著者
渡邊 勧 金子 哲 太田 理恵 菅野 早苗 廣木 祐三子
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.141, 2010

【はじめに】<BR> 地域ケアシステムは、茨城県独自のシステムとして、保健、医療、福祉などの地域の他職種の人々が連携して、在宅の要介護者にサービスを提供するシステムが平成6年に創設された。現在では各市町村の社会福祉協議会を窓口として、支援を必要とする人に対して在宅ケアチームを編成し、在宅サービスの充実化を図っている。サービスの内容は、訪問・通所介護など介護保険や自立支援給付等の法的な福祉サービスに近所の方による見守り、安否確認、軽度の生活補助などを組み合わせたサービスを提供している。現在の地域ケアシステムは、介護保険適用の高齢者だけでなく、障害児(者)、子育て親、難病患者も対象となっており、地域ケアコーディネーターと呼ばれる保健・医療・福祉の従事者はじめ地域住民、ボランティアの人たちで編成されており、地域リハビリ指導においては、理学療法士がリハビリテーション指導に関わっている。今回、城里町社会福祉協議会において地域ケア及び地域リハビリテーションの相互の連携システムの推進を検討する機会を得たので報告する。<BR>【活動内容】<BR> 茨城県内地域ケアシステムは44地域における社会福祉協議会で運営され、その中で城里町では、平成21年2月に地域ケア・地域リハビリ相互連携システム推進検討委員会を発足。平成22年度の委員会では、理学療法士3名、作業療法士1名、養護学校教員3名、保護者会1名、城里町健康福祉課3名、地域ケアコーディネーター2名、社会福祉協議会事務局3名で構成され、地域活動支援センター(障害者作業所)、日中一時支援事業等利用者に対する相談介入、事例検討及び利用者への具体的介入の推進、相談を行っている。委員会会議の開催(H21年2月~H22年3月現在)は計13回である。活動報告の中では、学校と福祉の現場における壁の存在や、就学前後における個別支援計画がつながっていないこと、医療と介護(保険)の隙間に埋もれている対象者への支援活動が十分確立されていないことがあげられている。リハビリテーションにおける支援では、知名度の低さとともに、実際に病院や施設での勤務の枠を超えて地域リハビリテーションへの関わりができる人財、フィールドが限られることから、知名度の向上と、地域ケアと地域リハの相互協力が得られる体制作り、働きかけを向上していく必要性がある。<BR>【まとめ】<BR> 活動の中で、対象者と地域における課題を探り、地域を支えるための地域ケアシステムと地域リハビリテーションと継ぎ合わせが必要となる。小児から高齢者まで、より身近な地域で適切なリハビリテーションサービスを受けることができるよう、リハビリテーションのネットワークづくりを推進していくことが今後の課題となる。<BR>
著者
榎谷 高宏 大野 範夫 千賀 浩太郎 飯島 伸介 鎌田 久美子 菊地 和美 迫力 太郎 長谷川 絵里 藤井 杏美 水元 紗矢
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.151, 2017

<p>【はじめに】</p><p>脳卒中を取り巻く医療状況の大きな発展にも関わらず,脳卒中後の復職率は20 年前と比べて大きな違いはない.今回早期からの仕事再開と,入院中のIT 環境が復職に有効と考えられた症例を担当したので報告する.なお発表に際し事例より同意を得た.</p><p>【症例紹介】</p><p>50 歳代前半男性.職業システムエンジニア・管理職.平成28 年X 日右被殻出血発症,X +15 日定位血種吸引除去術施行.X +24 日当院回復期病棟転院.X+208 日自宅退院.</p><p>【入院時評価】</p><p>GCS:E4V5M6.B.R.S.:上肢I 手指I下肢II.感覚:左上下肢重度鈍麻.高次脳機能障害:左USN,注意障害,Pusher 症候群あり.ADL: 全介助.FIM: 運動15 点,認知11 点.SIAS:23 点.MMSE:26 点.BBS:0 点.</p><p>【経過】</p><p>入院当日から職場の方が来院し引き継ぎを行う.X +58 日個室に移動.入院中は電話やIT 環境を整え仕事をした.疲労や姿勢保持を含め注意を促し,徐々に仕事の量(時間)と質(業務・責任度)を増やしていった.</p><p>【退院時評価】</p><p>B.R.S.: 上肢II手指II下肢III.感覚: 変化なし.高次脳機能障害: 左USN,注意障害残存.ADL: 車椅子院内自立.FIM:運動82 点,認知29 点.SIAS:38 点.MMSE:30 点.BBS:40 点.自宅内はタマラック継手AFO で伝い歩き,入院中同様に仕事を行い,通勤に向けて障害者支援施設にて通所リハを継続.</p><p>【考察】</p><p>今回は会社・本人の強い意向から早期に就業開始を余儀なくされたが,IT 活用をし,入院当初から会社との関係性が途切れなかったことは,復職に有効であったと考えられる.また,早期からの仕事再開が本人の精神的安定,覚醒の向上,身体機能の向上に有効であったと考えられる.今後,定年延長などにより復職に対するするニーズはさらに高まってくると考えられ,本症例のようなケースも増加すると考える.</p>
著者
竹村 美鈴 柚原 一太 野島 光晴 矢野 秀典
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.F-3, 2020

<p>【背景】現在は少子高齢化社会であり、要介護高齢者が増加している。そこで、虚弱高齢者にとって、運動に対する意欲を上げ、身体機能を維持し、QOLを向上させることは重要であり、旅行がその動機付けに寄与することが考えられる。</p><p>【目的】我々は、デイサービス利用者にバス旅行を提供している。その参加者の運動への取り組みや、意識の変化を調査し、より質の高い機能訓練・介護サービスを検討することが本研究の目的である。</p><p>【方法】都内デイサービス利用者77名(年齢69 〜94歳、男性12名、女性65名)を対象とした。要介護度は、要支援1、2がそれぞれ6、6名、要介護1〜5は、同様に24、20、12、7、2名であった。本対象に対して質問紙法調査を実施した。本研究は、目白大学人論理審査委員会の承認後に実施した。</p><p>【結果】旅行の申し込み動機は、観光60名、食事36名、外出の刺激35名、買い物30名の順に多かった。一方、機能訓練の目的は15名と最も少なかった。また、59名が、旅行に行くことで日常生活に良い影響を及ぼすと考えていた。旅行に行くために運動を実施していたものは18名であった。運動内容は、平地歩行16名が最も多く、次いで階段昇降4名、坂道歩行3名であった。実施しなかった理由は、職員が介助してくれるから26名、どのように行えば良いか分からなかった22名であった。</p><p>【考察】旅行に行く目的として、機能訓練を考えている者は少ないが、この旅行がADLに良い影響を及ぼすことを期待していることが分かった。旅行のために運動を行っているものは1/4以下と少なく、実施内容も歩行など単純動作が多く、行わなかった理由も運動が分からないなど専門職のサポートの必要性が考えられた。</p><p>【まとめ】旅行のために運動を行っている者は少なく、今後、機能訓練指導員が旅行の機能訓練としての効果やその前後の運動の必要性、具体的な内容などを積極的に教示する必要性が示唆された。</p>
著者
原 美由紀 橋本 美樹 本多 律子 野村 潤
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会
巻号頁・発行日
vol.29, pp.192, 2010

【目的】我々は「理学療法士の啓蒙と広報」「障害への理解」を目的に、平成19年度から小学生に対し車椅子体験授業を実施している。初年度は5年生を対象に理学療法士が主体となり、バリアフリーの利便性やマンパワーサポートの必要性を体感した。しかし体験後の児童の感想で「車椅子の人は何も出来ない、可哀そう」と偏見を持った児童もおり、障害理解や身近に障害を感じる事について課題が残った。そこで「障害について考える機会を作る」「共に生きていく仲間であることを学ぶきっかけを作る」という目的で、児童が6年生になる年に、実際に車椅子生活をされている方と触れ合い身近に障害を感じる手段として、楽しんで出来て我々のネットワークにより繋がりのある車椅子バスケを選択した。【方法】対象は栃木県那須塩原市立青木小学校の6年生23人。ツインバスケットボールチームの選手3人、理学療法士4人で行った。午後の授業2時限分使用し、車椅子バスケの練習後に選手と児童を交えたチームを作り試合をした。【結果】授業後の児童の感想文では「車椅子バスケは楽しかった(15人)」「また青木小に来てほしい(7人)」「車椅子バスケ体験が出来て良かった、勉強になった(5人)」と車椅子バスケや選手との交流を楽しんだ感想や「車椅子生活は大変、可哀そうだと思っていたがいろんな事が自分で出来る(9人)」と障害に対する印象が変化した感想が多かった。また「車椅子の人を見かけたら優しく声をかけようと思った(1人)」と障害者に対して距離が縮まったと思われる感想や「どこが悪いのか分からなかった(1人)」と選手が障害を持っている事を実感しない児童もいた。【考察】5年生の授業では初めての車椅子操作や介助が大変だった故、障害=不幸というマイナスの印象を持った児童もいたが、実際に障害者と触れ合い自身で出来る事も沢山あることを知り、障害を身近に感じるとともに印象が変化したと思われる。しかし、階段昇降以外は介助がいらず華麗にバスケ車を乗りこなす様を見て、障害像をイメージ出来ない児童もおり、障害理解に関しては5・6年生の授業を通して課題が残った。この点を考慮し、次回は給食を一緒に食べたり1日を通して車椅子バスケ以外の日常生活に触れ合うなど、理学療法士の専門性を活かし障害像をどのように児童に伝えていくか、授業内容の再検討が必要である。【まとめ】物事を柔軟に捉える事が出来る学童期に障害に関してのさまざまな刺激を与えることで、障害を身近に感じ偏見や誤った固定観念を持つことなく障害者と接することが出来ると考える。そのために、我々理学療法士が専門性やネットワークを活かし媒体となっていく意義はあると考える。
著者
贄田 高弘 今井 稚菜 田島 健太郎 黛 太佑 横澤 美咲 樋口 大輔
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.O-33, 2020

<p>【目的】健常者において、ライデルセイファー音叉を用いた振動覚検査法(RS法)の検者内・検者間信頼性を明らかにすることを目的とした。</p><p>【方法】検者は理学療法士5人(経験年数2 〜10年)とし、被検者は健常成人20人(男性16人、女性4人、29.2±6.2歳)とした。RS法で用いるRS音叉の頭部には0 〜8の目盛りがあり(数値が大きいほど振動が弱い)、被検者が振動を感じなくなった時点の目盛りを読み取った。従来法として、音叉を検査部位に当ててから被検者が振動を感じなくなった時点までの時間(感知法)と被検者が合図した時点から振動が停止した時点までの時間(不感知法)を測定した。音叉は右内果にあてた。検者内信頼性は1 人の被検者に対し、特定の検者1人が1週間以上の間隔をあけて2度、3種の振動覚検査を5回ずつ行った。次に、検者間信頼性は1人の被検者に対し、任意の3人の検者がそれぞれ3種の振動覚検査を5回ずつ行った。ICC(1,2)とICC(2,3)を算出した。</p><p>【倫理的配慮】高崎健康福祉大学倫理審査委員会の承認を得た(3064号)。対象者には本研究の説明し、同意を得た。</p><p>【結果】検者内信頼性で20人に行った各10回述べ200回の検査値は、RS法が7.7±0.6(5 〜8)点、感知法が18.0± 3.7(10.6 〜30.5)秒、不感知法が8.1±2.8(1.3 〜14.1)秒であった。ICC(1,2)はRS法が0.77(95%信頼区間 0.43 〜0.91)、感知法が0.65(0.12 〜0.86)、不感知法が 0.81(0.52 〜0.92)であった。ICC(2,3)はRS法が 0.85(0.69 〜0.94)、感知法が0.85(0.70 〜0.94)、不感知法が0.59(0.61 〜0.83)であった。</p><p>【考察】感知法と不感知法はRS法と比較して検者内信頼性または検者間信頼性で劣っていた。これは、検者内でも音叉を叩く強さが一定でなかったことや、検者間で終了時点の判断にばらつきを認めたことによると推察された。</p><p>【まとめ】ライデルセイファー音叉による振動覚検査は検者内、検者間信頼性共に担保できる方法である。</p>
著者
須藤 沙織 細井 匠
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会
巻号頁・発行日
vol.31, 2012

【目的】<BR>安心してリハビリを行うことができる環境を作ることを目指し,2011年3月,「小金井リハビリ連絡会」が正式に発足し研修部が置かれた.研修部では会員が望む研修内容を明らかにするため本調査を行った.<BR>【方法】<BR>小金井リハビリ連絡会会員63名を対象に,郵送自記式質問紙検査法を繰り返すデルファイ法を用いて調査した.調査1では対象者が望む研修内容を5つ以内で自由に記載していただき回収した.また基本属性として年代,性別,所属機関,各職種免許取得からの年数を尋ねた.調査2では集まった研修内容に対する興味の程度について5段階での評価を依頼し回収した.調査3では,調査2で返信のあった方を対象に,調査2における各研修内容に対する本人評価得点と,参加者全員の評点の中央値と四分位範囲を提示した上で,再評価を依頼し回収した.調査3で得られた回答を間隔尺度とみなし平均値を基にランキングを作成した.また対象者に書面にて本研究の主旨と得られたデータは個人が特定されないよう配慮し発表する旨を伝え,同意を得た.<BR>【結果】<BR>調査3で得た30名の回答の中の,38本の研修内容の評点を基にランキングを作成した.30名の職種はPT17名,OT13名,免許取得からの年数は平均9.4±10.0年であった.全体のランキング1位は「腰痛の評価とアプローチ」,2位「脳卒中患者の歩行練習」,同率3位「注意障害へのアプローチ」,「慢性疼痛に対するアプローチ」であった.免許取得からの年数で分類すると3年以下の8名では1位が「画像診断の方法」,同率2位「注意障害へのアプローチ法」「脳卒中患者の歩行練習方法」,「腰痛の評価とアプローチ」等であり,年数10年以上の9名では1位が「臨床動作分析からの治療介入」,同率2位「訪問リハビリの現状と課題」「腰痛の評価とアプローチ」,同率3位「慢性疼痛に対するアプローチ」,「小金井市のサービス提供内容について」等が上位にランクされていた.<BR>【考察】<BR>全体1位となった「腰痛の評価とアプローチ」は職種別、免許取得からの年数別のランキングでも上位にランクしていた.腰痛患者はリハビリテーションの対象となる機会が多いため上位に入ったと考えられる.年数別では,新人は評価等の基礎知識,ベテランでは保険やサービスに関する事が上位となり相違を示した.職種,年数によって求める研修が異なることが明らかとなり,研修を提供する前に,どの層を対象として企画するか熟考する必要がある.<BR>【まとめ】<BR>研修は技術向上のために不可欠だが,ニーズ調査は十分になされていない.対象者の臨む研修内容を明らかにした点は,今後有意義な研修を行う為に貴重な資料となった.
著者
渡邊 勧
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.46, 2011

【目的】<BR>介護保険サービスにおける通所リハビリテーションは、コミュニティの場としての集団性を活用した参加、活動の向上や、リハ専門職が個別に介入し、ADL維持・向上を目指す場として知られているが、リハ専門職が通所リハビリテーションに従事する通所リハ利用者と実施していない通所介護サービスの利用者とADL推移を比較することで、リハ専門職が従事する意義を検討することとした。<BR>【方法】<BR>調査は通所リハ3施設、通所介護3施設の協力のもと半年間(2010年4月および10月)で行われ、利用者には担当ケアマネージャーを通して研究の趣旨を説明し、同意を得た後、2回の調査を実施した。対象は、調査期間中、健康状態の悪化等により、大幅なADLの低下や入院時の医療リハを受けていない要介護1~5の通所リハ利用者52名(男性23名、女性29名、平均年齢82.6±8.3歳、平均介護度2.3±0.9)及び通所介護利用者30名(男性8名 女性22名 平均年齢88.2±6.1歳、平均介護度2.6±1.1)の計82例を対象とし、2群間におけるFIM得点の推移比較を行った。統計処理は、統計処理ソフトIBM SPSS Statisticsを用い、群間及び6ヶ月後のADL推移をベースライン時と比較した。なお、危険率は5%未満とした。<BR>【結果】<BR>群間おける比較では、年齢(p=0.002)、FIM総合点は通所リハ群97.8±20.5、通所介護群82.4±24.1(p<0.05)、FIMの各項目においては、すべての項目で群間の差が認められた。半年間の変化量については、移乗項目が通所リハ群-0.1±0.9、通所介護群-1.5±2.5(p<0.05)であり、その他の項目には有意差が認められなかった。<BR>【考察】<BR>群間の差は、対象者のニーズからのサービスの振り分けによる差も考えられ、より若く、ADLの高い対象者がリハビリテーションを希望することが一つの要因と推測される。ADLの低下は両群に認められ、より通所リハ群が少ないことから、専門職としての介入効果は関係していると考えられるが、移乗項目以外の項目には有意差が認められなかった。これはセルフケアをはじめとする項目は介護士による介入が多く、実際に在宅のADL向上に結びついていないことで生活の延長である通所介護と差異がなく、リハの特性が生かせていないのではないかと推測する。<BR>【まとめ】<BR>施設リハにおいては、個別リハを対象とした関わりを持てる範囲も限られることから、今後より長期的な調査を実施しながら、ADL全般を他職種と連携したリハビリテーションにつなげる介入の検討に繋げていくリハ専門職の意義が問われると考える。<BR>
著者
保坂 健吾 草葉 隆一 秋元 咲貴子 寺本 洋一(MD) 柳澤 透(MD) 関 勝(MD)
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.41, 2007

【はじめに】コンパートメント症候群(以下CS)は、下肢では下腿に好発し筋・神経に阻血性壊死をもたらす疾患である。今回、右殿部・大腿部にCSを呈し、歩行獲得に難渋した症例を経験したのでここに報告する。<BR>【症例紹介】28歳女性、無職独居。併存疾患は、Marfan症候群(軽度の大動脈弁閉鎖不全、両側水晶体脱臼)、境界性人格障害がある。<BR>(現病歴)平成18年11月28日睡眠薬20錠内服しホットカーペット上で昏睡状態となった。9時間後に覚醒したが、右下肢に異常を感じ、自ら救急車を要請し当院に搬送。左頬部、右殿部・足部の褥瘡、右腓骨神経麻痺疑いにて入院加療となった。後日、右殿部・大腿部の腫脹とCK値上昇認め、CT所見より同部位のCS、挫滅症候群と診断された。<BR>(評価)殿部褥瘡はCampbellよる分類グレード3、大きさ14.5×21.0cm、安静時痛あり。関節可動域は褥瘡部伸張痛により右股関節屈曲90°で制限あり。患側MMTは、大殿筋・中殿筋・ハムストリングス2、大腿四頭筋4、前脛骨筋・下腿三頭筋0と筋力低下を認めた。感覚は右坐骨神経領域脱失。平行棒内歩行可能だが、患側遊脚期では下垂足を認め、立脚期では前足部で接地し立脚中期で支持不十分、踏み切りが弱かった。<BR>【経過】第8病日より理学療法(以下PT)開始し、ROMex、筋力強化、起立動作、平行棒内歩行を施行した。第14病日、T字杖歩行へ移行した。第21病日、下垂足に対するプラスチック短下肢装具が完成し、遊脚期のクリアランスが良好となった。第27病日頃より、殿部褥瘡による右大殿筋の収縮時痛が増強し、右踵接地時に過度な体幹の前傾が出現した。第52病日、デブリードマン・縫合術を施行、PT一時中止した。第58病日、PT再開。殿部疼痛消失しており、踵接地時の体幹前傾も改善された。第64病日、股関節伸展を促すためトレッドミル歩行(以下TM)を開始した。第69病日、右単脚支持期の延長、右ストライド長の増加を認めた。第72病日、退院となりPT終了した。<BR>【考察】本症例はCS・挫滅症候群による筋力低下、褥瘡治癒遅延により歩行獲得に難渋した。術後も患側立脚中期では、股・膝関節軽度屈曲位で後方重心となり支持不十分な状態で踏み切りが弱かったことが問題となった。これに対し、TMを実施し、良好な結果が得られた。文献によるとTMは、平地歩行に比べ、立脚期の股関節伸展が強制されやすく、陽性支持反射を促通し、下肢の支持性が向上しやすいとある。この効果は、本症例のような殿部・大腿部CSにより筋力改善困難な症例に対しても、歩容矯正に有効であるものと考えられた。
著者
平塚 沙織
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.60, 2006

【はじめに】前十字靭帯損傷はスポーツ時の受傷が多く、再建術後のスポーツ復帰時期については、術後期間や筋力測定結果が参考になる。今回、術後4ヶ月時の筋力測定データを中心に健側・患側の筋力差を比較検討したので報告する。<BR>【方法】2004年7月から2005年6月に当院で手術を行い、その後術後約4ヶ月で筋力測定した患者40名(男25名、女15名)を対象とした。術式は、半腱様筋腱と薄筋腱を用いたquad-STG法。平均年齢は31.1±10.3歳(13歳から52歳)。受傷機転は、スポーツ外傷37名、その他3名。測定機器は、BIODEX SYSTEM3Cを使用し、術後約4ヶ月時の膝伸展・屈曲筋力を測定した。角測定は60,180deg/secに設定し求心性収縮運動とした。測定結果の最大トルク値における欠損に注目した。また某社が公開している60deg/secでの膝伸展,屈曲筋力の年代別平均値を、一般レベルで特にトルク/体重値に着目し比較した。<BR>【結果】角速度60deg/secにおける膝伸展筋力の欠損は平均37.0±14.9、膝屈曲筋力の欠損は平均27.9±17.0。角速度180deg/secにおける膝伸展筋力の欠損は平均29.8±11.3、膝屈曲筋力の欠損は平均18.4±15.9であり、術後4ヶ月ではスポーツ復帰の目安としている膝伸展筋力最大トルクでの欠損(20%以下)は、殆ど認められなかった。しかし膝屈曲筋力では欠損20%以下の例は多く見受けられた。また某社の平均値との比較では、健側が平均値を上回る例が膝伸展筋力で34例,欠損平均は36.7±15.8。膝屈曲筋力で24例,欠損平均は28.2±19.6。健側患側ともに平均値を上回る例は膝伸展筋力で5例,欠損平均は20.9±7.1。膝屈曲筋力で11例,欠損平均は12.9±13.4。さらに健側患側ともに平均値を下回る例は膝伸展筋力で6例,欠損平均は38.7±8.8。膝屈曲筋力で16例,欠損平均は27.3±12.8だった。平均値比較では数的に膝伸展筋力が膝屈曲筋力よりも強く見えるが、欠損平均を見ると膝屈曲筋力の方が欠損20%以下に近い。また健側患側ともに平均値を下回った例では、上回った例に比べて欠損平均は高い。<BR>【考察】早期にスポーツ復帰するためには、術後早期に左右平均的な筋力がほしい。今回の結果から、膝伸展筋力よりも膝屈曲筋力の方が早期に回復する。また両側の筋力が平均値よりも低い場合健患差は大きくなっていた。これは両側の筋力が弱い程回復が遅くなると考えられた。もしそうであるなら術後ならず、手術以前からの筋力増強が必要であると考えられた。
著者
尾崎 麻子 北原 絹代
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.31, 2012

【目的】<BR>住民主導の地域づくりは介護予防事業の重要な視点であり、事業推進において住民ボランティアを育成、活用することが求められている。前橋市では介護予防サポーター(以下、サポーター)と名付けたボランティアの養成をしている。本研究の目的は、サポーター活動を5年間継続している女性へのインタビュー内容からサポーターへの参加及び継続のプロセスを明らかにすることである。<BR>【方法】<BR>サポーター活動を5年間継続している60歳代の女性1名を対象にサポーター参加前から現在の生活について半構成インタビューを実施し逐語録を作成した。その内容を修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下、M-GTA)を用いて分析した。本研究は介護予防事業主管課の了承を得たうえで「疫学研究に関する倫理指針」を遵守して実施した。対象者には本研究への参加について書面と口頭にて説明し、同意を得た。<BR>【結果】<BR>分析結果から4つのカテゴリーが生成された。サポーター活動を継続している女性は、サポーター参加前に[感謝される体験]や[市の事業という意識]を持っており、サポーターとしての経験の中で[他者との交流から得る感動][地域のサポーターとしての自覚]というプロセスを経て現在に至っていた。<BR>【考察】<BR>[市の事業という意識]から参加へのきっかけになったのは市の事業である安心感や民生委員等の市からの委嘱を受けている者特有の使命感であると思われた。<BR>[他者との交流から得る感動]では市が独自作成したピンシャン!元気体操等を用いてサロンを運営し参加者と交流を持つ中で参加者の変化に感動を得ていた。この感動から、参加者や地域づくりに役に立っている実感を得、地域のサポーターとしての自覚を新たにしていた。この感動から自覚へというプロセスが長期継続に必要な要素として示唆された。介護予防事業を担う理学療法士は、サポーターが参加者との交流を持ち、感動や実感を得られるような活動場所やプログラムの情報提供などを行う中で、サポーターと協働した地域づくりをすることが求められると考えられた。<BR>本研究の対象は1名であり理論的飽和には至っておらず、今後、対象を拡大し比較検討する必要がある。<BR>【まとめ】<BR>前橋市の介護予防サポーターを5年間継続している女性へのインタビュー内容からM-GTAを用いてサポーターへの参加及び継続のプロセスを明らかにした。得られたプロセスから、参加の要因として[感謝される体験][市の事業という意識]、継続の要因として[他者との交流から得る感動][地域のサポーターとしての自覚]が考えられた。
著者
梶谷 卓也 平野 佳代子 澤木 弘之 浜田 誠一郎 平 雅成 永吉 顕 ?梨 晃 萩原 秀彦(MD)
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.141, 2011

【目的】<BR> サッカーは,キック動作を多用する下肢を中心とした動きの連続で,下肢外傷の発生頻度は高い.特に,股関節周囲の慢性的な疼痛を訴える選手が多く,その治療と予防には力が注がれている.競技特性として,ポジション別に身体操作に特徴があり,特にサイドプレーヤーでは,左右の下肢へ加わるストレスに違いがある.支持脚と蹴り脚について,大腿四頭筋の筋力や重心動揺など多くの研究がなされているが,両者の差は明らかにされていない.また,股関節機能に対する研究や,ポジション別に左右差を検討した報告は少なく,検討の余地がある.<BR> 本研究では,ポジション別の特性が股関節の機能に与える影響に着目し,利き脚と非利き脚における筋力及び可動域(以下ROM)について検討し,若干の知見が得られたので報告する.<BR>【対象】<BR> 本研究の趣旨を理解し同意を得た,下肢に既往のない高校サッカー選手20名(年齢17.2±0.7歳,身長170.9±6.3cm,体重62.5±6.4kg)とし,各ポジションの競技歴が3年以上の者を選定した.内訳は,センタープレーヤー10名(以下CP群),サイドプレーヤー10名(以下SP群)とした.尚,利き脚はキック動作を多用する側とし,SP群では,全員が利き脚と同側のポジションであった.<BR>【方法】<BR> 股関節外転・内転・外旋・内旋のROMと筋力を,下記の方法で測定した.A)ROM:日本整形外科学会,日本リハビリテーション医学会に準じ,角度計を用いて計測した.B)筋力:徒手筋力計(μTasF-1)を用いて各2回測定し,平均値を求めて体重比を算出した.統計学的処理は,CP群とSP群で各項目の利き脚と非利き脚における差について,対応のないt検定を用い比較検討した(P<0.05).<BR>【結果】<BR> CP群は,全ての項目で有意差は認められなかった.SP群は,筋力で内転(利き脚:0.903±0.15Nm/kg,非利き脚:0.739±0.14 Nm/kg),内旋(利き脚:0.736±0.18 Nm/kg,非利き脚:0.591±0.10 Nm/kg)に有意差が認められ,その他の項目では認められなかった.<BR>【考察】<BR> 結果より,CP群では差はなかったが,SP群において股関節内転・内旋筋力で,利き脚が非利き脚より高値を示した.SP群は,同一脚,特に利き脚でのキック動作を多用し,中でもインフロントキックを用いる局面が多い.インフロントキックは,テイクバックから股関節内転・内旋運動によって,インパクト,フォロースルーへ移行することが特徴的であり,結果との関連性が考えられた.従って,サッカー選手ではポジションの特性により,股関節機能に影響を与えることが示唆された.<BR>
著者
津布久 咲子 吉田 久雄 林 明人
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.290, 2011

【はじめに】ROM制限に対する理学療法の手技は様々であるが、超音波療法については報告も少なく、また肯定的な意見も少ない.今回、超音波療法を運動療法と共に併用することで、高度なROM制限が改善した症例を担当したので、超音波療法の治療効果についての文献も加え報告する.尚、報告に際しては本人より同意を得た.<BR>【症例紹介】54歳男性.診断名:右膝化膿性膝関節炎.H22.5.8夜間に突如、右膝関節痛出現.5.27体動困難となり、当院に緊急入院となった.5.31関節鏡下滑膜切除・洗浄デブリードメント術施行(~6/3まで持続灌流).6.8理学療法を開始.7.7より超音波療法を開始.9.27理学療法を終了.<BR>【治療経過】<B>開始時</B>画像所見:X-P上、骨関節の明らかな異常所見(-) 炎症値:CRP10.1mg/dl 視診:右膝関節の腫脹(+) 触診:右ハムストリングスの短縮(+),右膝蓋大腿関節の可動性は全方向に認められず 疼痛:右膝関節周囲に常時出現 ROM:右膝屈曲60°伸展-20°移動:NWBでの歩行は疼痛により持続困難で、車椅子利用<BR><B>超音波療法開始時(術後5週)</B>炎症値:CRP<0.3mg/dl 触診:右膝蓋大腿関節の可動性は健側と比して頭尾側に1/2程度、内外側に1/3程度と低下していた 疼痛:右膝関節内側裂隙に荷重時痛(+),右膝屈曲時に膝蓋骨下を水平に走る疼痛(+) ROM:右膝屈曲90°伸展-20°移動:荷重時痛のため1/2~2/3PWBでの両松葉杖歩行<BR><B>終了時(術後17週)</B>疼痛:屋外歩行時に荷重時痛(+) ROM:右膝屈曲135°伸展-5 °移動:独歩・一足一段での階段昇降可能<BR>【超音波療法の設定】治療部位:右膝蓋骨下軟部組織 方法:直接法、温熱モード 周波数:1MHz 強度:1.0~1.5W/cm<SUP>2 </SUP>治療時間:10分 連続性:100% 頻度:2~3回/週(計15回)<BR>【考察】今回担当した症例は、高度なROM制限を呈しており、ROM改善に難渋した.ROM制限の要因として、膝蓋骨下軟部組織の柔軟性低下が関与していると考え、同部位の柔軟性獲得を目的に術後5週目より温熱療法を併用した.超音波療法は、物理療法の中でも特に深達性の温熱効果が得られるため、本症例に適応があると考えた.物理療法の温熱効果に関しては、Lehmannらの動物実験から『軟部組織の伸張性向上に温熱療法は有効である』、沖田らの動物実験から『拘縮の治療として温熱療法と運動療法の併用は有効である』とあるが、臨床においては『温熱効果の有用性を示唆する』といった内容の報告に留まっている.しかし、今回の症例ではROMの改善を得て、さらにADLの改善にもつながった.治癒過程における組織学的変化や退院後の活動量増加など他の要因も考えられるが、他の文献と同様にROM改善の一助として超音波療法も有効であるのではないかと考えられた.
著者
小和板 仁 平沼 淳史 浅海 祐介 井口 暁洋 高橋 裕司 齊藤 哲也 大久保 圭子
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.275, 2011

【目的】<BR>片麻痺患者の中には非麻痺側への重心移動に抵抗を示し、立位や歩行、トランスファーが困難な症例を経験することがある。本症例も非麻痺側への重心移動時に抵抗を示した。Pusher現象とは症状が違い、視覚アプローチにより非麻痺側への重心移動に抵抗が軽減した一症例を経験したので報告する。<BR>【方法】<BR>79歳男性。意識レベルE4V5M6/GCS。左視床・頭頂葉など多発脳出血により右片麻痺を呈した。Brunnstrom Stage:V-V-V。表在・深部覚ともに軽度鈍麻。高次脳機能障害として空間認知障害などが見られた。坐位での非麻痺側への重心移動は抵抗がなかったが、立位では抵抗が見られた。本症例は坐位・立位において正中位にても左に傾いていると自覚症状があった。視覚・空間認知の評価に対して指鼻指試験及び閉眼立位保持(以下閉眼)、開眼立位は2つの方法(以下開眼鏡なし、開眼鏡あり)にて各条件において体重計を用い左に荷重してくださいと促した時の左下肢荷重量を測定した。また立位にて恐怖感があることから、上記の各条件下での恐怖感をNumerical Rating Scale(以下NRS)にて10段階で評価した。さらに網本らの使うPusher重症度分類を参考にした。<BR>【結果】<BR>Pusher重症度分類0点。指鼻指試験陰性。体重55kg、静止立位での左下肢荷重量30kg、閉眼での荷重量35kg、開眼鏡なしでの荷重量38kg、開眼鏡ありでの荷重量42kg。NRSにて閉眼7/10、開眼鏡なし6/10、開眼鏡あり5/10であった。<BR>【考察】<BR>本症例は左視床・頭頂葉出血により右片麻痺、高次脳機能障害を呈しADL能力の低下を認めた。視床・頭頂葉は上下肢からの情報や前庭からの情報などを統合して空間的に姿勢を保持するための機能があると言われている。結果より本症例は視覚認知は保たれていると思われる。坐位・立位にて正中位でも左に傾いているとのことから、姿勢空間認知に障害があり、非麻痺側への重心移動で抵抗を示したと思われる。諸家の報告ではPusher現象は同部位の障害で出現することがあると報告があるが、本症例ではPusher現象は見られない。Pusher現象を有する症例のアプローチとして視覚アプローチがあるが、症例の中には視覚により症状を増強させるという報告がある。本症例に鏡を使用したところ、結果から視覚アプローチが有効であったと思われる。これは鏡を使うことで姿勢を視覚的に捉えやすくなり、フィードバック機構が働いたためではないかと考え、本症例には視覚アプローチが有効であったと思われる。
著者
浅香 貴広 米山 恭平 高橋 麻美 堀本 ゆかり
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.159, 2017

<p>【背景】</p><p>平山らは、患者の抱える障害や環境など問題点が多様化していることを指摘し、堀本らは対人援助職として理学療法士には理学療法技術のみではなくコミュニケーション能力が必要だと述べている。コミュニケーション能力の重要性は認識されているが、具体的な対応策に言及している論文は少なく、臨床現場の努力に依存しているのが現状である。</p><p>【目的】</p><p>理学療法士及び理学療法学生(以下、学生)が医療面接でどのように情報収集しているか検証する。</p><p>【対象】</p><p>臨床経験年数が5 年以上の理学療法士6 名と、臨床実習中の学生10 名とした。対象者には研究の趣旨を説明し、同意を得た。</p><p>【方法】</p><p>模擬患者を相手に医療面接を行い、その様子をデジタルビデオで撮影した。撮影した動画から音声記録を文字記録に起こし、その内容を1,自己紹介2,現病歴3,訴えや症状4,現在のADL5,以前のADL及び社会的情報6,今後について7,医師のコメントの7つに分類し、所要時間と比率を算出した。</p><p>【結果】</p><p>面接全体の所要時間は理学療法士平均258.8 ± 123.8 秒、学生平均196.4 ± 60.5 秒であった。質問内容の構成比率では、</p><p>5, 以前のADL 及び社会的背景が最も多く(理学療法士34%学生33%)3, 訴えや症状が次に多かった(理学療法士27%学生</p><p>30%)。</p><p>【考察】</p><p>今回、理学療法士及び学生において模擬患者を対象に医療面接を行う様子を分析した。その結果、双方の質問内容の構成には大きな違いは見られず、それぞれ以前の生活スタイルと現在の症状についての質問が多く聞かれた。中平らは臨床実習前の学生に医療面接を行なった結果、質問内容の構成の中で「現在のADL」の比率が大きかったと述べている。本研究の対象は最終学年の臨床実習生であり、学内教育のまとめの段階である。これまでの実習で退院後の生活の重要性について指導され、定着した結果の表れであると推察できる。動画を用いた振り返りは、コミュニケーション能力の向上に寄与できると考える。</p>
著者
横田 直子 横田 直子 小坂 香代子
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.31, 2012

【はじめに】<BR>心臓リハビリテーションの効果は様々なエビデンスが証明されているが継続できる受け皿が乏しい現状である。通所リハビリテーション(以下デイケア)において慢性期リハビリテーションを継続し効果のあった症例を報告する。学術的発表にあたりご本人より承諾を得ている。<BR>【症例紹介】<BR>70代男性。病前は転勤の多い会社員。診断名:心筋梗塞・多臓器不全(H20.12)EF27%、BNP800-1000pg/ml、血圧96-80/62-50mmHg。H21.6月自宅退院。入浴・更衣のみ軽介助。屋外連続歩行は30M程度。知的レベル高く、治療への意欲強い。<BR>【経過】<BR>H22.12月通所施設の終了に伴い当デイケア利用開始。専門的なリハビリを継続したいとの希望あり。以前レジスタンストレーニング中心の自主トレーニングが原因と思われるBNP上昇があり自主トレ中止となっていた。監視下にて3Mets程度のプログラムから開始し、開始1ヶ月で持久力の向上と安全な運動強度が定着した為、セラバンドを用いた自主トレーニングを指導。教育と情報交換の場としても活用される。H23.6月散歩やバスでの外出を楽しまれるようになる。8月NPOで行っている心臓リハビリテーションを紹介し、デイケアと併用開始。運動負荷試験の結果現行の運動強度のまま継続の方針となる。妻の入院の際も家事や見舞いなど行えていた。9月耐久性の向上に伴いプログラムを追加。同程度の運動時間を延長。調理・園芸・散歩・掃除など楽しまれる。<BR>【結果】<BR>退院後21カ月時点で急性増悪なし。ADLは入浴の洗体を除いて自立。H23.12月の会議にて、執刀医から筋量が増えてほめられたこと、苦しくて20歩で休んでいた道を20-30M歩行後自分でひと息入れて歩き続けられたこと、リスクに配慮して外出できていることがご本人より語られた。また、道行く人に障害者と見てもらえず苦労したことも語られた。<BR>【考察】<BR>包括的心臓リハビリテーションの一環として介護保険下でのデイケアにて慢性期心臓リハビリテーションの継続に関わった。介護サービスの他、医療・NPOなどのサービスと共同して症例を援助できた。急性増悪なく運動耐用能、自己効力感の改善ほか一定の効果を得た。デイケアは慢性期の心臓リハビリテーションの一選択と成りうる。終了期限がなくライフスタイルやQOLに踏み込んで援助を継続する事が可能であり、通院困難による継続不能の要素も除外できる。今後も制度や情報不足の狭間でリハビリテーションの恩恵を受けられない方が少なくなるよう働き掛け続ける必要がある。
著者
舘野 純子 宇賀田 裕介 永井 勝信 瀧谷 春奈 稲葉 沙央莉 猿子 美知 赤池 幸恵 坂 英里子 宮村 大治郎 門手 和義 明石 直之
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.182, 2017

<p>【目的】</p><p>心室性不整脈が頻発する症例に対する運動療法の効果について検討する.【症例提示】</p><p>72 歳,男性.X 年,健診にて心室性期外収縮(PVC)頻発を指摘されていた.X+1 年PVC に対してアブレーション施行するも心外膜側由来のPVC のため焼灼困難と判断し経過観察となっていた.X+3 年7 月22 日,急性心筋梗塞を発症し当院救急搬送.右冠動脈房室枝(#4AV)と後下行枝(#4PD)に完全閉塞を認め,潅流領域の広い#4PD に対して冠動脈インターベンションを施行した.#4AV は潅流領域が狭く,薬物療法継続の方針となった.退院時(7 月26 日)の心機能はEF61%,下壁の壁運動が低下しており,ホルター心電図では総拍数が88463 拍,PVC は総拍数の31%に出現,最大は3 連発であった.</p><p>【運動処方】</p><p>10 月6 日心肺運動負荷試験(CPX)施行.10 月12 日から5 ヵ月間,外来監視型心臓リハビリテーションを施行した.通院頻度は週1-2 回,運動の種類はレジスタンストレーニングと有酸素運動,運動強度は自覚的運動強度とCPX の結果に基づいて処方した。運動療法中は2 段脈が頻発,PVC ショートランの出現歴があり,自覚症状や血圧を管理しつつ介入した.</p><p>【結果】</p><p>開始時と5 ヶ月後のCPX では,PeakVO<sub>2</sub>16.1 →21.4kg/ml/min,MaxLoad84 →113W と改善を認めた.また,膝伸展筋力は体重比0.52 →0.60 と改善を認めた.さらに,週5 回程度の運動習慣がつき,非監視型運動療法への移行が可能となった.【考察】</p><p>心室性不整脈を有する患者に対する運動療法は,一定の見解が得られていない.今回,運動耐容能改善が得られた因子として,骨格筋の強化が図れたことが一要因であると考える.したがって,適切な運動処方や運動指導により,心室性不整脈を有する患者に対する運動療法は運動耐容能改善に効果的であり,非監視型運動療法への移行も可能であると考えられた.なお,本症例報告はヘルシンキ宣言に沿い対象者に同意を得たものである.</p>
著者
藤田 智 塚原 秀明 内藤 勇気 岩瀬 友美 一瀬 裕介 高野 智秀
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.219, 2011

【目的】 各種スポーツ競技においてメディカルサポート活動が普及してきており、障害予防の必要性も認知されてきている。栗生田らはセルフケアを中心とした障害予防教育を早期から現場へ普及させる必要があるとしており、チーム・個人での障害予防への取り組みは、指導者の理解度にも左右されると思われる。今回、栃木県の高等学校野球指導者に対しアンケート調査を行い、各チームの障害予防の取り組み状況について調査を行ったので報告する。【方法】 対象は、栃木県高等学校野球連盟に加盟する計64校の監督指導者を対象とした。栃木県高校野球連盟に説明し同意を得て、役員を通じ調査用紙を各校に送付した。アンケート内容・説明に同意した監督指導者から回収した。調査内容は、1)平成22年度における最高成績(ベスト4以上を上位校。ベスト8,16を中位校。左記以下を下位校)2)全体練習時間におけるウォーミングアップ(以下アップ)、クールダウンの割合。3)コンディショニングなどに関する内容とした。【結果】 回収率は56%(36校)であり、各項目を成績で分けた。全体練習時間の中でアップの割合は、上位校(7校)14%、中位校(10校)18%、下位校(19校)20%。クールダウンの割合は上位校7%、中位校10%、下位校12%。コンディショニングなどの内容のベスト3は、上位校でコア・体幹(100%)、瞬発力(100%)、フォームチェック(86%)。中位校でコア・体幹(80%)、肩チューブトレーニング(80%)、栄養、瞬発力(70%)。下位校で瞬発力(84%)、コア・体幹(79%)、有酸素(68%)であった。【考察・まとめ】 アップ・クールダウンは、上位校ほど全体練習の中での割合は少ない傾向であった。これは監督指導者が技術的なトレーニング内容を重視していることが考えられる。また下位校ほどその割合が長いのは、選手の基礎体力を重視しているか、効率的に行えていない可能性もある。コンディショニングなどに関しては、多くの監督指導者がコア・体幹系に注目している。今後のさらなる検証も必要であるが、栃木県高校野球連盟と連携を取りながらメディカルサポート部として活動していく予定である。
著者
坂本 宗樹 結城 俊也
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.10, 2008

【はじめに】片麻痺患者の歩行練習において、下肢関節の支持機能(身体位置の感覚や筋張力発現)低下の程度に個人差がある事から、一様に短下肢装具対応では機能的な歩行に繋がり難い患者もいると考えていた中、重度の左片麻痺患者に対し長下肢装具使用下での立位・歩行練習の機会を得た。当症例を通して装具非使用・短下肢装具使用下では獲得する事が困難と思われる効果が見られたので以下に報告する。<BR>【症例紹介】79歳男性、診断名:右脳内出血(前頭葉・頭頂葉皮質下)、経過:平成17年6月18日に発症し、Z大学病院に入院。リハビリテーション(以下、リハビリ)目的にて7月20日当院回復期リハビリ病棟へ転院となる。初期評価(7月21日):覚醒良好、Br.stage上下肢・手指共にI、起居動作中等度~全介助、端座位保持困難、所謂プッシャー症候群顕在。退院日:11月29日<BR>【方法】11の運動課題を、森中らが推奨するCCAD joint付きプラスチック長下肢装具(以下、当該装具)を使用して9月22日より2ヶ月間実施。膝・足継ぎ手の設定は上記運動課題の遂行状況を確認し、膝伸展0°・足底屈5°とした。<BR>【結果】当該装具使用開始から2ヶ月間でT字杖軽~中等度介助歩行(10m歩行:113秒)からT字杖監視歩行(10m歩行:73秒)に至った。<BR>【考察】歩行における長下肢装具の適合性として、直接衝撃を受ける足底と床反力との関係においては、当症例の初期接地が全面同時接地であった事から足底部分の形状が足底全面を覆わずに前足部~中足部までを覆う形状とする事で相対的に少ない床反力に留まり、かつ当該装具特有のフレキシブル機能発揮下での足継手底屈5°固定による前方制限によって床面と下腿長軸の関係が垂直までの位置関係に留まった事で床反力作用点が足・膝関節共に関節付近を通り、膝関節伸展の筋張力が作用し易かった。また反張膝にならないよう足継手固定、膝伸展0°設定とした事で、より下肢伸展筋張力が発揮され易く、立脚期が安定し易くなった。そしてツイスター使用により股関節外旋を抑制する事で、過剰な関節運動の自由度を抑制し、より推進力を発揮・遊脚期での下肢軌道が安定し易かった。これに歩行周期の骨格筋作用を理解した理学療法士の介助も付加する事でより再現性の高い練習が行えたと考える。<BR>【まとめ】下肢装具を用いた歩行分析を通して、(1)身体機能(歩行能力)と装具機能(剛性)の関係性(適合性)は適正か、(2)床反力作用線は下肢の各関節付近を通っているか、を整理し、上記2つを解決する作業に臨む事で装具療法を洗練化し、機能的な歩行を導く事に寄与すると考える。
著者
小澤 哲也 大澤 貴子 大山 由廉 中村 彩菜 霜田 直史 守田 誠司 澤本 徹 石塚 久美子 白石 尚子 村山 ゆかり 岸本 美保 川口 留佳 佐藤 隆一
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.121, 2017

<p>【背景】</p><p>近年、人工呼吸器装着(MV)患者に対する離床の開始基準や実施基準が明確化されているが、離床時のリスクの層別化に関する報告は少ない。そこで本研究は離床時のリスクを層別化した離床プログラムの安全性を検討することを目的とした。</p><p>【方法】</p><p>当院救命救急センターに入院となり、離床プログラムに基づいてベッドアップ、端座位および車椅子乗車を実施したMV 患者5 例(男性5 例、年齢77 ± 11 歳、肺炎4 例、多発外傷1 例、APACHE2 スコア25.8 ± 1.5 点)、28 回の離床を対象とした。離床時のリスクの層別化として、人工呼吸器の設定(FiO<sub>2 </sub><0.6、PEEP <10cmH<sub>2</sub>O、PaO<sub>2</sub>/FiO<sub>2</sub> ratio >150)、高用量の強心薬を使用していないこと、バイタルサイン(SpO<sub>2 </sub>>88%、HR40-130bpm、sBP80-180mmHg、RR10-40bpm、体温<</p><p>38.5℃)の3 つの大項目を指標とし、基準を満たした大項目の数によって、3 項目をlow risk(LR)、1 ~2 項目をmoderate risk(MR)、0 項目をhigh risk と分類した。なお、high risk の場合は離床は実施しなかった。アウトカムは離床実施前後の血圧、心拍数、酸素飽和度、呼吸回数およびそれぞれの変化量と20 分の離床が完遂できたか否かとした。解析方法は各離床をLR とMR に分類し、アウトカムを対応のないt 検定とχ2 乗検定で比較した。なお、有意確率は5% 未満とした。本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した。</p><p>【結果】</p><p>離床のリスク分類はLR 18 回、MR10 回であった。LR はMR の離床に比較して20 分の離床完遂率(LR vs. MR: 50% vs.</p><p>10%)、PF ratio(171 ± 17 vs. 131 ± 17)、体温(37.1 ± 0.5 vs. 37.7 ± 0.7℃)、離床後のSpO<sub>2</sub>(97 ± 3 vs. 95 ± 3 %)に有意差を認めた(p <0.05)。それ以外の項目に有意差は認めなかった(p >0.05)。</p><p>【結論】</p><p>LR とMR のMV 装着下の離床は著しい呼吸循環動態の悪化を招くことはないが、MR の離床は離床時間の調整などが必要である。</p>
著者
野中 聡 高橋 正雄 高野 智央 和地 秀章(OTR) 弓削 幸子 高木 有希
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.94, 2006

【背景および目的】住環境整備の効果に関するこれまでの報告では,整備内容や使用状況に関する調査が多い。しかし,これまでに効果の検証に加えて,利用者側とサービス提供者側との問題意識の相違について検討した報告は見当たらない。そこで,本研究では利用者と提案者であるPT・OTとの問題意識の相違について明らかにし,望ましい住環境整備について検討するための資料を得ることを目的とした。<BR>【方法】対象は,平成15年1月から平成17年3月までに当院リハビリテーション科スタッフが訪問家屋調査を実施して,外出,入浴,排泄のいずれか1つ以上を対象とした住環境整備に対する助言をおこなった介護保険利用者の中で,在宅生活の継続が確認できた14名のうち,本調査への協力が得られた9名とした。主な調査内容は(1)整備の提案内容,(2)実際の整備状況,(3)住環境整備の効果(動作自立度,介護負担感,使用状況,満足度)とし,事前の訪問家屋調査報告書からの情報収集,利用者宅への訪問による整備箇所および実演動作の目視確認をおこなった。住環境整備の効果については,社団法人シルバーサービス振興会(2004)の方法を参考にした。<BR>【結果および考察】対象者は男性3例,女性6例,平均年齢71.4歳,事前調査時の要介護度は要支援および要介護1が半数以上を占めていた。外出(9例23箇所)では提案内容との一致は11箇所(47.8%)であり,上がり框や玄関外側の整地や手摺りの設置等の過少整備が多く,乖離の理由は本人や家族の希望によるものが多かった。入浴(7例33箇所)では提案内容との一致は26箇所(78.8%)であり,シャワー椅子や浴槽内マット,バスボードや手摺りの設置等の過少整備が多く,乖離の理由は本人の判断によるものが多かった。排泄(8例14箇所)では提案内容との一致は11箇所(78.6%)であり,トイレまでの移動や出入り,立ち上がりに使用する手摺り等の過剰整備が多く,乖離の理由は本人の希望によるものが多かった。各行為により整備や乖離の状況が異なっており,過少整備では問題が未解決であることが多く,特に外出に関する玄関周辺の整備においてその傾向が強かった。また過剰整備にはPT・OTの目から見て不要と判断される整備が多く,その大部分が本人の不安感の訴えにより整備されており,経過により不使用となっていた箇所が多かった。いずれの乖離も利用者側のデマンズと提案者側が判断したニーズの不一致が主な原因と考えられた。また,使用状況や満足度は重要な評価項目ではあるが,今回の調査では動作自立度や介護負担感と関連が見られないことがあり,効果の検証には複数の指標を用いた多角的な評価が必要と思われた。