著者
川島 直逸 河原 俊介 安堂 有希子 羽田野 悠子 三瀬 有香 芦原 隆仁 吉岡 信也 若狭 朋子
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.290-295, 2014

子宮肉腫は全子宮悪性腫瘍の約5%とまれな腫瘍で,その画像所見が多彩であることなどから術前診断は一般的に困難とされ,子宮筋腫との鑑別診断には苦慮することが多い.今回,子宮筋腫の経過観察中に子宮平滑筋肉腫を発症した1例を経験したため報告する.症例は51歳,1経妊1経産.健診にて子宮筋腫を指摘されたため,当科紹介受診となる.経腟超音波検査・MRIにて子宮体部筋層内に径6cm大の腫瘤を認め,子宮筋腫と診断し定期的な経過観察とした.初診の約2年後より不正性器出血が出現した.超音波検査では,腫瘍の増大傾向は認めなかったが,腫瘍の一部に高輝度領域が出現していたので,子宮筋腫の変性を疑った.その後も不正性器出血が続くためGnRHアゴニスト療法を開始したが,開始4カ月後の超音波検査にて,腫瘍は径9cm大と増大し高輝度領域も拡大していた.血液検査では腫瘍マーカーやLDHなどは正常値で,子宮内膜細胞診も陰性であった.MRIでは,子宮体部の腫瘍は径10cm大に増大し,T2強調像で不均一な高信号を呈し,また腫瘍の一部で強い造影効果を認め,子宮肉腫が疑われた.CT検査では両側肺野に多発転移病巣が疑われた.子宮肉腫の臨床診断で,腹式子宮全摘術および両側付属器摘出術を施行した.摘出標本の病理所見では,子宮体部の同一腫瘍内に平滑筋腫組織と平滑筋肉腫組織が存在し,かつ両者は混在するように接しており,子宮筋腫の悪性転化もしくは既存の子宮筋腫の近傍より平滑筋肉腫が発生したと推察された.子宮平滑筋肉腫IVB期の最終診断で,術後化学療法を施行中である.子宮筋腫の取り扱いにあたっては,診断時の子宮平滑筋肉腫との鑑別のみならず,まれではあるが経過観察中にも子宮平滑筋肉腫発症の可能性を考慮することが必要と思われた.〔産婦の進歩66(3):290-295,2014(平成26年8月)〕