著者
中島 博次
出版者
Society of Oto-rhino-laryngology Tokyo
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.171-202,135, 1974
被引用文献数
1

外鼻錐体は顔面の中央に位置し人の顔貌の構成に重大な役割を演じており, これに対する整容のため外鼻錐体を構成する諸要素を充分把握することが重要であることは論をまたない、しかるに私が猟渉し得た内外の文献をみるに, 外鼻ことに外鼻軟骨の検索は真に少なく, 部分的に触れているものはあるもののまちまちで, 外鼻軟骨そのものについての記述はほとんど無いのが現状である。当教室高橋教授は, 以前より内鼻や外鼻を研究するに当つて内鼻外鼻を一連のものとして考えるという方針できており, 内外鼻の関係ことに鼻中隔や側壁を中心とした研究と意義を強調されてきた。更に外鼻の重要な構成要素である外鼻軟骨についても, 教室の天野が比較解剖学的研究を, 沖久が胎児の鼻尖軟骨の発生学的研究を行つているが, 私もその一環として成人の外鼻軟骨を中心とした機構を検索した次第で, この研究の一部はすでに高橋教授とともに数回にわたり報告を行つているが, ここにその後の検索例数の増加による成果も併せて報告する次第である。<BR>35才より78才にわたる19体の屍体外鼻の連続水平断切片および連続前額断切片標本を作成し, さらに立体的観察を期すため4体の裸眼ならびに拡大視野による局所解剖学的検索も併せて行つた。<BR>その結果, 鼻背軟骨と鼻尖軟骨との重なり合う部位にN宇の中央斜線にあたる部分に軟骨が恒常的に左右対称に存在する。これは付近にみられる種子状軟骨に比し大きくまた水平位に近い斜位に存在する。この軟骨は種子状軟骨と別個のもので, この軟骨を介在軟骨Intermediate cartilageと命名した。外鼻軟骨の名称については諸家により名称が一致していないが, 私の検索の結果高橋教授が提唱するごとく,<BR>中隔鼻背軟骨<BR>鼻尖軟骨<BR>副鼻軟骨小鼻翼軟骨lesser alar cartilage<BR>種子状軟骨seas moid cartilage<BR>介在軟骨interculated cartilage<BR>とするのが適切であると思う。鼻尖軟骨は鼻翼の構成に関与していると述べている者もあるが, 私の検索の結果では鼻尖軟骨は鼻翼の構成には関与していない。外鼻軟骨相互および鼻骨との関係ではそれぞれ相当の重なり合いが認められた。すなわち鼻背軟骨は下外側において鼻尖軟骨の下に相当入り込んでおり, 例外的にその程度の少ないものもあつたが重なりを有していることは確認できる。鼻骨と鼻背軟骨との関係も同様で, 詳細に観察すると相当の重なりを有しており両者は結合織によりしつかりと保持されている。鼻背軟骨下端は多くの切れ込みを有しており, 一枚の板状の軟骨ではない。その切れ込みには強固な線維性結合織が入り込んでいて肉眼的には余りよく観察できないが拡大鏡下で観察すると切れ込みの存在とそれが相当上位までおよんでいるのが観察できた。Strastmaの報告では鼻背軟骨の下3分の2におよぶとしているが, 私の観察では下3分の1程度までのようである。なお鼻背軟骨前下端の複雑さはSupra-alarsulcus, 鼻中隔発育の影響の集約的なあらわれと考えた。<BR>以上, 軟骨, 骨, 軟部組織等の外鼻錐体を構成する諸要素のあり方を検索した結果, 私は外鼻錐体は単なる組織の集まりではなく気道保持を目的とした一つの器官と考える。