著者
中山 まき子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.51-64, 1992-12-25 (Released:2017-07-20)

本稿では既婚女性15名の妊娠・出産に関する予定質問を含む自由会話方式の聞き取り調査 (1987-90) -特に初めての妊娠体験の語り-に基づき, 現代日本社会における, 子どもを持つことに関する意識を探る。具体的には, 子どもを<授かる>・<つくる>という語彙の用いられ方, 意識の存否, およびそれらの内容のあり方を明らかにすることを目的とした。その結果 (1) 自分の妊娠に関して語る際の日常的表現としては<つくる>という語彙が頻繁に用いられ, <授かる>は用いられることが少ない。 (2) しかし妊娠状況の意識を語る手段としては<授かる>が現在も用いられる。 (3) その際の<授かる>という語棄は様々な意味で使用されている。例えば, 子どもを<つくろう>と計画的していた女性たちの喜びの表現として/子どもを (まだ) <つくらない>と計画していた女性たちが妊娠した際の落胆を緩和する表現として/生殖技術を用いた妊娠に対して生殖技術を用いないで妊娠した自分の状況を語る表現としてなどの意味をみいだすことができる。総じて今日の子どもを<授かる>という意識表現はコンテクストに依存して変化し, 多義的意味を包含する。よってこの意識は子どもを<つくる>という意識とは「位相が異なる」ものであった。従って両者は対立することなく複合的に存在する場合があることを示した。この結果を基に, 日本人の生命誕生に関する認識とその時代的変化を考察した。