著者
原田 英昭
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.861-867, 1997-03-20
被引用文献数
3

当帰芍薬散が効果があったと思われる5症例につき報告した。臨床症状, CT, MRI, SPECTなどでアルツハイマー病と診断し, 脳代謝賦活剤を投与後しばらくしてから当帰芍薬散を上乗せして最低1年以上経過観察した。その結果, 徘徊, 多動, 意欲低下などの痴呆の周辺症状に効果を認めたものや, 知能スケールが改善した例もあり, 全体的に多少の改善, 進行の遅延が得られたという印象がある。アルツハイマー病では種々の神経伝達系の機能低下がみられ, とりわけアセチルコリン系の低下が著しい。当帰芍薬散はアセチルコリン合成酵素(CAT)の活性をたかめたり, ムスカリン性レセプターを賦活してアセチルコリンニューロンの機能を改善することが知られており, こうした面でアルツハイマー病の症状が多少改善した可能性がある。アルツハイマー病に有効な治療法はない現状では, 当帰芍薬散は試みてよい薬剤と思われる。
著者
小暮 敏明 巽 武司 佐藤 浩子 伊藤 克彦 関矢 信康 並木 隆雄 寺澤 捷年 田村 遵一
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.61-68, 2007-01-20
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

和漢薬が奏効した線維筋痛症(FMS)の二例を提示し,FMSの臨床像と甘草附子湯証との類似点を考察した。症例1は52歳,女性で2001年左手関節痛を自覚,その後両側の肘,肩,足関節痛とその周囲の筋痛が出現。近医リウマチ科で精査を受けたが異常はなくFMSと診断された。NSAIDsが無効のため,04年当科を紹介受診した。桂枝二越婢-湯加苓朮加防已黄耆湯葛根を投与,内服2ヵ月で疼痛は半減。06年3月VASは20%となりNSAIDsは不要となった。症例2は58歳,女性で10年前から左肘痛を自覚。2004年から項頸部痛や両側上肢,肩の疼痛が出現し,近医整形外科を受診。頸部X-rayや神経学的に異常がなかったためNSAIDsで経過観察となった。05年3月症状が不変のため4月に当科を紹介受診。炎症反応が陰性でACRのFMS分類基準に適合した。甘草附子湯の3ヵ月の服用でVASは30%となりADLは向上した。
著者
吉良 枝郎
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.757-767, 2006-11-20

なお攘夷の激しい維新当初より,京都官軍病院にイギリス公使館医を医師として招聘し,ついで御所への西洋医学の導入を認め,典薬寮医師として蘭方医を採用し,元年末には医学校である大学東校を開校し,近い将来での医師開業試験の実施を布達した。明治新政府は,わが国の医学として,初めて,積極的に西洋医学を受容した。漢方医の影響下にあった旧幕府とは,極めて対照的である。戊辰戦争で貢献した英国公使館医は,大学東校の病院長兼医学教師に就任した。政府内には,従来のオランダ医学に代わって,わが医学の教師役はイギリス医学がとの雰囲気があった。一方長崎医学校で学んだ若い蘭方医達は,世界の医学界をリードしているとして,ドイツ医学のわが国への導入を提案した。厳しい討議のすえ,ドイツ人医学教師の招聘が決定された。初代のミュルレルは,伝統的医学教育に固執する日本人教師らの抵抗を抑え,厳しく,徹底的に医学校を改革した。医学生は,予科3年,本科5年に亘り,基礎科学,基礎医学,臨床を,ドイツ人教師によりドイツ語で教育された。極めて特異な事であったが,わが国初の医制を作り上げるためには欠くべからざる事であった。
著者
岡田 裕美 渡辺 賢治 鈴木 幸男 鈴木 邦彦 伊藤 剛 村主 明彦 倉持 茂 土本 寛二 石野 尚吾 花輪 壽彦
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.57-65, 1999-07-20
参考文献数
19
被引用文献数
5 3

症例は60歳男性で平成9年6月3日腹部不快感を主訴に北里研究所東洋医学総合研究所を受診した。半夏瀉心湯の投与により腹部症状は軽減したが, 半夏瀉心湯の服用は6月より8月まで継続した。同年8月3日より悪寒, 発熱, 倦怠感が出現した。肝機能障害を指摘されたため, 半夏瀉心湯を中止し小柴胡湯を投与した。14日当院漢方科入院となり, 抗生剤, 強力ミノファーゲンCにて経過観察した。入院時の胸部レントゲンにて左上肺野にスリガラス状陰影を認めたため, 小柴胡湯を中止した。肝機能障害は改善したが, 呼吸困難が顕著となり, 捻髪音を聴取するようになった。胸部レントゲン, 胸部CTにて間質性変化を確認し, 9月5日よりPSLの投与を開始した。経過は良好で症状, 画像所見, 検査所見とも改善を認めた。DLSTは小柴胡湯, 柴胡, 黄苓で陽性だった。当初小柴胡湯による間質性肺炎を疑ったが, 小柴胡湯投与前の他院での胸部レントゲン写真でも左上肺野のスリガラス上陰影を認めたため, 本例は半夏瀉心湯が主でさらに小柴胡湯の投与により薬剤性の肝障害ならびに間質性肺炎を発症したものと考えられた。
著者
長坂 和彦
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.699-704, 2007-07-20
被引用文献数
1

二千年以上にわたり漢方が永続し得だのは,「漢方は効く」この一点に尽きる。二千年前の薬が効くのは,人の体が二千年前とほとんど変わらないからである。一説には400万年の間,人はほとんど進化していないという。しかし我々を取り巻く環境は著しく変化し,アレルギー疾患のような新たな証を引き起こす要因となっている。日本漢方は証を決定する上で,傷寒論・金匱要略を重視している。それ以外の考えを排除する,あるいは傷寒論・金匱要略に収載されている薬方以外は用いない,という行き過ぎと思われる意見もある。しかし証を決定する上で根底を成す傷寒論・金匱要略は時代より変化しているのではないかと思う。傷寒論は林億らの宋改を経ている。金匱要略はまだしも,傷寒論は宋改を経ていない医心方や太平聖恵方と異なっている点も多い。我々は,張仲景が書いた傷寒論・全国要略を重視するといいながら,実は,林億らが書き換えた,あるいは,それ以前に書き換えられていた傷寒論に基づいて証を決定している可能性が高い。ここで注意してほしいのは,書き換えたことがいけないということではない。むしろ,宋板傷寒論は現代によりマッチしていると思っている。我々は,古いスタイルから脱皮することを恐れてはならない。漢方医学は四診をことのほか重視する,といわれているが,これは単に漢方医学が成立した時点で四診くらいしか情報を得る手段がなかったからである。現在の医療機器の進歩にはめざましいものがある。白血球やCRPが上昇している場合は,闘病反応が強いので実の反応と捉えることも可能である。我々は,有用であるものは可能な限り取り入れ治療に当たるべきである。これは,傷寒論の序文にある,「博采衆方」という考えに合致すると信ずる。
著者
堀口 勇 大竹 哲也 岡田 貴禎 富田 行成 志賀 達哉
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.383-386, 2003-03-20
参考文献数
10
被引用文献数
2 3

三叉神経痛に対してはcarbamazepineが特効薬として使用され,根治的にはJannettaの手術が行われる。しかし手術を望まずcarbamazepineも無効となって,激痛に悩まされる例もある。今回,漢方薬が有効であった症例について検討した。漢方薬によりcarbamazepineが不要となったものを著効例,半減できたものを有効例としてまとめると,著効例7例,有効例7例であった。処方は呉茱〓湯が2例,五苓散を含む処方が9例、柴胡桂枝湯・当帰四逆加呉茱〓湯生姜湯,麻黄附子細辛湯が各1例となった。三叉神経痛は上小脳動脈やその周辺血管の三叉神経への癒着・圧迫があり,三叉神経の浮腫が生じていると考えられている。限局した領域における浮腫であっても五苓散や呉茱〓湯などはその利水効果によって効果を発現できるのではないかと思われた。14例の検討から三叉神経痛は水毒・表寒証が多いと考えられた。
著者
松村 崇史
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.37-40, 2002-03-20
参考文献数
18
被引用文献数
1

急性期RSDの5例に対し柴苓湯と六君子湯を投与し,疼痛(VAS),腫脹,手指運動障害について検討した。うち4例が6週以内に疼痛が半分以下に減少し有効であった。腫脹,手指運動障害は疼痛に先行して改善する傾向があった。RSDの急性期は局所の炎症が主体であるが,発症しやすい精神的素因や発症後の気虚があり,全身的疾患の部分症と認識する必要がある。それゆえ柴苓湯と六君子湯による漢方治療は合理的な治療法と考えられた。
著者
森脇 義弘 杉山 貢
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.287-290, 2008-03-20
参考文献数
17
被引用文献数
1

鍼治療後の両側気胸症例を経験した。58歳の女性,体調不良に対し頸部から腰部にかけて約20箇所の鍼治療直後に胸部違和感,呼吸困難感自覚し,救急搬送された。意識清明,血圧200/110mmHg,脈拍数151回/分,呼吸数36回/分,苦悶様顔貌,発汗著明であったが,チアノーゼや気道狭窄音,呼吸音の左右差はなく,心臓超音波,心電図で異常なく,血液検査でも白血球上昇以外異常はなく,動脈血ガス分析(酸素101/分)はpH7.215,Pao_2118.7mmHg,Pco263.9mmHgであった。前医鍼灸院から情報を得て,胸部単純X線検査で両側気胸と診断,両側胸腔ドレナージを施行した。血液ガス分析はpH7.326,Pao_2181.6mmHg,Pco_242.8mmHgと改善,症状も消失し,第13病日退院となった。考察・結論:気胸など鍼治療の合併症が生じると鍼治療担当者とは別の医師が治療を行うことになるが,鍼治療合併症に対する対応体制は未発達である。今後は,鍼治療時のインフォームドコンセントの充実と合併症時の鍼灸治療者と救急医療機関との連携あるシステム構築が必要と思われた。
著者
兵東 巌
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.437-446, 2000-11-20
参考文献数
16
被引用文献数
4 5

1995年2月から1998年2月までに岐阜大学医学部口腔外科を受診した舌痛症の患者16例に対して, 漢方医学的診断(証)に基づいた治療を行った。舌痛症の患者は, 男性3名女性13名で44歳から75歳であった。使用した漢方薬は延べで加味逍遥散8例, 人参養栄湯6例, 立効散5例、人参湯, 帰脾湯各4例, 黄連解毒湯3例, 半夏白朮天麻湯, 五苓散, 甘麦大棗湯, 十全大補湯, 散棗仁湯各2例, 小建中湯, 香蘇散, 竜胆瀉肝湯, 柴苓湯, 猪苓湯, 三黄瀉心湯, 牛車腎気丸, 清心蓮子飲各1例で投与期間は16日から396日であった。舌痛症の原因はいまだにはっきりしていないのが現状であるが, 治療法として証に基づいた漢方薬治療は効果的であった。