著者
上江洲 榮子
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第37回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.20, 2010 (Released:2010-08-18)

沖縄において古くからユリ科カンゾウ(学名:Hemerocallis ,方言名:クワンソウ)は,不眠症に効果があると伝承されている。文 献を遡ってみると,沖縄の古い食療書・御膳本草(渡嘉敷親雲上通寛,1832)に“くわんさう”は「わか葉及び花は食用に供せられる。苗 花は・・黄疸を除け,久しく食へば身を軽くして目あきらかなるなり」とある。この著書にはまだ「不眠症」という表現は出てこない。 浦添為宗によって編集・発行された「家庭医書御膳本草綱要,1931」には不眠症を治すと記載されている。さらに1951年以降に発行さ れた沖縄の薬草関係の図書には,不眠症を治す効用を示す植物として,ノカンゾー,ヤブカンゾー,ベニカンゾー,ホンカンゾーなど と表現されている。従ってこの段階では“くわんさう”が現代のアキノワスレグサを示しているのか明確ではない。不眠症には「アキノ ワスレグサの葉を,ネズミモチ,クコ,カワラヨモギとともに煎じて服用する」(多和田真淳・大田文子,1985)などと記載されている。 この多和田・大田の著書になって,アキノワスレグサとの表現が認められる。 この文献に基づいて,アキノワスレグサと判断される植物について,マウスを用いた動物実験において睡眠に対する影響について検 討し,伝承を確認する結果を得た(Psychiatry Clin Neurosci. 1998)。その後,共同研究者たちと共にさらにこの結果を確認するこ とができた。最近の成分分析によって,アキノワスレグサは抗酸化活性を示すポリフェノール類やカロテノイド類を高濃度に含有する 結果を得た。 従って,御膳本草に収載されている“くわんさう”は肝機能を改善し黄疸を除き,かつ睡眠改善作用のあるアキノワスレグサであると 推定される。