著者
内山田 康 O'DAY ROBIN O'DAY Robin
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

From April 2016 to August 2016, Dr. O'Day did 4 months of ethnographic fieldwork and continued working with NG0s, Fukushima evacuees and activists working on the related issues. He worked with a group mothers who have evacuated from Fukushima to Tokyo with their children, a group of mothers who remained in Fukushima after the nuclear accident, a group of volunteers that identify themselves as “supporters” of those evacuees, a peace movement of women called “Mothers Against War”, and another student peace and pro-democracy movement called Student Emergency Action for Liberal Democracy (SEALDs). In addition, Dr. O'Day also engaged in participant observation research at political demonstrations, community events, and by volunteering in some disaster reconstruction projects.
著者
梅田 道生
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本年度は昨年度の後半に引き続いて東京大学において研究を行い, 選挙制度改革が有権者の政権評価や投票行動に与えた影響を検証するために, 近年発達したベイジアン動的線型モデルについての研究を行った。またこの手法の基礎となるベイズ統計学とコンピュータを利用したその応用法についても学んだ。さらにこのモデルを昨年度までに作成した1960年代より今日に至るまでの日本の有権者世論調査に関するデータセットに対して用い, 分析を進めた。分析の結果は近日中に論文としてまとめ, 学会において報告する予定である。また本研究課題の一部として, 昨年よりミシガン大学のマッケルウェイン教授と朝日新聞社が衆議院総選挙前にそれぞれの選挙区において行っている有権者調査の1979年以降のデータを用いた共同研究を行ったが, この研究の成果の一部である選挙区レベルでの政党支持及び無党派層の割合の推移と政党得票の関係について, 5月に京都大学で行われた2013年度日本選挙学会総会・研究会において報告することができた。そのほかの研究実績としては, 選挙区ごとの有権者と議員/候補者の政策選好の類似性, および現職優位性について論じた単独研究の成果をそれぞれ学会で報告したこと, 谷口将紀研究室のメンバーでの共同研究の成果を岩波書店『世界』にて発表したこと, さらにダートマス大学の堀内勇作教授との共同研究の成果を, 日本政治学会や米国政治学会などの学会で報告し, さらにその成果の一部に基づく論文を査読付研究誌に投稿したこと, 昨年度執筆した書評が出版されたことなどが挙げられる。
著者
山中 伸弥 JOHANSSON ERIK MARTIN Johansson Erik Martin JOHANSSON Erik Martin
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

本研究の目的は、iPS細胞にがん特異的ゲノム変異を導入することで、脳腫瘍の発生をインビトロで再現し、遺伝子発現ダイナミクスを中心にした分子機序を明らかにすることである。本研究では、シングルセルエピゲノム解析によって、細胞の分化過程における遺伝子発現制御のダイナミクスを明らかにする。特に細胞分化過程における遺伝子発現のヘテロ性を考慮した解析を行うことによって、シングルセルレベルでの分化の度合いの定義を行い、その分化の度合いに従った遺伝子発現制御を明らかにする。これらのシングルセル技術を脳腫瘍発生モデルに応用することで、脳腫瘍の発生モデルを構築すると共に創薬スクリーニングの基盤を提供する。具体的には、二次性神経膠腫で特異的に見られるIDH1変異体をiPS細胞に導入し、この変異体をアストロサイトなどの神経細胞へ分化させる際に一過的に癌発現させる。その変異体がひきおこす正常分化の異常を捉えることを試みる。さらには複数の変異遺伝子を同時、または連続的に発現させることで多段階発がんモデルを作製する。これらのモデルを用いて、正常な神経分化から逸脱する細胞集団をシングルセル遺伝子発現解析で同定する。さらにはこの分化系を用いて癌様細胞が発生する培養条件で、それらの細胞集団を標的とする化合物の同定を試みる。
著者
小保方 晴子
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

再生医療研究において、作製された医療材料の生態親和性を評価することは極めて重要な実験項目である。ヒト細胞を用いた研究においては免疫拒絶反応を回避するため、ヌードマウスを用いた移植実験が多く行われてきた。ヌードマウスにヒト細胞で作成された組織を移植すると、組織再生が促され、比較的長期に生体内で維持されることが多く報告されている。ヒト細胞のヌードマウスへの移植系はヒトへの自家移植系の模擬実験系と認識されている。そのため、ヒト細胞のヌードマウスへの移植結果は、ヒト臨床研究に移行する前の重要な参考データとなっている。本研究課題はこのような組織工学・再生医療研究の歴史を踏まえ、皮下移植後のヒト組織再生を促進させる因子の探索と、ヒト臨床研究に向けて、ヒトへの移植後どのような反応が起こるのかを正確に予測できるような動物実験モデルを構築することを目的として研究を進めている。特別研究員採用期間に行った研究から、再現性の高い皮下移植法を開発し、野生型マウスとヌードマウスの皮下移植後の免疫応答の違いや、汚職組織の組織再生能の違いについての形態学的・遺伝子学的に解析を行い新たな知見を多く見出してきた。また免疫応答をコントロールするため免疫抑制剤で免疫応答を抑制した野生型マウスとヌードマウスの皮下移植後の組織と免疫応答の比較研究も行ってきた。本年度はこれまでの研究成果を論文にまとめ、研究成果から見出された新規の体性幹細胞の研究にも取り組んでいる。
著者
檜山 充樹
出版者
琉球大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究における目的は、鱗翅目シジミチョウ科の小型の蝶であるヤマトシジミの北限個体群において多数確認された翅の色模様修飾の出現要因を探ることを目的としている。その要因解明のため、1、野外個体における色模様修飾形質の遺伝性、2、色模様修飾と低温耐性の同時進化、3、色模様修飾個体における選択圧の有無という3つの視点から、去年度に引き続き研究を進めてきた。今年度の実験として、ヤマトシジミの生息北限において採集された斑紋修飾個体および非修飾個体からそれぞれF1、F2、F3を得たのち、各世代における色模様修飾個体の出現頻度を比較したところ、修飾個体が有する斑紋が遺伝することが確認され、北限個体群において生じた色模様変化形質が一部の個体では遺伝的に固定されていることが明らかとなった。また、配偶者選択における、雌個体の色模様修飾に伴う選択圧の有無を調べるため、北限個体の雄を用いて、修飾個体と非修飾個体とを選択させる行動実験を行ったところ、北限個体では南方の個体群と同様の選択性を示し、斑紋修飾が雄の配偶者選択に大きな影響を及ぼさないことが明らかとなった。以上の成果から、ヤマトシジミの北限個体群において生じた色模様修飾型の出現機構がほぼ明らかとなり、その過程は以下のようであったものと考えられる。すなわち、生息環境の北進に伴う未経験の低温環境が生じ、そのような低温環境に耐えるだけの低温耐性を持つ個体において、副次的に生じた色模様修飾が、低温環境が継続されることにより遺伝的に固定され、さらに色模様修飾個体に大きな選択圧がかからなかったことにより個体群内に浸透した結果、北限個体群において、色模様修飾個体の大量出現が生じたものと考えられる。以上の研究結果は、表現型可塑性が生物の進化の直接的な原動力になる可能性があることを示す、非常に貴重な研究事例であるものと考えられる。
著者
三浦 瑠麗
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

これまで「攻撃的な戦争」の多くが軍の責任に帰されたのに対し、シビリアンは多くの攻撃的な戦争を引き起こしてきた。軍がシビリアンの推進する好戦的な戦争に反対したケースさえ数多く指摘できる。同様に、リベラリズムの議論は権威主義体制、全体主義体制やミリタリズムの国が攻撃的な戦争を引き起こしがちだと考えてきたが、実は安定したデモクラシーによって数多くの攻撃的な戦争が引き起こされてきたのである。本研究はデモクラシーにおける「シビリアンの戦争」というこれまで見過ごされてきたテーマの研究であり、リアリストの理論では説明できない開戦判断や敵意の説明、安保政策研究者が勝敗にのみ注目してきた戦争の開戦判断に纏わる説明を提供し、リベラリストが分析してこなかったデモクラシー下のシビリアンの戦争の理論化を試みた。事例としてアメリカ、イギリス、イスラエルの先進民主主義国を比較分析することにより、先進民主主義国特有の現代的な問題、軍の反対する「シビリアンの戦争」を指摘し得た。シビリアンの攻撃的な戦争は個別の歴史研究で明らかにされてきたし、人々は同時代の好戦的なシビリアンの存在をみとめてきた。しかし、個別の戦争の説明は特定の指導者の資質や好戦性など属人的な議論に流れがちであった。本研究は構造的な要因を説明し、デモクラシー下のシビリアンが攻撃的な戦争、不必要な戦争を望んだ時には、民主的な制度や理念による戦争の防止は期待できず、対照的な軍の消極性を考えれば、シビリアン・コントロールもまた攻撃的な戦争を防止するための解ではないことを解き明かした。このように、本研究は伝統的政軍関係理論とは異なる政治と軍事の関係の研究分野を切り拓くことができたのである。本研究はわたくしの博士論文として東京大学に提出するため、執筆の最終段階である。
著者
三浦 瑠麗
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究課題は多国籍企業の展開を通じた人々の意識の変化、そしてそれが国際関係にもたらす長期的な影響の仮説を理論的に構築し、部分的に実証することであった。そこで、昨年度は初年度の理論化の作業に続いて中国発多国籍企業のイギリスにおける進出の政治的余波とそれへの対応を調査し、先進国市場に進出したアジア発多国籍企業が直面する課題とそれへの対応が確実になされていることを確認した。また、経済的相互依存による平和仮説、いわゆるコマーシャル・ピースの例外とされる東アジア(いわゆる東アジアパラドックス)において、日中韓につきN=各2000での対外意識調査を設計し同時に実施した。それを分析した結果、人々の対外認識がビジネスの性質によって大きく異なることを実証した。一般的には東アジアでは歴史問題の存在によって厳しい政府間の対立があり、また攻撃的な世論の存在がその政府の対立姿勢を支えているとされる。しかし、東アジアパラドックスの存在を指摘しただけでは、コマーシャル・ピースのメカニズムが実際に存在しているのか、それとも存在していないのか(政治と経済は別なのか)は定かではない。したがって、本研究ではコマーシャル・ピースが機能するための段階論を定義した上で、日中、日韓の貿易構造や国内政治経済構造を分析の射程に含め、どのようにコマーシャル・ピースが十分に作用しなくなっている状態なのかを解析した。この研究成果は東京大学政策ビジョン研究センターの主催した日米中韓を主な参加者とする国際会議において発表し、高い評価を受けた。また、時事通信社のE-Worldにも短い論考ではあるが日中両国民間にしぼった分析を寄稿した。引き続き研究成果を還元するため成果を様々な媒体に公表していきたい。
著者
内村 康人
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

本研究は、世界最長のC-C単結合を有する化合物の合成研究を通して、共有結合の極限構造を実験的に明らかにすると共に、共有結合に関する新概念の確立を図ることを目的としている。また、導出した骨格を利用して世界最長の非イオン性C-O、C-N結合を有する化合物の合成研究への展開を目指したものである。昨年度までに、分子内の立体歪み効果を利用した分子設計に基づき、①従来の世界記録1.791(3)Åを上回る炭素‐炭素単結合を有する1H-ベンゾ[cd]インドール-2-オン骨格を含むヘキサフェニルエタン(HPE)型化合物、②1H-シクロブタ[de]ナフタレン骨格を含む、世界初のHPE型化合物のα,o-異性体、③“Scissor効果”を利用した、長いC-O結合を有する2H-ナフト[1,8-bc]フラン誘導体、の合成および構造決定に成功している。また、極限まで伸長した結合が示す『伸長性』に由来する特異な現象を数多く観測すると共に、精微な分子設計により、結合と非結合が重複する原子間距離領域が存在することを見出している。本年度は、これらの研究成果をまとめ、博士論文を作成し、博士号を取得した。また、ドイツのキール大学に渡航し、メビウス芳香族分子の合成研究に従事した。より自由度の低い新規メビウス分子を合成するために、ジエチルフェナントレンを基本ユニットとする化合物を設計し、その合成を行った。現在までにメビウス分子前駆体の合成に成功しており、今後、この原料をキール大学の学生が引き継ぎ、メビウス芳香族分子の合成を行う予定である。
著者
唐澤 太輔
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

南方熊楠の「やりあて」(偶然の域を超えた発見や発明・的中)を可能たらしめている「場」の研究を中心に行った。その場とは「南方曼陀羅」における「理不思議」という領域であることを明らかにした。そして、統合失調症者に見られる様々な症状を比較対象とし、いわば「人間学的精神病理」の見地から研究を行った。自己と他者との境界・区別が曖昧になる領域を、自己と他者とをつなぐ「通路(パサージュ)」として捉え、その場に立ち、他者と交感し、さらに再び自己へと戻ることが、「やりあて」を可能にする条件の一つという結論を導き出した(『ソシオサイエンスvol.17』「南方熊楠の『大不思議』論-根源的な場に関する考察-」)。「やりあて」が可能になる場を「自他の区別が曖昧になる場」とする一方、自他を根底から支え、含み、さらに自他の内に含まれながらも、それらを超えている根源的な場を「自他融合の場」とし、それを「南方曼陀羅」における「大不思議」に見出した。そして、「大不思議」という、いわば「生命の根源的な場」を、熊楠と土宜法龍との間の往復書簡における言説から考察した。またCG.ユングの深層心理学を援用し、「南方曼陀羅」が熊楠の思想の核であると同時に、彼自身の心のカタルシス(浄化作用)としても機能していたのではないか-つまりこの曼陀羅を構築することで、彼自身の心に「統合性」が与えられていたのではないか-という新たな仮説を立て、考察を行った(『トランスパーソナル学研究vol.11』「南方曼陀羅への深層心理学的アプローチ-ユング心理学を手がかりに-」)。さらに、熊楠と彼の研究対象であった粘菌との関係から、熊楠が知り得たことを「内観」をキーワードに、研究・発表した、(「第9回日本トランスパーソナル学会大会」「南方熊楠の「内観」に関する考察-ユング心理学を援用して-」)。
著者
松田 和樹
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-04-26

4-6月期は、修士課程における研究を更に発展させるとともに、フェミニズム/クィア理論によるリベラリズムに対する批判を検討した。この成果を5月31日のクィア・セミナー(東京大学駒場キャンパス)と、6月18日の日本女性学会(中京大学)にて報告し、そこで討議された内容を研究にフィードバックした(クィア・セミナーにおける研究報告は日本女性学会におけるものとほぼ同様のものであったため、業績欄には掲載していない)。7-9月期は、主にリベラリズムによるフェミニズム/クィア理論に対する批判を検討した。この期間に研究した成果と修士論文の研究内容の一部、そして博士課程での研究計画の一部を、9月初旬の東京法哲学研究会/関西法理学研究会合同研究合宿(同志社大学)にて報告した。10-12月期は、フェミニズム/クィア理論に、リベラルな正義基底性への内在的コミットメントを見出すことができるか否かを検討した。この研究成果の一部と修士論文の研究内容の一部とを、12月のジェンダー法学会(東北学院大学)にて報告した。また、交付申請書に書かれた研究実施計画よりも早くに研究を進展させることができたため、この時期に初年度新たに取り組んできた研究成果全体を一本の軸にまとめ治す作業を行い、これを通して2018年度の日本法哲学会(東京大学)にて報告するテーマと内容とを概ね決定し、分科会報告に応募した(発表確定済みであるが、次年度の研究報告書に記載する)。1-3月期は、次年度の作業を予備的に行いつつ、修士論文の研究成果と初年度の研究成果とを更に発展させた。ここでの研究成果の一部を、国家学会雑誌における論文に掲載する(掲載確定済み)。また次年度の研究計画をより詳細なものに練り上げていった。
著者
中野 綾子
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、学徒兵の戦場での読書行為の様相を、実証的かつ総合的に明らかにしていくことで、アジア・太平洋戦争以降、読書の枠組みがどのように組み替えられ、または固定化されてきたのかという、読書行為の認識そのものを問うことを目的としている。本年度は以下のような研究を実施した。昨年度に引き続き、戦時下学生の読書関係資料の収集、調査を継続した。その中で、文部省と日本出版文化協会による良書推薦制度についての分析を行った。その成果は、20世紀メディア研究所発行『Intelligence』に掲載予定である。また、入手困難とされていた雑誌『新若人』(旺文社)の学生向け読書関連記事についての考察を行うことで、戦時下の学生の読書に対する意識変化を明らかにした。その成果は「雑誌「新若人」について 付・「学徒は如何なるものを読む可きか」アンケート結果一覧」として、『リテラシー史研究』(8)に掲載されている。また、昨年度の高知大学に所蔵される木村久夫の蔵書調査から判明した、戦時下の木村久夫の読書状況について、『東京新聞』(夕刊)に寄稿した。当該年度は、戦場における学徒兵(知識階級層)の読書についての考察のため、『兵隊』や『陣中倶楽部』などの戦場に流通していた雑誌について分析を行った。中国大陸における代表的二誌の読者層を明らかにし、その成果については日本出版協会発行『出版研究』に掲載予定である。さらに、当該年度は戦後の「戦場における読書」に関する表現の分析にも着手した。『きけ わだつみのこえ』収録の手記に掲載されている読書状況をはじめ、大西巨人『神聖喜劇』などテクストに記された戦場での読書の分析を進めることが出来た。その成果については、学会誌に投稿予定である。
著者
永岡 崇
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

アジア・太平洋戦争において、天理教の信徒たちが行ったひのきしんがもつ意義を、帝国日本というより大きな文脈に位置づけなおすため、1940年代前半の代表的ひのきしん論である諸井慶徳『ひのきしん叙説』と、帝国日本による「聖戦」の教義を端的に示すと思われ、天理教のひのきしん隊も多数参加した橿原神宮神域拡張事業において語られた言説との比較を試みた。天理教信徒にとって、「聖戦」の教義はひのきしんの教義と深いところで響きあっており、前者を後者に手繰り寄せる形で総力戦の遂行を主体的に担っていったと思われる。また、「聖戦」の教義がひのきしんのような宗教思想・信仰と親縁性を有し、それへの読み替えを通じて実践されたことを明らかにし、アジア・太平洋戦争の宗教戦争としての性格を改めて見直し、その宗教性の受け皿となった宗教教団や社会集団の思想・実践との比較を行うとともに、それらとの接触の様相を分析していく必要性を提起した。これまで遂行してきた作業によって、戦後の宗教教団にとって非本来的で否定的なものとしてのみとらえられがちであったアジア・太平洋戦争期の経験を、現代の教団、またその教義や信仰のあり方を構成する重要な要素として位置づけ、負の側面へと深化していく宗教性のありようを積極的にとらえる歴史-宗教学的考察の領域を切り開くことができた。
著者
林 博貴
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、超弦理論の真空を用いて現象論における問題を解明することである。その中でも特に、F理論のコンパクト化は四次元の超対称性大統一理論に出現する物質場と湯川結合を全て生成することができるため、現象論を議論する超弦理論の真空として非常に魅力的である。本年度はF理論を用いた超対称性大統一理論における陽子崩壊問題について議論した。超対称性を持った大統一理論は、繰りこみ可能な陽子崩壊を引き起こす演算子の存在が一般には許されてしまう。そこで、F理論を用いて大統一理論を構築した際にも、この項をなんらかの方法で禁止する必要がある。我々の研究以前まででよく用いられてきた方法は、あるゲージ群を大統一理論のゲージ群へ破る際に導入する随伴表現スカラー場の期待値を特殊に調節することによって、余分なU(1)対称性を低エネルギー理論に残すというものである。このU(1)対称性によって次元四の陽子崩壊演算子は禁止されると思われてきた。しかし、内部空間の構造をよく調べるとこの期待値が発散し、ゲージ理論の近似が悪くなる場所があり、そこを考えてもU(1)対称性が残るかは自明ではない。そこで、我々は期待値が発散する場所も含めたF理論の内部空間全体を詳細に解析することで、生成されると思われてきたU(1)対称性が実際には破れていることを示した。さらにその元で、次元四の陽子崩壊演算子が生成されることをも明らかにした。我々の研究によって初めて、ゲージ理論の枠内を越えた寄与が物理的帰結を与えることが示され、F理論の内部空間全体の構造も重要であることが認識された。
著者
前田 太郎
出版者
東京海洋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

嚢舌目ウミウシは、餌海藻の葉緑体を細胞内に取り込み光合成を行わせる(機能的盗葉緑体現象)。今までは嚢舌目Volvatellidae科が、盗葉緑体現象が獲得される前の祖先的な形質状態を残すグループと考えられてきたが、今回、嚢舌目内の分子系統解析により、嚢舌目の分化と同時に盗葉緑体現象が獲得され、その後Volvatellidae科内で失われたことを示した。これにより、盗葉緑体を獲得する以前の祖先種の生活史や形態の見直しを行い、盗葉緑体というユニークな現象の進化を、信頼できる系統関係から考察することができるようになった。さらに、嚢舌目ウミウシの内、盗葉緑体の光合成能保持期間が最も長い(約10ヶ月)チドリミドリガイ(Plakobranchus ocellatus)について、葉緑体DNA上にコードされるrbcL遺伝子を標的としたクローンシーケンシング解析とt-RFLP解析により、1,単一のチドリミドリガイ個体が、8種の藻類(嚢舌目ウミウシの中では最も多い)に由来する葉緑体を保持すること、2,8ヶ月間に渡り、経時的に、野外個体内の葉緑体組成を計測したところ、組成が月ごとに大きく変化することが示された、今まで、チドリミドリガイは機能的盗葉緑体に強く依存し、幼体期に摂食をして葉緑体を得た後は、摂食を行わないと考えられてきたが、もし野外で摂食が希ならば、葉緑体組成は変化せず、月間で同じような組成を示すはずなので、この結果は、野外でチドリミドリガイが頻繁に摂食を行い、葉緑体を補充していることを示している。このことから、野外の個体は、光合成のみに依存せず、海藻の摂食からも栄養を得ていることが示唆された。これは、機能的盗葉緑体を行う種の、野外での栄養取得状況を初めて確度高く推定したものである。
著者
中瀬 悠太
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

ネジレバネの中で最も多様化しており宿主の情報も揃っているグループであるハナバチネジレバネについて、日本産種を中心に、ヒメハナバチに寄生するStylops属のネジレバネとコハナバチに寄生するHalictoxenos属とEustylops属のネジレバネについて分子系統解析を行った。その結果、liハナバチネジレバネ属とヒメハナバチネジレバネ属それぞれの単系統性が強く支持され、それぞれの系統上で多様化が独立に進行したことが明らかになった。また、分子と形態双方の情報よりネジレバネの新しい種の概念を提示し、コハナバチネジレパネ属は単独性コハナバチよりも真社会性コハナバチをより高い確率で宿主としており、しかも宿主特異性がきわめて高いことを示した。また、ネジレバネによる宿主の訪花行動の操作を検出するために、本研究では寄生されたハナバチの変化と訪花植物の送粉者への報酬に注目し、調査を行った。ネジレバネに寄生されたハナバチは生殖能力を失い営巣しなくなるため、幼虫の餌として花粉を集める必要がなくなり花粉に対する需要が変化する。またエゾアジサイはハナバチを中心に様々な昆虫が訪花するが、花粉のみを送粉者への報酬として提供しており、蜜を出さない。花蜜と花粉を出すトリアシショウマと、花粉のみを出すエゾアジサイが同時期に同所的に開花している場所で、どちらの花にも頻繁に訪花し、かつネジレバネの寄生がみられたニジイロコハナバチに特に注目し、7月に長野県小谷村周辺で調査を行った。ネジレバネに寄生されたハナバチは通常のハナバチと同様にエゾアジサイの花に訪花するが、花の上での行動は変化しており、寄生されたハチは花の上で採餌も集粉も行なわずネジレバネの1齢幼虫を放出するような行動を行なっていることを明らかにした。これらの研究成果は宿主とネジレバネの寄生系の実体の解明につながる重要なものである
著者
手嶋 泰伸
出版者
東北学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は、現在まで本格的な分析の行われてこなかった戦間期における日本海軍の政治史的動向と役割を、特に陸海軍関係に着目することで解明し、戦間期の政治史研究の深化に実証的な貢献をなすことである。平成24年度においては、ワシントン海軍軍縮期・ジュネーブ海軍軍縮期の分析を行い、防衛省防衛研究所図書館・国立国会図書館憲政資料室を中心に、戦前期陸海軍の関係文書を調査した結果、以下の点が明らかになった。また、平成25年に行う予定であった海軍の南進論を中心とした戦略思考の再検討も行うことが出来たため、それについても以下で記述する。(1)ワシントン海軍軍縮会議と海軍軍部大臣武官専任制が改定されなかった最大の原因は、海軍にあったと結論することが出来た。(2)ジュネーブ海軍軍縮会議と海軍財部彪がジュネーブ会議時に全権就任をかたくなに拒否しつつも、ロンドン会議時に全権就任を承認するようになるには、時々の利害観測により、海軍へ有利な状況を作り出そうとする政治的意図があったことが判明した。(3)南進論を中心とした海軍の戦略思考の再検討南洋群島開発政策の政治過程の中で、海軍の政治的影響力は強かったものの、その関与は限定的な時期もあったことが確認され、とかく中堅層の急進的な南進論を重視してきた先行研究の見解には再考の余地があることが認められた。
著者
SIVILKA Juliann KHOMENKO Olga KHOMENKO OLGA
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

オリガ・ホメンコ(研究分担者)は6月12日から20日まで共同研究成果を米国のボストンで開催されたジェンダーと消費者行動学会で、日本におけるバレンタインの歴史・プレゼント交換の文化史について発表を行った。その際に米国の研究者と意見交換を行い、また、発表を雑誌論文にする計画を立てた。6月3日から9日までモスクワにあるロシア国立図書館で、ソ連崩壊後の消費文化構造の変化、商品広告の誕生についての広告資料の収集を行い,それらを分析して戦後日本の事情と比較した結果を10月に名古屋で行われたロシア・東欧学会で、「ソ連崩壊後のロシア消費構造と消費文化の変化と転回・戦後日本との共通点と違い」として発表した。その時に多くの日本のロシア研究者と意見交換でき、次の共同研究につながることを期待している。6月27日から29日に仙台で行われたカルチャラルタイフィン学会では「戦後日本人女性の自己実現・広告と現実の間」について発表した。その時に日本におけるカルチャラルスタディーズの重要な人物と面会でき、自らの研究について報告もできた。以上の研究活動の結果として、今年度四つの雑誌論文を投稿することができた。日経広告研究所が発行している「日経広告研究所報」の4月と5月号に「戦後の商品広告と女性アイデンティティー形成(上)-「もの」と「幸せ」の関係」(上・下)を投稿した。そしてウクライナ科学アカデミーが発行している「東洋の世界」に"Women's, western cosmetics, advertising and shaping of women's identity in Japan during 1950s"と東京大学出版会発行の『思想史』(2008年9月号)に「婦人雑誌の家電広告における女性像の変化について(50年代後から)-母親像から多様な女性像への変化-」を投稿した。
著者
蔦尾 和宏
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

本年度も『今鏡』『古事談』を中心に研究を行った。『今鏡』について述べれば、『今鏡』は一般的に「面白くない」作品として認知されている現状があり、各研究はこれを打破すべく論を積み上げてきたが、近代以降の享受者が「つまらない」と感じる側面もまた『今鏡』の個性に他ならないため、研究論文の命題設定としては異端であると理解しつつも、その「つまらなさ」の要因を「歌徳説話」という視座を中心に考察、それが史実の忠実な継承を望み、想像による創造に消極的な作品の性格に起因することを明らかにし、そのような性格が仏教の妄語戒への意識に由来することを指摘した。「「打聞」論」の内容は昨年の報告書に言及したのでこれを省く。『古事談』研究では、武士説話を集成した「勇士」について一文をものした。「勇士」の説話採録を支える視点が「殺生」に存したことを確認、さらに『古事談』が成立した時期には鎌倉幕府の成立がほぼ重なるが、「勇士」の説話構成には鎌倉幕府の開祖・頼朝の世系を辿ることが軸に据えられたことから、結果として「勇士」は、鎌倉将軍家が血にまみれた「武士」の系譜で結ばれていることを明らかにし、公卿にまで至った頼朝、頼家もその死に際から見れば、先祖たちと何ら変わらないことを『古事談』が暗に示そうとしたとの見通しを述べた。また、「「臣節」巻末話考」は、発表論文の標題からは「臣節」の巻に限って考察を施したように見えるが、内容は作品全体の世界認識を問うものである。『古事談』各巻の巻末話全てを取り上げ、それらが共通して、大団円を迎える結末に水をさす、なにがしかの要素を持ち合わせていることを指摘、そのような説話が巻頭話と対になって巻の顔となる巻末話に据えられたのは、人の世の事象は一面的なものでは決してなく、正の面があれば必ず負の面をも伴うのだとする『古事談』の世界観に立脚することを論じた。
著者
小島 渉
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

集団で生活するカブトムシの幼虫において、自分が作った蛹室が、近くにいる他個体に壊されてしまう可能性がある。前年度の研究から、蛹室に幼虫が近づいた時、蛹は回転運動により振動を発し、幼虫の接近を防ぐことが明らかとなった。今年度は、蛹の振動信号を受容した幼虫が、どのようなプロセスで蛹室から離れるのかを解析した。幼虫の行動を直接観察するのは困難なため、幼虫が地中を動くときに発する微弱なノイズを計測することで、幼虫の行動を評価した。その結果、蛹の振動を受容した幼虫は約10分間のフリーズ反応をおこすことがわかった。また、蛹の発する振動の成分中の低周波の成分が、幼虫にこのフリーズ反応を引き起こすことが明らかとなった。幼虫の天敵であるモグラの発する振動に対しても、幼虫はフリーズ反応を示したことから、振動に対する幼虫の反応は、モグラなどの捕食者に対する戦略が起源となっているのではないかと考え、種間比較を行った。蛹が振動を発しない近縁種のスジコガネ亜科とハナムグリ亜科の幼虫に対し、カブトムシの蛹の発する振動を与えたところ、カブトムシの幼虫と同じように、約10分間のフリーズ反応をおこした。つまり、ある振動に対してフリーズを起こすという幼虫の性質は、コガネムシのグループに古くから存在していた性質だと考えられる。カブトムシの蛹は、もともと幼虫が持っていた性質に便乗することで、振動信号を進化させた可能性が高い。本研究は、感覚便乗モデルの数少ない実証例であり、動物のコミュニケーションの進化を考える上で重要な発見である。