著者
上浦 佑太
出版者
芸術学研究会
雑誌
芸術学論集 (ISSN:24357227)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.41-50, 2021-12-31 (Released:2021-12-29)
参考文献数
5

正方格子や正多角形のような数理的秩序による構造(以下、数理的構造)に基づいて形を配置するタイプの造形表現には、恣意や偶然を排した規則的操作による表現と、形や配置をあえて不揃いにする不規則な表現の2種類がある。不規則性を取り入れた表現には図形などの再現的形体のみで構成される作品だけでなく、自然物の形や偶然的行為の痕跡として生ずる非再現的形体を活用した展開もある。しかし、これらを数理的構造に基づく造形の展開として包括的に捉える研究はまだない。そこで本研究では数理的構造に基づく造形の体系化を見据えて、まず不規則性の導入方法を整理することを目的とした。研究対象は最も基本的なアプローチである二次元の数理的構造を基盤とした表現に限定した。調査対象は静止表現に限定し、規則的表現と不規則表現の両方を取り上げた。事例調査をふまえて構造の数理性を活用した配置の特性を整理し、再現的形体と非再現的形体のそれぞれについて不規則性の導入要因を分析した。考察により明らかになった不規則性の導入方法は以下5つである。1)自然物または不揃いな生成物を取り入れる2)偶然性を取り入れた行為の痕跡として直接媒体に定着する不規則形体を取り入れる3)構造の点・線・面の最小単位に対して特定の形または行為を計画的に割り当てるために行うラベリングのプロセスにおいてラベルの分布を不規則にする4)ラベルに割り当てる操作内容に偶然や恣意に基づく不規則な要素を取り入れる5)構造を不規則に変形する不規則性の導入方法を整理したことで数理的構造の応用範囲を俯瞰的に見渡す手掛かりができた。本研究成果は数理的構造を活用した造形を体系化して表現の基盤と展開を拡張する今後の研究のための基礎になる。