著者
沈 益新 石井 康之 伊藤 浩司 沼口 寛次
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.276-284, 1990-10-31
被引用文献数
2

青刈用ソルガムの生産性向上の一つの手段として,ジベレリン(GA),α-ナフチル酢酸(NAA)およびサイコセル(CCC)処理により乾物生産態勢を変更し,その処理が多回刈における乾物生産性と耐倒伏性に及ぼす影響を検討した。7月下旬と9月中旬に台風11号と22号が通過して,材料の多くが倒伏したので,その都度刈り取って1番草及び2番草とした。3番草は11月下旬に刈り取った。植物生長調節剤処理は,1,2番草に行い,3番草には行わなかった。従って,1,2番草では処理の直接的影響,3番草では2番草に対する処理の後作用を各々検討した。乾物増加は1,2番草ではGA処理により促進され,CCC処理により抑制される傾向であったのに対して,3番草のGA区では抑制され,CCC区では促進された。NAA処理では各番草とも乾物収量が増加した。葉面積指数(LAI)はいずれの処理区も対照区よりわずかに増加したうえ,吸光係数(K)が低下した。Kの低下は,GA区では草高の増大により,NAA区では茎の傾斜によると考えられた。このため,1,2番草ではGA及びNAA処理により純同化率(NAR)が増大し,乾物生長が促進された。3番草のCCC区では低温下でも茎数が増加して葉面積の拡大が促進されたことにより乾物生長が促進された。3番草のNAA区ではLAIの増加が促進されるとともに,頂芽優勢により少数の大きな分げつで個体群が構成され,低温下でのNARが比較的高く維持されたことによって,乾物生長が促進された。NAA処理によって,台風の際の耐倒伏性が強まった。これはNAA処理によって平均節間長が短く,冠根数が多くなることによると推察された。以上の結果,年間乾物収量はGA区及びNAA区が対照区より多くなり,特にNAA区では,22号台風による2番草の倒伏率が低かったので,このとき刈り取らなかった場合の年間収量は,対照区の1.9倍であった。CCC処理は年間収量を高める効果はほとんどなかった。
著者
伊藤浩司 高木 喜代文 三角 守 沼口 寛次
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.257-263, 1989-03
被引用文献数
2

ネピアグラス(Pennisetum purpureum Schumach)の品種メルケロンを供試し,1987年5月9日に第7〜10葉期の分げつを植付け,10月22日までの期間にわたり,Nの総施用量を50kg/10aとする多肥条件下で栽培した。栽植密度4.0株/m^2(標準区)と8.2株/m^2(密植区)の2区を設け,いずれも無刈りとして,生長パラメーター及びその他の乾物生産関連要因の変化を比較した。単位土地面積当りの茎数,葉面積,植物体各部の乾物重はいずれも密植区の方が高い値で経過した。両区とも,葉面積指数(LAI)は9月下旬に,標準区で12.5,密植区で15.3の最大値を示したが,植物体全乾物重は最終調査時まで増加を続け,標準区で42.8ton/ha,密植区で55.0ton/haに達した。LAIと吸光係数(K)との関係は両区ほぼ一致し,LAIの増大に伴いKは低下した。9月以後の気温及び日射量の低下により,純同化率(NAR)及び個体群生長速度(CGR)は両区とも減少したが,それ以前におけるLAIとNAR及びCGRとの関係は両区に大差なく,LAIの増大に伴うNARの減少が小さいため,CGRはLAIにほぼ比例して増大した。CGRは両区とも8月中旬の頃に最大となり,その時のLAI及びCGRは,標準区で7.5,53,5g/m^2/日,密植区で10.6,62.3g/m^2/日であった。しかし,CGRの最大値は気温及び日射量の低下によって生じており,上記のLAIは最適LAIを示すものではなかった。以上のように,LAIとCGRとの関係は両区に大差なく,乾物収量の区間差は主としてLAIの拡大速度の差による。従って,南九州のようにC_4-型牧草の生産期間が短い地域ではとくに,密植などによるLAIの拡大促進は生産量の増大に有効である。
著者
近藤 和彦 石井 康之 伊藤 浩司 沼口 寛次
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会九州支部会報 (ISSN:02853507)
巻号頁・発行日
no.60, pp.50-53, 1994-03-11
被引用文献数
1

春播き(4月5日播種)および秋播き(1O月1日播種)のベントグラスにおいて,冬期の乾物生長に対する生長調節剤処理の影響について検討した。生長抑制剤バウンティ散布区(B区),蒸散抑制剤ミドリテール散布区(M区)および対照区(C区)を設け,B区は11月中旬に1回のみ,M区は11月中旬より2週間間隔で,春播きは計8回,秋播きは計上0回処理した。地上部乾物重は,処理後4週間目ではB区が最も小さかったが,春播きでは2月11日以降,秋播きでは1月7日以降B区の地上部重が他の2区よりも大きくなった。秋播きの刈株乾物重および葉身重比率は,B区が一貫して他の2区よりも有意に大きかった。茎数は,生長抑制剤処理により増加し,その処理の影響は秋播きの方が大きいことが示された。これは処理開始時までの茎数が,秋播きでは少なく,茎数増加期に相当していたことによると推察された。したがって,地上部重の区間差は、主に茎数の差によっていた。クロロフィル濃度は宇B区の値が他の2区より高く維持された。M区の生長経過はC区に比べて優ることはなかった。以上により,冬期における生長の抑制と葉身の退色を緩和するには,秋における生長抑制剤の散布は有効であると推察された。
著者
Toaha Sahabuddin 石井 康之 沼口 寛次 蔡 慶生 園田 立信
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 = Japanese journal of tropical agriculture (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.98-107, 2001-06-01
被引用文献数
1

暖地型イネ科牧草マカリカリグラスは, 種々の環境ストレス, 特に土壌の乾燥と低温に対する耐性が比較的強く, 栽培品種(雪印系)内に形態的変異が大きい.そこで, 播種して造成した越冬後の翌年春に, 再生した越冬株を株分けし, 1株1系統とし, 合計17系統を選抜した.毎年栄養繁殖により系統保存し, 保水力の弱い砂質土壌の調査地(住吉)で4年度間にわたり, 保水力の強い壌質土壌の調査地(木花)で2年度間にわたり調査した.調査項目は, 1,2,3番草における植物体諸形質として, 地上部乾物重(DMW), 総茎数(TTN), 平均一茎重(MTW)および節間伸長茎数比率(PET)で, 翌年4月の越冬性として越冬率(POP)と再生茎数(RTN)を調査した.これらの系統間変異を1996〜1999年度に検討した.乾燥耐性は, 保水力の異なる2調査地における乾燥年度の生育状況から評価した.DMWの番草間順位はMTWおよびPETのそれとほぼ一致し, 3形質ともに2番草で最大となったのに対し, TTNは刈り取りを進めるにつれ増加した.これらの系統間変異は, DMWで最大となる傾向がみられ, 刈り取りを進めるにつれ概して増加した.顕著な小雨で土壌の乾燥が認められた住吉の1998年度2番草を除いて, 全系統の植物体諸形質は異なる年度間でほぼ正の相関関係が成り立ち, 乾燥ストレスのない場合, これらの系統間差は年度間で安定であることが示唆された.住吉において温暖な冬を経過した1998年春と1999年春では, より寒い冬を経過した1997年春と2000年春に比べ, POPとRTNは増加し, その系統間変異は減少した.植物体諸形質とPOPとの間には, 上記した住吉の1998年度2番草で唯一正の相関関係が認められた.しかし, 保水力の強い木花では, 全系統の植物体諸形質と越冬率との相関は両年度とも認められなかった.このことから, 乾燥土壌下でも高い生長能力を示す乾燥耐性の強さとより寒い年度で高い越冬性を示す低温耐性の強さとの密接な正の関連性が示唆され, 圃場実験により植物体諸形質と乾燥および低温の両耐性に優れたマカリカリグラス系統の選抜が可能であると推察された.