- 著者
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中井 春香
武村 雅之
- 出版者
- 公益社団法人 日本地震工学会
- 雑誌
- 日本地震工学会論文集 (ISSN:18846246)
- 巻号頁・発行日
- vol.17, no.2, pp.2_23-2_37, 2017 (Released:2017-05-30)
- 参考文献数
- 26
1945年1月13日午前3時38分に発生した三河地震(M=6.8)の特徴としては, 全潰家屋数に対して死者数が多い地震であることがあげられる.その要因を明らかにするために, 戦時中であったこと, 地表地震断層が現れたこと, 1944年東南海地震(M=7.9)の約1か月後に発生したこと等に着目した.本稿では, それらの要因を定量化するため全潰家屋数を死者数で割ったNk値を用いて検討した.三河地震のように震動を主な被害要因とする地震では, 通常Nk値は10程度となるが三河地震はNk=3.1である.戦争の影響についてデータを元に検討した結果, その影響は少なくとも0.4程度Nk値を引き上げることが分かった.次に被害町村を死者数が多い順とNk値が低い順にそれぞれ並べた表を作成した.死者数では震度7となる岡崎平野に位置する町村が上位に並び, 地表地震断層が通った地域が必ずしも上位に並ぶわけではない.一方, Nk値が低い順に並べた場合は地表地震断層が明瞭に現れた町村が上位に多いことが分かった.そこで地表地震断層近傍の町村を一旦除き, 三河地震のNk値を算出すると, Nk値は3.9となり0.8程度Nk値を引き上げることが分かった.さらに上位に並んだ断層近傍地域を細かく見ていくと断層の上盤側の断層から約1kmの範囲で, 縦ずれの断層変位がより多い地域において被害が集中的に発生していた.特に縦ずれの断層変位が多い地域でNk値が1.1から1.2と低いことが判った.このことは, Nk値を小さくする原因として地表地震断層近傍で現れる断層変位や, 震源近傍の特有なパルス的地震動(キラーパルス)などが建物を一瞬にして全潰させて一挙に多くの死者を出したことを示唆するものである.また, 東南海地震が1か月前に発生していたことや発生時刻が真冬の夜中であり迅速な避難をより困難にしたこともその傾向を助長した可能性がある.