著者
中島 一稀
出版者
首都大学東京
巻号頁・発行日
pp.1-44, 2017-03-25

この研究は身体的温かさと性格的温かさの相互作用を身体性認知の観点から検討したものである。実験1では身体の温かさ/冷たさ感覚が自己・他者評定に与える影響を実験室実験によって検証した。その結果、想定していた温度の影響は見られず、「暑い中で冷たいものを持つと自己および他者の評定が高くなる」という気分一致効果が確認された。また、この効果は男性参加者の性役割態度や評定順序によって調整されており、伝統主義的性役割観を持つ男性と平等主義的性役割観を持つ男性の“男女間の序列意識”や“女性のサブカテゴリー表象”の差異が気分一致効果を促進または抑制すること示唆されていた。実験2では実験1とは因果関係を逆転させ、評定他者の性格的温かさと有能さが周囲の環境の温度推定に及ぼす影響を質問紙実験によって検証した。その結果、女性参加者は直前に見た人物の性格的温かさや好意の高さによって室温推定を高めることが示唆されていた。これは性格的温かさ特性と有能さ特性が負の関係となっている他者を見ても身体性による影響が見られることを示唆していた。ただし、室温推定のパターンには性差が確認され、伝統主義的な男性ではキャリア的女性を見ると室温を高く推定するようになるという、女性とは異なる結果が見られた。また、実験1で示唆された「性役割観と評定順序の影響」についても検証を行ったが、自己評定については事前評定の高低によって変化量が既定される回帰が実験要因の影響と交絡する形で見られた。他者評定については男女問わず家庭的女性を“温かく能力が低い”と、キャリア的女性を“冷たく能力が高い”と評定することが示されていた。また、伝統主義的な参加者は、キャリア的な女性に対する好意をより高く評定することが確認された。温度による影響が男女で異なる点や他者評定が性役割態度で異なる点については、更なる検証とより包括的な解釈を要することが示唆された。