著者
竹束 正
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.59-60, 1973

シジミチョウ科の交配については,まだ実例が発表されていないようなので,筆者が1970年から行なっているウラゴマダラシジミ(黒化型)Artopoetes pryeri Murray f. shikokuana Okuboを用いた野外交配の実例について報告したい.この方法が,減少したり絶減に近づいている小型種の生存や勢力の回復に有用であれば幸いである.
著者
二村 正之 若原 弘之 宮本 龍夫
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.60-64, 2014

イナズマチョウ属Euthaliaの幼虫の棘に毒性があるかどうかを調べるために,モニナイナズマEuthalia moninaとビャッコイナズマE. byakko各々5齢幼虫の形態を観察し,さらに被験者(50歳,男性)の皮膚へ直接触れさせる方法により皮膚炎発症の有無を確認する実験を行った.形態観察の結果,E. moninaの幼虫背面の棘に黄色の球状部が多数認められるのに対し,E. byakkoにはほとんど認められないことが判明した.さらに,被験者の前腕部に虫体を付着させる実験で,E. moninaでは虫体が皮膚に触れると疼痛をもたらし,10分後に早くも付着部皮膚に皮膚炎(痒みを伴う紅斑や膨疹)が出現し,48時間後にはそれが幼虫の形に浮き出るほど進行した.結局,これらの症状が消失するまでに120時間(5日間)以上を要した.これは既に毒棘による皮膚炎の発症が報告されているマダラガ科Zygaenidae幼虫による反応に近いと考えられた.一方,E. byakkoでは皮膚にそのような変化はまったく認められなかった.以上の結果から,E. monina 5齢幼虫の棘から毒液が分泌される可能性が示され,これが,背部の棘にある黄色の球状部に含まれている可能性があることが示唆された.一方E. byakko 5齢幼虫にはそのようなことがなかったという事実は,毒棘がEuthalia属幼虫すべてに存在するものではないことを示している.
著者
那須 義次 黄 国華 村濱 史郎 広渡 俊哉
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.187-193, 2008-06-30
被引用文献数
2

2007年,営巣後のオオタカとフクロウの巣を調査したところ,前者の巣から日本新記録のフタモンヒロズコガ(新称) Monopis congestella (Walker)とマエモンクロビロズコガ M. pavlovskii (Zagulajev),後者からもフタモンヒロズコガの発生を確認した.これら幼虫は,巣内のケラチン源(羽毛,毛,ペリットなど)を摂食していた.オオタカの巣から発生した蛾の記録ははじめてである.大阪府立大学昆虫学研究室の標本を調査したところ,日本各地から採集されていたフタモンヒロズコガの標本も見いだした.幼虫産出性は鱗翅目では極めて珍しいが,ヒロズコガ科を含むいくつかの科で知られている.東南アジアのフタモンヒロズコガは,幼虫産出性を示すことが知られているが,灯火採集された日本産の2♀成虫の腹部内に1♀あたり最大51個体の幼虫が見いたされため,日本産も幼虫産出性であることが確認された.
著者
四方 圭一郎
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
やどりが (ISSN:0513417X)
巻号頁・発行日
vol.2016, no.248, pp.2-17, 2016-04-15 (Released:2017-06-05)
参考文献数
8
著者
加藤 義臣 吉岡 泰子
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.209-219, 2003
参考文献数
16
被引用文献数
1

本研究では,まず野外および温室においてアオスジアゲハの配偶行動を観察し,次に雄の配偶行動を解発する視覚刺激をさまざまな標本及び色紙モデルの提示により調べた.本種の雄はパトロール型の配偶戦略を示し,積極的に飛び回って雌を探す.雌を発見すると,雌に接近し求愛を行った.交尾が成立する場合には,雌を見つけた雄は,しばらく追飛し雌がホバリングし始めるとその周りを縦に円を描くように垂直方向に飛び,雌が翅を閉じて止まるとすぐに交尾に至った.一方交尾が不成立に終わる場合には,求愛する雄に対して雌は翅を拡げた姿勢を示し,しばしば翅をはばたかせて雄を拒否した.次に,標本モデルの提示実験により,雄は交尾試行は雌モデルに対してより頻繁に行なわれたが,接近行動は雌,雄のモデルに対して同等に行なわれた.雄の接近は翅の黄色や黒いモデルよりも青い翅モデルにより頻繁にみられた.このことは色紙モデル提示実験において明らかとなった.すなわち,青色および緑色,特に濃い青色が雄の接近には有効であり,赤,黄および黒色は効果を示さなかった.また色彩パターン,サイズおよび形は雄の接近を誘起するには重要でなかった.これらの結果は,アオスジアゲハ雄の求愛行動を誘起するには翅の青色自体が有効であり,形や大きさ,それに色彩パターンは調べた範囲では関係なかった.従って,翅の青色化を誘導する羽化後の光照射は配偶行動に重要な意味を持っていることが推察される.
著者
中島 秀雄
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
やどりが (ISSN:0513417X)
巻号頁・発行日
no.152, pp.2-28, 1993-02-25
著者
小汐 千春 石井 実 藤井 恒 倉地 正 高見 泰興 日高 敏隆
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.1-17, 2008-01-05 (Released:2017-08-10)
参考文献数
52
被引用文献数
1

東京都内に広く分布するモンシロチョウ Artogeia rapae (=Pieris rapae)およびスジグロシロチョウ A. melete (=P. melete)の2種のシロチョウについて,東京都内全域において,過去にどのような分布の変遷をたどってきたか調べるために,アンケート調査,文献調査およびフィールド調査を行った.その結果,特別区では,1950年代から1960年代にかけてモンシロチョウが多かったが,1970年代以降スジグロシロチョウが増え始め,1980年代には都心に近い場所でも多数のスジグロシロチョウが目撃されるようになったが,1990年代以降,再びスジグロシロチョウの目撃例が減少し,かわってモンシロチョウの目撃例が増加したことが明らかになった.さらにこのようなモンシロチョウとスジグロシロチョウの分布の変遷は,特別区以外の郊外の市町村や島嶼部でも見られることがわかった.
著者
Hayashi Hisakazu
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.63-82, 1981-09-20
被引用文献数
1

The present paper deals with new species and subspecies of lycaenid butterflies belonging to the genera Deramas, Narathura, Flos, Horaga, Pratapa, Neocheritra, Chliaria and Sinthusa recently discovered in the Philippines. The holotypes designated herein are all to be preserved in the National Science Museum (Nat. Hist.), Tokyo.
著者
二村 正之 若原 弘之 宮本 龍夫
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.60-64, 2014-07-29 (Released:2017-08-10)

イナズマチョウ属Euthaliaの幼虫の棘に毒性があるかどうかを調べるために,モニナイナズマEuthalia moninaとビャッコイナズマE. byakko各々5齢幼虫の形態を観察し,さらに被験者(50歳,男性)の皮膚へ直接触れさせる方法により皮膚炎発症の有無を確認する実験を行った.形態観察の結果,E. moninaの幼虫背面の棘に黄色の球状部が多数認められるのに対し,E. byakkoにはほとんど認められないことが判明した.さらに,被験者の前腕部に虫体を付着させる実験で,E. moninaでは虫体が皮膚に触れると疼痛をもたらし,10分後に早くも付着部皮膚に皮膚炎(痒みを伴う紅斑や膨疹)が出現し,48時間後にはそれが幼虫の形に浮き出るほど進行した.結局,これらの症状が消失するまでに120時間(5日間)以上を要した.これは既に毒棘による皮膚炎の発症が報告されているマダラガ科Zygaenidae幼虫による反応に近いと考えられた.一方,E. byakkoでは皮膚にそのような変化はまったく認められなかった.以上の結果から,E. monina 5齢幼虫の棘から毒液が分泌される可能性が示され,これが,背部の棘にある黄色の球状部に含まれている可能性があることが示唆された.一方E. byakko 5齢幼虫にはそのようなことがなかったという事実は,毒棘がEuthalia属幼虫すべてに存在するものではないことを示している.
著者
西尾 規孝
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
やどりが (ISSN:0513417X)
巻号頁・発行日
no.199, pp.36-39, 2003-12-20
著者
中村 和夫
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
やどりが (ISSN:0513417X)
巻号頁・発行日
vol.2017, no.253, pp.38-41, 2017-06-30 (Released:2018-01-01)
参考文献数
13
著者
宮田 彬
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.43-46, 2007-01-10

晩秋の寒い朝,夜の間に灯火に来たアケビコノハやムクゲコノハの胸部に触っても彼らは飛ぶことが出来ない.その代わり翅を開いて,逆立ちするような威嚇姿勢を取り,後翅の目玉模様を露出し,翅を小刻みに振動させる(Miyata, 2005).目玉模様を持つガは敵に出会うと,自らその模様を見せびらかすらしい.しかし気温が高い夏の朝,ムクゲコノハに触ると直ちに飛び去る.晩秋の頃と反応が違う.ウチスズメも後翅に目玉模様を持つので,威嚇姿勢を取るかどうか試した.6月の早朝,白布に止まっているウチスズメの胸部をパチンと指ではじくか,触り,反応を観察した.驚いたガは脚を突っ張り尾端や翅の先端を腹方に強く曲げる.そのまま地面に落下する個体や白布に止まったままの個体もあるが,いずれも脚を突っ張って胸部を突き出し翅を腹方に曲げる運動と,力を抜き翅が水平に近くなる運動,つまり一種の屈伸運動を反復する.その運動を初めて観察した個体は地面に落ちてそこで屈伸運動をしたもので,35秒間に6回その運動を繰り返した.また触った時,白布に止まったままの1頭は35秒間に20回屈伸運動を繰り返した.屈伸運動のリズムは受けた刺激の大きさ,屈伸運動を始めてからの経過時間によって違う.この運動は後翅にある目玉模様を一層際だたせる効果があると考えられる.同属のコウチスズメの場合は,驚くと翅を広げ後翅の目玉模様を露出する.触った後,相当長い間,少なくとも10分以上,翅を開いたままであるが,ウチスズメのような屈伸運動は見られない.また後翅の赤いモモスズメやウンモンスズメも調べたが,触ると一瞬翅を開くだけで,コウチスズメのように長い時間後翅を露出することはなかった.その他のスズメガも同様であった.ウチスズメは古くから知られている普通種なのに今回発見した威嚇行動を,今まで誰も報告していなかったのは誠に不思議である.ヨーロッパと北アフリカに分布するウチスズメの近縁種S. ocellatusでも同様の行動が見られると予想される.誰か調べて欲しい.またヒメウチスズメは九州には産せず,威嚇行動が見られるかどうか調べることが出来なかった.