著者
荒川 信一郎 阪本 研一 上松 孝
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.983-987, 2016-07-31 (Released:2016-12-28)
参考文献数
21

症例は42歳の女性。統合失調症で他院通院加療中に突然の希死念慮のため文化包丁で自分の腹部を刺し受傷1時間45分後に救急搬送された。来院時包丁は腹部に刺さったまま固定された状態であった。造影CT検査で膵頭部,胃前庭部~十二指腸の損傷を疑い受傷4時間15分後に緊急開腹術を施行した。包丁先端は十二指腸球部を穿通し膵頭部上縁実質を約5mm幅で穿通し椎体腹側に達していた。助手が包丁を固定した状態で慎重に損傷部位の検索を行い主膵管・胆管・主要血管の損傷がないと判断した時点で包丁を抜去し,穿孔部を含む胃十二指腸切除+膵頭部縫合閉鎖を行った。術後経過は良好で術後17日目にかかりつけ精神科に転院となった。本邦の腹部外傷は鈍的外傷が多く刺創に遭遇する機会は少ない。自験例では成傷器が残存した状態にあり詳細な術前評価は困難であったが,注意深い手術操作のもと検索を行うことで良好な経過を得ることができた。