著者
上野 雅史
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
やどりが (ISSN:0513417X)
巻号頁・発行日
no.169, pp.25-41, 1997-05-20
参考文献数
16
被引用文献数
4

本来,日本に生息しないとされていたオオモンシロチョウ(Pieris brassicae Linnaeus)が小樽市在住の本間定利氏により,北海道岩内郡共和町上中ノ川(以下,北海道を省略する)において採集されたのは,1996年6月8日のことであった。その後,本種の夏型が余市郡仁木町然別において同年7月19日に(札幌在住の森一弘氏採集),札幌市南区小樽内川で同年7月27日(札幌在住の寒沢正明氏採集)と相次いで採集され,その関連記事が同年7月30日付北海道新聞他に掲載された。私は,本種が高層の気流に乗って飛来してきたと考えた。予備調査として1996年8月2日と3日両日,奥尻島(離島)で調査を行った結果,オオモンシロチョウを採集することができたので,本格的な調査を実施することとした。オオモンシロチョウは,ヨーロッパでは季節的に移動することが知られている。しかし,大陸から東北地方や北海道への飛来は,距離の短いドーバー海峡やアルプス山脈を越える渡りと比べ,はるかに確率の低い困難なことと言わなければならないであろう。17年前に北海道に飛来したチョウセンシロチョウの場合は,残念ながらその飛来の時期やルートについては推論の域を出ずに終わった。しかし,オオモンシロチョウについては,筆者が自ら飛来地域の現地調査を実施するとともに,気象資料の解析を行った結果,飛来した経路等を推定することができたので,その一部を報告する。