著者
下里 わかな 下里 綱 仲本 裕香里 金城 知子
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.190-190, 2016

<p>【はじめに】</p><p>病院,施設,在宅生活において食事等の離床時に電動Bedのギャッジアップ機能(以下G-up)を用いる事がある.G-up座位は離床へ至らなくても,坐位姿勢への変化が可能という利点を持つ.一方で,G-upする際に自力で除圧ができず,Bedと接触面にずれが生じ褥瘡,疼痛,不快感を誘発する対象者を経験する。本研究はG-up時にスライディングシート(以下シート)を,身体とBed間挿入時と未挿入時の姿勢変化に対し,座位姿勢計測ソフト(以下rysis)を使用し比較検討した。</p><p>【目的】</p><p>G-up時のシート挿入時が未挿入時より接触圧分散,摩擦軽減を図るという先行研究はあるが,姿勢変化に対する研究は散見されない.本研究はG-up時の姿勢変化に着目し,シート挿入時と未挿入時の骨盤,胸郭,頭部を軸に,角度の優位差について検証する.更に被験者の内観を聴取し,姿勢変化と不快感の関連性を考察する.</p><p>【対象と方法】</p><p>対象:一般男性6名</p><p>使用機器:BedはParamount社製のカインドmotion付き3motor bed,マットレスはParamount社製EVER FIT.シートはラックヘルスケア社のマルチシート(全方向へ摩擦軽減)を使用.</p><p>方法:シート挿入部位は頭部~上後腸骨棘に設定.G-up角度は,端座位や食事の自己摂取へ繋がる事を意識し,Bed最大角度に近い70度に設定.カインド機能を利用して,シート未挿入(なし)群,挿入(あり)群をそれぞれG-up実施.自ら除圧しないよう指示した.加えてG-up時の不快感への評価を,VASを引用し0~5段階評価にて聴取した.G-up70度時に矢状面より撮影した写真を使用し,①骨盤線②胸骨線③頭部線のアライメントをrysisにて360度表記の角度に換算.角度が小さい方が前傾(屈)位を表し,角度が大きい方が後傾(屈)位を表す.シートあり・なしの二群間で得られた角度と内観評価を,対応のあるt検定を用いて比較検討した.</p><p>【結果】</p><p>骨盤後傾角は,シートなし群に比べシートあり群が大きい.胸椎屈曲角はなし群に比べあり群が大きい.頭頸部前屈角はなし群に比べあり群が大きい.</p><p>①骨盤線:なし群235,0度(±7,40),あり群240,5度(±7,48)で優位差あり(P<0,05)</p><p>②胸骨線:なし群41,8度(±4,62),あり群43,3度(±4,41)で優位差なし(P>0,05)</p><p>③頭部線:なし群237,5度(±2,95),あり群230,1度(±3,25)で優位差あり(P<0,01)</p><p>内観評価:なし群が2,17(±1,33),あり群1,50(±1,04)で優位差あり(P<0,05)</p><p>【考察】</p><p>G-up座位の特徴は端座位に比べ,坐骨-臀部から胸郭も含め支持面が広いと言える.本研究よりシートあり群の方がなし群に比べると不快指数が低く,G-up座位姿勢は骨盤後傾位,頭部は前屈位をとる事が分かり,相互の関連性が示唆された.これはBedのカインド機能を使用しG-up座位へ移行時に,シートが胸郭部の接触圧分散と摩擦軽減に働き,坐骨・骨盤帯にかかる圧力を軽減した事で,骨盤後傾位並びに腰椎前彎を抑えられた結果と考える.また,頭部も同様にシートがある事で後屈位とならず,負荷の少ない前屈位を保持できたと考える.胸郭部は構造上可動性が小さく,角度による優位差は認めなかったが,胸郭部の接触圧分散や摩擦軽減が影響し,骨盤,頭部の姿勢変化に影響したと推察する.</p><p>【おわりに】</p><p>スライディングシートは移乗での使用が一般的だが,G-up時に使用する事で安楽なBed上座位を取る事が確認できた.不快感なくBed上座位へ移行できる事は,生活行為を再獲得して行く際に重要で,将来の生活に彩りと希望を与えることに繋がっていく.今後更に多角的視点での検証を増やし,いかに実際場面で応用できるか研究を重ねていきたい.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究は被験者へ十分な説明を行い,発表に際して同意を得ている.</p>