著者
久保 雄司 中川 力夫
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
雑誌
Synthesiology = 構成学 (ISSN:18830978)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-12, 2018
被引用文献数
3

近年は日本食の持つヘルシーさが外国人に評価されているが、納豆が好きな外国人はあまりいない。納豆の糸引きが多くの外国人に受け入れられないからである。そこで茨城県は、フランスやドイツ等の諸外国に納豆製品を輸出することを目指して、糸引きの少ない納豆を開発するプロジェクトを立ち上げた。糸引きの少ない納豆を製造する手法には、容器の工夫や糊料の添加などの方法もあるが、我々はメーカーが新たな設備を導入しなくても糸引きの少ない納豆を製造するには納豆菌(バチルス・サブチリス)の育種が必要と考え、継代培養で生じた自然変異株の選抜による育種に取り組んだ。このプロジェクトにおいて我々は、粘性物質の生産量が少ない特殊な納豆菌を選抜し培養することに成功し、IBARAKI ℓst-1と命名し、本菌で発酵させた納豆製品を「豆乃香」と呼称することにした。「豆乃香」とは豆の香りという意味である。「豆乃香」の特性評価を行ったところ、一般的な納豆と比較して粘性物質と粘度は大きく減少し、硬さ・色・栄養成分(ポリアミン)は同程度で、官能検査結果ではパネラーから糸引きが少なく食べやすいという評価を受けた。県内納豆メーカーは糸引きが少ないという特性を活かした「ディップソース、ペースト、ドレッシング等の新たな納豆加工品」の開発にも取り組んでいる。