著者
尾崎 哲 森田 仁 下村 泰樹
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.957-968, 1995-04-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
43

東洋医学では心身一如という概念があり, 身体と精神が相互に影響を及ぼしうるとされる。この観点から, 我々は身体疾患に適応される漢方方剤について向精神作用を検討した。そして, 速効性で著明な作用を認めた。しかし, 漢方方剤が〈一定の身体臓器〉に有効であるのと同様, 有効な精神症状は各方剤ごと固有の〈一定の精神症状〉に限られていた。その一環として我々は八味地黄丸に関して向精神作用を検討した。その結果, 意欲賦活作用と抗焦燥作用という, 相反する向精神作用を指摘した。その結果を含めた, 種々の漢方方剤の検討から, 向精神作用の把握には〈五行論, およびその相尅理論〉が有用である事を推測した。しかし, 八味地黄丸の向精神作用には附子が関与している可能性があった。このため今回, 桂皮, 附子を除去した六味丸の向精神作用を検討した。2週後の時点で有効な精神症状は意欲低下, 焦燥感のみで2週後 (4週後) の有効率は66.7% (91.7%), 66.7% (83.3%) と非常に有効であった。その反面, 抑うつ気分の軽度悪化を4週後の時点で41.7%認めた。我々は補剤の長期投与時に, 二次的な精神症状の改善を伴うことを指摘した。そして, これらの知見と今回の結果を総括するためには, 2~4週後以降の時点で〈五行論およびその相生理論〉が有用であると考えられた。また, 附子の向精神作用について種々の方剤との検討から, 火 (か) の補剤である可能性が推測された。また, 陰陽虚実図と五行論の相互関係についても若干の考察を行った。