著者
三島 雅之
出版者
日本毒性学会
巻号頁・発行日
pp.S11-2, 2016 (Released:2016-08-08)

バイオ医薬品の高分子不純物には、製造に用いた宿主細胞由来の蛋白質(host cell protein, HCP)、医薬品本体の分解、修飾、会合により発生する蛋白質成分、大量培養中に発生する遺伝子突然変異による医薬品の変異体(sequence valiant, SV)などがある。これらの不純物については通常の分析法では検出しにくいこともあり、その種類や量について十分に把握できないまま、非臨床試験において許容できない毒性が認められないことを根拠に臨床試験に進んでいる。近年の分析技術の進歩により、抗体医薬に混入する高分子不純物の詳細が解明されつつあり、それに伴い、それらの不純物がヒトに与える影響についても徐々に理解されはじめている。CHO細胞に由来するHCPの一種であるPLBL2タンパクは、抗体医薬品に結合して原薬に混入するが、ポリクロ―ナル抗体を用いるHCP分析法では見えにくく、ヒトに対して極めて免疫原性が高い。少量のSVは偶発的に発生するが、アミノ酸変異によりそれまで抗原提示されなかった部位が提示され、医薬品本体が本来誘発しないT細胞の活性化を誘発することがある。抗体医薬のアグリゲートは、ヒト抗原提示細胞において医薬品本体に由来する潜在的T細胞エピトープ配列の抗原提示を増強すると同時に、本体が持たない新たなエピトープを有し、抗医薬品抗体を誘導する可能性がある。また、アグリゲートはFc受容体を通じて、強力にADCC活性やサイトカインを誘導する可能性がある。これら免疫系が介在する反応は、「適切な動物種」を用いた非臨床試験を実施しても、免疫の種差によりヒト毒性が予測できないことが多い。ここでは、最近明らかにされつつある高分子不純物に起因する免疫反応を毒性の観点から整理し、動物で検出できない潜在的リスクに対する非臨床毒性評価の可能性と、医薬品不純物としての許容値設定にむけた課題を論じたい。