著者
田中 美郷 三谷 芳美
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.180-189, 1996-04-20
参考文献数
27
被引用文献数
2

言語獲得不能な重度脳障害者とのコミュニケーションのための音楽や歌の効果を調べるために, 東京都八王子福祉園に長期にわたり入園している6名の重度脳損が原因の最重度精神薄弱者に対して音楽療法を4回施行した.これら6名はすべて成人 (男2名, 女4名) で, 年齢は40~55歳の間にあった.これらの1群に音楽療法士がギター, ピアノ, キーボード, オートハープ, 太鼓, 鈴, マイクロホンなどの楽器を駆使して, 日頃聞き慣れているメロディーや歌を聞かせた.その結果, 6名中3名は全く言語刺激に反応しなかったが, 音楽刺激には訓練中ほとんど眠っていた1例を除いて5例は情緒的に反応した.特に幼児期から日常生活の中で母親が歌ってくれる歌を聞いて育てられた2名の反応は劇的であった.5名に観察された音楽に対する反応は, リズミカルな身体運動, 歌い出す, 発声する, 微笑する, ないし拍手などであった.これらの成績は, 音楽は重度脳損傷者の情緒反応を刺激する効果的手段であること, 加えてこの種のコミュニケーションを発達させるには, 幼児期から快適な音楽環境で育てられる必要があることを示している.