著者
中川 定明
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.625-631, 1995-01-20
被引用文献数
1

College of American Pathologistが編集した顕微鏡的病変のコード表Systematized nomenclature of medicine (SNOMED)には約4万種の形態学的病変名がコード番号で分類されている。それはウイルヒョウが細胞病理学説に従って「物質代謝障害」「循環障害」「炎症」「再生・修復」「腫瘍」「奇形」の範疇に大分類したもので,すべての疾患が示す病変を分類・鑑別するためのものである。疾患名は同義語をふくめておそらく万単位にのぼる。一方,中国伝統医学には永い伝統があるので多数の疾患名があるが,西洋医学のそれに較べれば比較にならないほど少ない。中医学では疾患を八綱弁証,気血津液弁証,臓腑弁証,六経弁証,衛気営血弁証,病邪弁証,外感熱病気弁証の7つの弁証で判別したせいぜい百余の『証』としての機能異常群にまとめている。『証』は疾患の類別ではなく複数の症候の全人的な類別である。東西医学にはこういう相違があるが,「症状」と「病変」には東西に変わりはない筈であるから,疾患を病理解剖学的に追求する西洋医学と全人的・機能的に追求する東洋医学の両者に共通するものは「症状」であり「病変」である。この視点に立って,全身に分布する「病変」および「機能性疾患」から病気を眺めて比較・対照をすることを企図して,その可能性の根拠を述べた。