著者
櫻庭 京子 今泉 敏 峯松 信明 田山 二朗 堀川 直史
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.14-20, 2009 (Released:2010-03-17)
参考文献数
13
被引用文献数
1 3

transsexual voice therapyにおいて,訓練ターゲットとする声の高さを検討するために,男性から女性へ性別の移行を希望する性同一性障害者(MtF: male to female transgender/transsexual)119名と生物学的女性32名の母音発声(/a//i/)と朗読音声に対して,話者の性別を判定させる聴取実験および基本集周波数(F0)の分析を行い,比較検討した.その結果,70%以上女性に聴こえる発話の声の基本周波数(F0)は母音で平均270Hz,朗読で217Hzとなり,生物学的女性の平均値243Hz(母音),217Hz(朗読)に近いものとなった.しかしながら,生物学的女性と同じF0値の範囲にあっても,女性と判定されない声が7割近くあり,声の高さだけが女性の声に聴こえる要因ではないことが示唆された.
著者
小渕 千絵
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.301-307, 2015 (Released:2015-10-17)
参考文献数
25
被引用文献数
4 5

聴覚情報処理障害(auditory processing disorders, APD)は,標準純音聴力検査では正常であるにもかかわらず,聞き取りにくさを訴える症状である.本論文では,APDの歴史的背景,背景要因やその評価,支援方法について,最近の知見を基に概説した.これまでの成人例,小児例を対象にした評価により,背景要因の半数以上は自閉症スペクトラム(ASD)や注意欠陥多動性障害(ADHD/ADD)などの発達障害であり,その他にも精神疾患や心理的問題,複数言語環境下でのダブルリミテッドの問題などの多様な要因があり,これらに加えて本人自身の性格特性や聴取環境が加わり,聞き取り困難が生じていることが考えられた.このため,評価においては聴覚検査にとどまらず,視覚認知や発達検査,性格検査などの多角的な視点での評価を行う必要があり,背景要因に合わせた支援方法の提供が必要と考えられた.
著者
後藤 多可志 宇野 彰 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子 狐塚 順子 片野 晶子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.38-53, 2010 (Released:2010-04-16)
参考文献数
72
被引用文献数
24 9

本研究の目的は, 日本語話者の発達性読み書き障害児における視覚情報処理過程を体系的に評価し発達性読み書き障害の背景となる認知障害構造を明らかにすることである. 対象は日本語話者の発達性読み書き障害児20名と定型発達児59名である. 視機能, 視知覚, 視覚認知機能および視覚性記憶機能を測定, 評価した. 本研究の結果から, 視機能の問題は読み書きの正確性に大きな影響を与えないのではないかと思われた. 線分の傾き知覚と視覚性記憶機能は本研究で対象とした発達性読み書き障害児全例で低下していた. 視知覚と関連のあるvisual magnocellular systemとvisual parvocellular systemを検討した結果, 双方の視覚経路で機能低下を認める発達性読み書き障害児が20名中8名いた. 日本語圏の発達性読み書き障害児は海外での報告とは異なり2つの視覚経路の問題を併せもつことが多いのではないかと思われた.
著者
佐藤 公則 梅野 博仁 千年 俊一 中島 格
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.132-140, 2011 (Released:2011-04-28)
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

正常成人では睡眠中の嚥下の頻度は減少していた.その頻度は睡眠stageに関係しており,睡眠が深くなるに従い嚥下の頻度が低くなっていた.また長時間嚥下が行われていなかった.このことから睡眠中は咽頭食道のクリアランスが低下していることが示唆された.しかし,若年成人では嚥下後吸気で再開する頻度は低く,このことは気道防御に有利であると考えられた.閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者でも睡眠中の嚥下の頻度は減少していたが,88%の嚥下はrespiratory electroencephalographic arousalとともに起こることが特徴であった.70%の嚥下は嚥下後,呼吸は吸気で再開しており嚥下に関連した呼吸のパターンは特異的であった.CPAP療法は睡眠時の無呼吸・低呼吸と睡眠構築を改善させるだけではなく,睡眠中の嚥下と嚥下に関連した呼吸動態も改善させていた.
著者
今泉 敏
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.111-118, 2003-04-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
21

空間解像度の高いPETや機能的MRI, さらには時間解像度の高い脳磁図などの脳機能画像法の発達によって, 発話の中枢機構が明らかにされつつある.それに伴って吃音などの原因論にも新たな見解が示されてきた.吃音者と非吃音者, あるいは吃音状態と非吃音状態での脳活動パタンの違いから, 左半球優位性の未熟説や自己発話の聴覚モニター障害説など従来からの仮説がより具体的に検証され, それに代わる新たな仮説が提案されるようになってきた.本文では非吃音者と吃音者の発話中枢機構に関する最近の知見を概括し, その可能性と限界, 将来の研究動向を考察した.
著者
西尾 正輝 新美 成二
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.136-144, 2005-04-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
34
被引用文献数
4 5

健常発話者男女各187例, 計374例を対象として, 青年期以降の加齢に伴う話声位の変化について検討し, 主に以下の結果を得た.1.男性では60歳代までは変化は乏しく, 70歳代以降に多少の上昇が認められた.2.女性では20歳代と比較して30歳代および40歳代でも明らかな低値を認め, 80歳代まですべての年代群で加齢に伴い低下する傾向が認められた.3.男性と比較して女性のほうが, 変化の範囲が著しく大きかった.また, 男女両群の年齢群ごとの話声位の正常範囲 (平均±1.96SD) を得たが, これは臨床的に話声位の異常やその原因となっている喉頭疾患の検出に有用であると思われた.
著者
福島 邦博 川崎 聡大
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.1-6, 2008-01-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
16
被引用文献数
8 1

聴覚情報処理障害 (Auditory Processing Disorder: APD) とは, 末梢聴力には明白な難聴を呈さないが, 中枢性聴覚情報処理の困難さによって難聴に似た症状を呈する状態である.しかし, APDの疾患概念は比較的新しく, 臨床場面での具体的な診断および介入方法には若干の混乱も見受けられる.本稿では, 自験例のAPD症例について報告し, この疾患の診断を中心に概念と介入方法についても概説する.提示した症例は, 初診時11歳8ヵ月の女児で, 騒音下で会話が聴き取れないことを主訴とし本院来院となった.画像所見では, 両側側頭葉後部内側の局所脳血流量の低下を認め, DLTでは単音節, 単語とも正答率の有意な低下と顕著なREA傾向を認めた.CSTではS/N 0 dBで受聴困難であった.APDの診断のために, 他疾患の除外診断と画像診断, 聴覚的検査を併用することが必須であるが, 日本語の特性に根差した診断および介入方法を確立するためには, 今後の研究の進展が望まれる.
著者
谷 尚樹 後藤 多可志 宇野 彰 内山 俊朗 山中 敏正
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.238-245, 2016 (Released:2016-05-20)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

本研究では,発達性ディスレクシア児童23名と典型発達児童36名を対象に,2種類の書体を用いた速読課題を実施し,書体が速読所要時間,誤読数,自己修正数に与える影響を検討した.刺激は,表記(漢字仮名混じりの文章,ひらがなとカタカナで構成された無意味文字列)と書体(丸ゴシック体,明朝体)の2×2の合計4種類である.実験参加者には,4種類の刺激を速読してもらった後,どちらの書体を主観的に読みやすいと感じたか口頭で答えてもらった.その結果,発達性ディスレクシア児童群と典型発達児童群の双方において,書体間の速読所要時間,誤読数,自己修正数に有意差は認められなかった.主観的には,発達性ディスレクシア児童群では丸ゴシック体を読みやすいと感じる児童が多かった.本研究の結果からは,客観的評価と主観的評価は異なり,丸ゴシック体と明朝体の書体の違いによる正確性と流暢性に関する「読みやすさ」の指標は見出せなかった.
著者
南雲 直二
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.132-136, 2008-04-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
7

People with disabilities experience two kinds of distress. One originates directly from their disability or disabilities, and the other derives from the social treatment accorded to them as a disabled individual. The palliative method for coping with the former type of distress is acceptance of one's disabilities, although this may involve numerous methodological difficulties. The palliative method for dealing with the latter form of distress is social acceptance of persons with disabilities. Many approaches have been devised to secure such social acceptance, and collectively these have resulted both in improved social participation by persons with disabilities and, as a by-product, easing of the distress originating from their disabilities.
著者
宮崎 拓也 丸山 萩乃 土師 知行
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.26-30, 2014 (Released:2014-02-20)
参考文献数
17
被引用文献数
2

vocal cord dysfunction(以下VCD)は吸気時に声帯が内転する奇異性声帯運動により,喉頭で吸気性喘鳴をきたす病態を指す.診断には喉頭ファイバーでの診察が重要であるが,本邦での耳鼻咽喉科からのVCDに関する報告は少ない.今回VCDと診断した症例を経験したため,若干の文献的考察を加えて報告する.症例は24歳女性,看護師.咳嗽を主訴に2週間前に当院呼吸器内科を受診した.鎮咳薬を投与されたが症状は軽快せず,気管支喘息が疑われ気管支拡張薬の処方を受けたが改善を認めなかった.その後勤務中に突然,喘鳴を伴う呼吸困難感が出現したため当院救急外来を受診した.血液検査,頸胸部CTでは異常所見なく,翌日精査目的に当科紹介受診となった.喉頭ファイバーにて安静吸気時に声帯の奇異運動を認めVCDと診断した.視覚的フィードバックを用いた病態説明,および喉頭リラクゼーションによる治療を行った.1ヵ月後には声帯奇異運動,気道症状ともに消失した.VCDの非認識により気管支喘息と誤診し,誤った治療を行うケースがある.不必要な検査や治療を避けるためには,本疾患を念頭においた診察を行うことが重要である.
著者
北野 市子
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.393-401, 1999-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
3

4歳時に重~中度の精神発達遅滞を示した子どもに対し, 個別継続的プログラムされた言語訓練を行わず, 長期的な助言指導・経過観察を行った児の8歳時のコミュニケーションについて調査した.重度群24例, 中度群25例であった.結果, 中度例で学童期に発語可能となったものは25例中24例で, このうち「簡単な会話成立」以上の実用的発語が可能なものは15例であった.一方, 重度例では24例中16例に発語がみられた.また, パニックが減少した児の中に発語可能となった者が多かった.発語可能な重度例の半数以上は学童期以降に音声模倣や発語が盛んとなった.このことから重度群については長期的な視野をもって母子の援助に当たることが重要であると考えられた.今回の調査結果は, STの指導効果を示したものではなく, 児の成長力を示したものである.したがって, こうした児に対するSTの直接的な訓練効果を検討する場合には, これらの児のもつ成長力を十分に考慮するべきであると考える.
著者
櫻庭 京子 今泉 敏 峯松 信明 田山 二朗 堀川 直史
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.14-20, 2009-01-20
参考文献数
13
被引用文献数
3

transsexual voice therapyにおいて,訓練ターゲットとする声の高さを検討するために,男性から女性へ性別の移行を希望する性同一性障害者(MtF: male to female transgender/transsexual)119名と生物学的女性32名の母音発声(/a//i/)と朗読音声に対して,話者の性別を判定させる聴取実験および基本集周波数(F0)の分析を行い,比較検討した.<br>その結果,70%以上女性に聴こえる発話の声の基本周波数(F0)は母音で平均270Hz,朗読で217Hzとなり,生物学的女性の平均値243Hz(母音),217Hz(朗読)に近いものとなった.しかしながら,生物学的女性と同じF0値の範囲にあっても,女性と判定されない声が7割近くあり,声の高さだけが女性の声に聴こえる要因ではないことが示唆された.

16 0 0 0 OA 失敗学のすすめ

著者
畑村 洋太郎
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.182-188, 2002-04-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
2

人はだれでも新しいことに挑戦すれば必ず失敗する.そこで知識や経験の必要性を体感・実感し, それを基にして進歩する.技術の世界にもこのことはあてはまり, 失敗を分析し, 新しい知識を樹立することによって新しい技術が生れ, 社会を豊かにしてきた.このように失敗のマイナス面だけに目を向けるのではなく, 失敗をプラスに転化するための考え方と方法を取り扱うのが「失敗学」であり, そこでは, 失敗の必要性・失敗の原因と結果の関係・失敗を生かす工夫などについて具体的な例を取り上げながら学んでゆく.
著者
石田 修 飯村 大智
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.334-343, 2021 (Released:2021-10-12)
参考文献数
42
被引用文献数
2

吃音児に対する多面的・包括的アプローチの有効性が報告されているが,その多くは病院や研究機関における実践である.吃音児の多くが通うことばの教室における症例報告は数編程度で,知見の蓄積が求められる.本報告では,ことばの教室に通級する重度吃音児1例に吃音症状面,認知・感情面,環境面に対する多面的・包括的アプローチを実施した.その結果,吃音重症度は重度から軽度に改善し,コミュニケーション態度も積極的な傾向になり,親子ともに吃音に対する不安が軽減した.本症例の経過から,ことばの教室における多面的・包括的アプローチの実施にあたり,(1)流暢性促進と流暢性形成法が吃音症状の改善に有効な可能性があること,(2)吃音の認知や行動に焦点を当てたアプローチが不安の軽減や認知の変容に寄与する可能性があること,(3)家庭と在籍校における環境調整により吃音の正しい知識を伝える必要があること,が考えられた.
著者
飯村 大智 石田 修
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.192-198, 2022 (Released:2022-07-29)
参考文献数
31
被引用文献数
1

本研究の目的は,コミュニケーション態度を測定する質問紙S-24について,非吃音者におけるS-24の標準データを作成すること,および先行研究で報告されている吃音者と非吃音者の得点を収集することで,S-24による吃音評価の有用性を検討することである.20〜60代の非吃音者413名を対象に質問紙調査を行った結果,S-24の得点平均(標準偏差)は12.62(4.90)点であった.年齢群および性別による有意な得点の違いはなかった.また,高い内的一貫性および再検査法の一致率を示した.国内の先行研究の平均値を統合すると,吃音者の平均値(標準偏差)は17.57(4.62)点,非吃音者の平均値(標準偏差)は12.96(4.89)点であり,群間の効果量は大であった.これらより,S-24には高い信頼性に加えて構成概念妥当性を有しており,吃音の評価に有用であることが示唆された.
著者
兵頭 政光 弘瀬 かほり 長尾 明日香 吉田 真夏 大森 孝一 城本 修 西澤 典子 久 育男 湯本 英二
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.1-6, 2016 (Released:2016-02-23)
参考文献数
11
被引用文献数
1 4

本邦における痙攣性発声障害患者数や臨床像を明らかにすることを目的として,アンケート方式による疫学調査を実施した.本疾患の音声所見を収録したサンプルCDを作成したうえで,全国の主要な耳鼻咽喉科医療機関655施設に調査表を送付した.その結果,過去2年間にこれらの医療機関を受診した患者は1,534例あり,このうち新規患者は887例(0.70人/10万人)いることが確認できた.これにより,有病率は3.5~7.0人/10万人以上になることが推測された.臨床像としては,年齢は20および30歳代が59.0%を占め,男女比は1:4.1と女性が多かった.病型は内転型が約93.2%を占め,症状は内転型では声のつまりや努力性発声,外転型では失声や声が抜けるなどが特徴的であった.症状発現から医療機関受診までの期間の中央値は3.0年であった.治療はA型ボツリヌス毒素の内喉頭筋内注入療法や甲状軟骨形成術Ⅱ型などが,一部の医療機関で集約的に行われていた.今回の調査を通して,痙攣性発声障害は耳鼻咽喉科医においてもまだ十分に認識されていないことが推測された.調査結果などを基にして,診断基準の作成や治療指針の確立が望まれる.
著者
宇野 彰 春原 則子 金子 真人 後藤 多可志 粟屋 徳子 狐塚 順子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.171-179, 2015 (Released:2015-05-21)
参考文献数
25
被引用文献数
15 2

ひらがな,もしくはカタカナ1モーラ表記文字に関して1年間以上習得が困難であった発達性読み書き障害児36名を対象として,音声言語の記憶力を活用した訓練方法を適用した.全例全般的知能が正常で,かつReyのAVLT (Auditory Verbal Learning Test)の遅延再生課題にて高得点を示していた小学生である.また,訓練開始前に練習をするとみずからの意思を表明していた児童,生徒である.訓練は,次に示す3段階にて実施した.すなわち,1)50音表を音だけで覚える,2)50音表を書字可能にする,3)文字想起の速度を上げる,であった.また,4)児童によっては拗音の音の分解練習を口頭で実施した.その結果,平均7週間以内という短期間にて,ひらがなやカタカナの書字と音読正答率が有意に上昇し,平均98%以上の文字が読み書き可能になった.さらに,1年後に測定したカタカナに関しては高い正答率が維持され,書字の反応開始時間も有意に短縮した.今回の症例シリーズ研究にて,良好な音声言語の記憶力を活用した練習方法の有効性が,正確性においても流暢性においても示されたのではないかと思われた.
著者
山根 律子 水戸 義明 花沢 恵子 松崎 みどり 田中 美郷
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.172-185, 1990-04-25 (Released:2010-06-22)
参考文献数
9
被引用文献数
3 5

言語障害児における随意運動機能の発達を診断する一方法として, 田中, 西山らが考案した随意運動発達検査法を改訂した.本改訂では, 手指, 顔面・口腔, 躯幹・上下肢の3領域について, 計40の検査項目を設定し, 2歳0ヵ月から6歳11ヵ月までの健常児723名に同検査項目を実施した.この検査結果から, 各検査項目ごとの加齢に伴う達成傾向を検討したが, 舌運動に関わる一項目を除き, いずれも発達に伴い獲得される行動であることが示された.さらに, 健常発達からの逸脱の有無についての指標を得るために, 各検査項目ごとに, 通過率を基にしたプロビット変換を行い, 90%のこどもが達成する月齢を算出した.そして, これらのデータを基に, 臨床診断法として, 改訂版随意運動発達検査を構成した.

10 0 0 0 OA 〈一般演題〉

出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.40-90, 2003-01-20 (Released:2010-06-22)
被引用文献数
1 1
著者
伊藤 元信
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.242-252, 1990-04-25 (Released:2010-06-22)
参考文献数
33
被引用文献数
1 1

左大脳半球のブローカ領域ないしその周辺の損傷による特異な構音と韻律の障害を, 発語失行症という.この障害は, 言語表象の操作機能の障害としての失語症とも, 発声・発語器官の麻痺や筋力低下による麻痺性 (運動障害性) 構音障害とも異なる特殊な構音障害である.この障害の本態の解明はいまだ十分とはいえないが, その出現率は低くなく, 臨床上, この障害の取り扱いは重要である.本稿では, 発語失行症の構音障害の特徴, 構音器官の動態などについてのこれまでの研究結果を概括し, 障害像を浮き彫りにするとともに, 評価・診断を中心とした臨床的アプローチについても考察を加える.最後に, 臨床場面での今後の課題について若干私見を述べる.