力を強く志向していると判明した。ブルーノはルドルフを魔術的皇帝と崇めており、またプラハ宮廷の人々とも親交があったため、彼の神話イメージに関する政治思想が、ルドルフや宮廷人たちの思想と同様の方向性を有していた可能性を結論として提示した。その成果をもとに、東京大学で開かれたシンポジウム「イメージの作法」での口頭発表および『表象文化論研究』8号への論文投稿を行った。
著者
ROBERT F.RHODES ROBERT F. RHODES SARAH J.HORTON HORTON S. J.
出版者
大谷大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004 (Released:2004-04-01)

平安時代中期から後期にかけて、仏教が民衆の間に広まったことは、従来より指摘されている。しかし、仏教の拡大において、比叡山などで行われた「講」が大きな役割を果たしたことは、あまり注目されてこなかったように思われる。本研究では仏像の宗教的・社会的役割を解明するために、平安時代から鎌倉時代に行われた各種の講に焦点を当て、仏教儀礼の研究を行った。その結果、平安・鎌倉時代における仏像の宗教的・社会的役割がごある程度把握できたと考える。この研究を進める上で、二つの方法を採用した。一つは文献的研究である。この一年間をかけて研究分担者のホートン教授とともに、いくつかの講式(仏教儀式の時に用いられる式次第)や説話集に散見する仏像や仏教儀礼の記述をに関する解読作業をおこなった。取り上げた文献の主なものは『日本霊異記』、『法華験記』、『今昔物語集』、永観の『往生講式』などであったが、それに加えて『源氏物語』や『枕草子』に見られる仏像に関する記述や『矢田寺縁起絵巻』なども検討した。第二の方法として、平安時代・鎌倉時代の仏像を安置する寺院で行われている儀式に参加し、調査を行った。特にホートン教授は、ほぼ毎週近畿圏で行われている各種仏教儀礼に参加し、その様子を写真やビデオに納めた。また、その際には住職や一般信者に聞き取り調査も行った。特に興味深かったのは、奈良の薬師寺や京都の知恩院と清浄華院で行われる仏像の身拭い式であったが、その他にも奈良の伝香寺の有名な年中儀礼である裸地蔵の着替え式や京都の本能寺で行われる放生会にも参加することができた。
著者
安平 弦司
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25 (Released:2015-01-22)

本年度はまず、近年の近世史研究における最重要の概念の1つである「宗派化」を取り上げ、オランダ史における同概念の受容の過程を学説史的に明らかにした上で、17世紀ユトレヒトにおける宗派化の展開を、主に救貧の観点から分析した。分析の結果、宗派化論を達成度面から安易に拒絶することなく、それが示した近世的な権力メカニズムの視角を保持した理解が可能であることが示された。この研究成果の一部は、歴史家協会第14回大会(2015年6月、同志社大学)における口頭報告の他、『史林』第98巻6号(2015年)所収の書評においても活かされた。年度後半からは当初の研究計画通り、ユトレヒト大学のJ・スパーンス博士の指導下で在外研究に従事した。在外研究では、1620-70年代ユトレヒトにおける財政問題とその解決策へのカトリックの関与のあり方を、主にユトレヒト文書館所蔵の救貧関連史料を元に分析した。当該時期において、ユトレヒトの世俗当局は改革派教会からの圧力の下、都市の《公》の財政運営からカトリックを制度的に排除することを繰り返し試みた。それは実践面では貫徹されなかったが、1672-73年のフランス軍による都市占領が既存の財政問題を悪化させたことで、フランス軍撤退直後にカトリックのみが《公》の都市救貧院から排除され、カトリック救貧院が設立を余儀なくされた。その1年後世俗当局は、カトリック救貧院の募金活動が「公的」であるが故に当局の《公》の統治を侵害しているとして、カトリックに募金活動の停止を求めた。これに対してカトリックは、《公》の都市共同体への献身を喧伝し、視覚や聴覚に基づく独自の定義付けに従い、自らの募金活動は「非公的」であるが故に黙認され得ると主張し、結果的に募金活動の継続を勝ち得た。この研究成果の一部を、ユトレヒト大学で開催された国際会議において3回に渡り口頭で報告し、英語論文の投稿準備を進めた。