著者
三野 善央 下寺 信次 井上 新平 藤田 博一
出版者
大阪府立大学社会福祉学部
雑誌
社會問題研究
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.41-48, 2005-03

背景:家族心理教育によって統合失調症の再発が予防されることが明らかにされてきた.一方,それにより医療コストが節約されるか否かは明確ではない.研究方法:研究対象は再発リスクの大きい高EE (expressed emotion)の家族と共に生活する統合失調症患者とした.心理教育群は家族が心理教育および集中的家族セッションを受けた者および心理教育とその後のサポートを受けた者,合計30名とし,比較対照群としては過去の著者らのコホート研究での高EE群を選んだ.これら対象者の退院後9ヵ月間の医療コストを比較検討した.このとき身体疾患に関する医療費は除外した.外来医療費,追跡期間中の在院期間,および入院医療費,合計医療費の平均値を,心理教育群と比較対照群との間でt検定を用いて比較した.また,合計医療費の分布を考慮して,全対象者の合計医療費の中央値で二分し,中央値以上の医療費が必要だった患者の割合をカイ二乗検定を用いて比較した.結果:外来医療コストの平均値を比較すると,両群間で有意な差は認められなかった.入院医療コストを比較すると,心理教育群の平均値は27万円で,対照群の47万円よりも小さくなっていたが,その差は有意なレベルには達しなかった.心理教育群の合計コストは平均50万円で,対照群の71万円よりも小さくなっていたが,やはり有意な差は認められなかった.中央値以上の合計医療コストの割合は心理教育群では23%であったが,対照群では54%であり,有意差が認められた.結論:家族心理教育の再入院予防効果によって,心理教育群の医療コストは対照群と比較して軽減される.