著者
伊藤浩司 高木 喜代文 三角 守 沼口 寛次
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.257-263, 1989-03
被引用文献数
2

ネピアグラス(Pennisetum purpureum Schumach)の品種メルケロンを供試し,1987年5月9日に第7〜10葉期の分げつを植付け,10月22日までの期間にわたり,Nの総施用量を50kg/10aとする多肥条件下で栽培した。栽植密度4.0株/m^2(標準区)と8.2株/m^2(密植区)の2区を設け,いずれも無刈りとして,生長パラメーター及びその他の乾物生産関連要因の変化を比較した。単位土地面積当りの茎数,葉面積,植物体各部の乾物重はいずれも密植区の方が高い値で経過した。両区とも,葉面積指数(LAI)は9月下旬に,標準区で12.5,密植区で15.3の最大値を示したが,植物体全乾物重は最終調査時まで増加を続け,標準区で42.8ton/ha,密植区で55.0ton/haに達した。LAIと吸光係数(K)との関係は両区ほぼ一致し,LAIの増大に伴いKは低下した。9月以後の気温及び日射量の低下により,純同化率(NAR)及び個体群生長速度(CGR)は両区とも減少したが,それ以前におけるLAIとNAR及びCGRとの関係は両区に大差なく,LAIの増大に伴うNARの減少が小さいため,CGRはLAIにほぼ比例して増大した。CGRは両区とも8月中旬の頃に最大となり,その時のLAI及びCGRは,標準区で7.5,53,5g/m^2/日,密植区で10.6,62.3g/m^2/日であった。しかし,CGRの最大値は気温及び日射量の低下によって生じており,上記のLAIは最適LAIを示すものではなかった。以上のように,LAIとCGRとの関係は両区に大差なく,乾物収量の区間差は主としてLAIの拡大速度の差による。従って,南九州のようにC_4-型牧草の生産期間が短い地域ではとくに,密植などによるLAIの拡大促進は生産量の増大に有効である。