著者
上村 朋美 加藤 宗規
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.P-13, 2020

<p>【目的】段階的難易度調整による麻痺側への移乗練習の効果を検討した.</p><p>【方法】80歳代,男性.診断名は,両側大脳梗塞,右慢性硬膜下血腫,肺炎であり,障害名は右片麻痺,失語症,構音障害,嚥下障害であった.入院後のADLは全介助であり,基本動作も介助を要した。立位は右へ傾き,7病日の立位の荷重率(正中位)は右50%,左43%,最大荷重率は評価困難であった.42病日の立位も荷重率は変化を認めなかった.また,移乗の介助量も変化なく,非麻痺側への方向転換は軽介助であったが,麻痺側への方向転換は全く行なうことができなかった.そこで,非麻痺側への移乗練習を介入1,麻痺側への移乗練習を介入2として練習を開始した.環境は,縦手すりを使用した.そして,車いすに対し椅子を30°に配置し,方向転換開始と終了の足の位置をビニールテープで示した.最終目標は非麻痺側・麻痺側共に90°の方向転換見守りとし,30°,45°,90°の順に実施した.角度の変更は,3日連続成功後に行った.評価は,介助量の変化を身体的ガイダンス0点,タッピング+口頭指示1点,口頭指示2点,見守り3点とし,3回の合計点数を記録した.介入2は,介入1の90°方向転換が実施可能となった後に開始した.</p><p>【倫理的配慮】本研究は,ヘルシンキ宣言に則り行われ,症例の家族から承諾を得た.当院研究倫理委員会の承諾を得た(倫理番号1572).</p><p>【結果】42病日目から非麻痺側への方向転換を開始し,90°の方向転換が50病日目で行見守りとなった.同日に麻痺側への方向転換練習を開始し,90°の方向転換が64 病日目で見守りとなった.なお,この期間に認知機能,運動麻痺は不変であった.</p><p>【考察】今回の移乗練習は,難易度の低くい非麻痺側から再構築したため,無誤学習として有効に機能したと考えられた.</p><p>【まとめ】今後の課題は,難易度調整によって,非麻痺側への移乗練習がより早期に開始できる可能性を検討する必要がある.</p>