著者
中島 晋作
出版者
日本映画学会
雑誌
映画研究 (ISSN:18815324)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.28-51, 2021-12-04 (Released:2022-07-05)
参考文献数
35

本稿は、増村保造の映画『痴人の愛』(1967年)における身体表象に着目し、原作小説との比較を通して、60年代以降の増村映画に顕著に現れる「動物性」の諸相を明らかにしようとするものである。構成としては、はじめに谷崎潤一郎による小説『痴人の愛』が、谷崎の 西洋偏重的な思想を色濃く反映させた作品であることを確認する。ここで議論の中心となるのが、小説のヒロイン、ナオミの身体性である。次に、増村保造による小説のアダプテーションにおいて、ナオミの身体表象が小説からいかに差異化されているのかを分析する。これにより、増村映画においては、ナオミに動物的ともいえる身体性が現れることを指摘する。最後に、この身体の「動物性」がいかなる意味を持つのかについて論ずる。議論から、増村にとっての身体の「動物化」は、西洋の模倣としての「近代主義」を乗り越える新たな身体として現前したものであると結論する。